がんばってと言うきみは至極残酷


「ねぇリオ、やっぱり帰ろ?」




「ここまで来て何言ってるの」







逃げ腰気味の私の言葉に、リオは呆れた様子で振り返った。


そして私の手首を掴むと歩みを再開させようとする。







「ほらっ、行くよ」




「で、でも・・・・」




「でもじゃないわよ。あと少しで着くから」




「だ、だって・・・」




「もぉ、マイ?」







私の煮え切らない態度に、さすがにリオも業を煮やして振り返る。


そんなリオを見上げる私の目には薄っすらと涙・・・


行き先が行き先なだけにさっきから緊張しっぱなしだ。


今からこんな状態なら、辿り着くまで心臓がもちそうに無い・・・


そんなガチガチ状態の私の肩を少し強めに2、3度叩いてリオが口を開く。







「マイの人見知りはこれぐらいしないと直らないって!」




「でっでもぉ〜・・・」




「直したいんでしょ?

なら私と一緒に来る!」







確かに幼い頃から人と話すのが苦手で、さすがに働き始めてからも四苦八苦する状態に困っていたのは本当だ。


しかし・・・








「うぅ・・・でも・・・ホッホストクラブなんて」








直すのにいい場所があると言うから着いてきたんだ。


しかし行き先がホストクラブだなんて・・・


誰だって逃げ腰になると思う。


そんな私の様子に、リオは安心させるように笑みを浮べた。







「大丈夫よ。

兄さんが働いてる店だし、私も傍にいるから」




「・・・・・うっうん」






そう言って再び手を引かれ、今度こそ店に向かい歩みを再開させる。


しっとりとした雰囲気な外観が素敵なお店に着いたのは、それから少ししての事だった。



















「リオさん、お久しぶりですね。

確か前回の来店は先月の2日でしたね」




「久しぶりね、ファルマンさん。

その記憶力には毎回感心しちゃうわ」




「それほどでは・・・・・今日は2名様ですね。

すぐにお席まで御案内しましょう」








お店に入ってからずっと、私はギュッと両手でリオの手を握り締めていた。


何かもう雰囲気が違う・・・


擦れ違う男の人は皆愛想のいい笑みを浮べて過ぎていく。


しかしそれにどう反応していいのか分からない・・・


結果、私は俯いてリオについて行くのみだ。






黒い壁に、白いテーブルとソファーが良く映える。


床のタイルも黒いが、通路の部分のみが白いので少し落とされた照明でも問題ないみたい。


案内された席に座って、私はそのままチラッと周りへと視線を向ける。


思ったより店内にいるお客さんはまばら・・・


まだ早い時間帯のせいだろうかと疑問に思ったその時・・・







「おぉーリオ!待ってたぞ」




「あーハボさん、久しぶりね!」







私達のテーブルへとやって来たのは、どこかタバコの匂いがする男の人。


リオはその人と親しそうに喋り始める。






「お前この頃全然来てくんねーから」




「最近ずっと仕事が忙しくて」






そう苦笑を浮べるリオ。


そして突然私の握っている方の手をグイッと前へと引っ張った。


つられて上に倒れる形で前に出た私を示して、リオが続けて口を開く。






「で、この子がメールで言った私の友達のマイ。

ホストクラブ始めてだから緊張しちゃって」




「あぁ、この子が?

俺はハボック。ヨロシクな」




「あっ、よっ宜しくお願いします・・・」






人好きしそうな笑みを向けられ、顔に熱が集まる。



私は慌てて身を起こすと、リオの腕を抱き締めるような形で視線から逃げた。



リオは私のそんな様子に大きな溜息を吐く。







「もぉ〜挨拶ぐらいでこの調子じゃ、話なんて出来ないんじゃないの?」





「まぁそう言うなって。

え〜っと、とりあえずマイちゃんにも誰かついてもらわねーとな・・・」




「あぁ、そうよね!

マイにメニュー見せてあげて?

この子の人見知り具合は見ての通りだから、もう今日は一人に相手してもらった方がいいと思うの」








私一人訳が分からないまま、リオとハボックさんの間で話がまとまったらしい。


ハボックさんは通路を通りかかったメガネをかけた小柄の男の人を引きとめると、一言何かを告げる。


するとその男の人は頷くと、一度奥へと戻りアルバムのような物を持って戻ってきた。


リオはそれを嬉々とした様子で受け取ると、テーブルの上にドンッと置く。







「さぁマイ!選んで!!!」




「えっ?」







リオの言葉に自然と目を向けると・・・







「なっ、何これ?」




「この店のホスト全員の写真とプロフィールが載ってるの!

私はもうハボさんを指名しちゃってるから、マイも良さそうな人選んで!」




「えっ選んでって・・・」








急にそんな事言われても、選べるわけが無い。


半ば泣き出しそうな思いで私は首を横に振った。






「いい!いいよ!

私一人で大丈夫だから」




「あのね・・・・・何のために来たと思ってるの?」







呆れ顔のリオ。






「本指名選ぶわけじゃないんだから、適当に選んじゃいなって」






そう言ってメニューを引き寄せられ、仕方なく目を向ける。


しかし数秒見て、やっぱり無理だとリオの腕に顔を押し付けた。






「もぉ〜マイ?誰か呼ばないと始まらないって」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあリオのお兄さん」




「それは却下」







私の最大の妥協案は、リオに短く切り捨てられた。


思わず恨みがましく見上げる。


すると降ってきたのは溜息だった。







「あのね、兄さんの営業姿なんて間近で見たくないって普通。

・・・こう遠くから見るくらいが笑えてちょうどいい。」








そう言って視線を動かすリオ。


その先を辿っていけば、黒髪で大人な笑顔の良く似合うリオのお兄さんがいた。


別にリオのお兄さんと親しいわけではない。


リオの家に行くのに、数度顔を合わせた程度だ。


それでも、全く知らない人よりかはマシだと思ったのに・・・







「ほら、マイ?少しくらい好きなタイプに当てはまる人いないの?」








ページを捲るリオ。


しかし私の写真を見ようともしない態度に大きな溜息を吐いた。







「あーもーー、こうなったら私が決めてやる!

ハボさん!私達と歳が近くて今空いてる人っている?」





「ん?あーーーそれなら・・・」







ハボックさんは店内をグルッと見渡す。







「・・・・・・あ〜大将がいるな」





「じゃーその人呼んじゃって!」





「リオ〜・・・」







さっさと決めてしまうリオに、本気なのかと泣きたくなる。


しかし実際にハボックさんはまたメガネをかけた小柄な男の人を呼びつけて何かを伝える。


・・・・私は、今すぐにでも帰ってしまいたい気分に襲われた。






















がんばってと言うきみは至極残酷






(無理、やっぱり無理!)


(何言ってんの、ここまで来たらいい加減腹括りなさい)



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