ふと。 自分の中に生まれつつある『モノ』に気付いた瞬間、括目した。そんなものを持つはずはなくて、今までも、これからも持つつもりのなかったもの。 ((ああ、でも)) 「見なかった振りをすりゃあいいだけの話だ」 「なかったことにすればいいだけだよ」 実際、今までだって自分に都合の悪いものはそれがなんであろうと自らの手で消してきた。今の今まで出来ていたことが、現在の自分に出来ないはずもない。 そう繰り返して、瞳を閉じた。 そして再度開く。 閉じた瞬間に閉じ込めて蓋をしたもの。そうして、閉じ込めて蓋をしたことすら忘れて。瞳を開けば、いつもどおりの世界が広がっていて、にやりと、口角を上げた。 ああ、ああ。 「俺の世界はこうでないといけねえんだよ」 「僕の世界は、これでいい。これが、正しいんだ」 それを繰り返す僕らは。 俺らは。 嫌なことに酷似している。 目指すものも、支えたい人間も、ただその人のためにあろうとするところも。それゆえに、己を顧みないところも。だから近いのに、ほんの少し、一定の距離を開けて接するところも、よく似ている。誰に言われずともわかっている。それが同族嫌悪であるということ。わかっているから、わかりすぎているから、口に出したくなくて苛立って。 それでも。 己に一番近い存在であると、自分の代わりにもしなれる人間がいたとしたらこいつしかいないとわかっているからこそ、離れられない。口では言わないけれど内心は互いにそう思ってるだなんて、通じ合ってるみたいで気持ち悪いから、言わない。 (俺らは、それでいいんだ) (そうでないといけない) 近いけど、遠い。 代わりになれても完全にその人にはなれない。 そんなのは当たり前のことで。 傍にあるようでいて対局。 それでいい。 「土方さん、お茶が入りました」 「すまねえな。そこに置いておいてくれ」 「はい。それでは失礼しますね」 「ああ」 触れた湯呑は当たり前に熱くて。触れたそこから温度が掌に広がっていく。この熱が誰のものかなんてそんなわけはないのに。 思わずぎゅっと握って、その掌に口づけた。 「沖田さん。あの…お薬を」 「ああ、ありがとう。後で飲むからそこ置いといて」 「……………」 「…何?」 「いえ……」 「心配しなくてもちゃんと飲むよ。大丈夫」 無言の訴えに仕方なく直接受け取る。クスリ、悪戯っぽく笑って受け取ったその時に、微かに触れる温度。 「では、失礼します。ちゃんと…飲んでくださいね」 「うん」 ほんのわずか触れ合った自分の指先に自然と寄っていく唇に、一瞬驚いて、躊躇って。 それでも触れた指先。そこにあるのが己の温度じゃない気がする、なんてそんなことを思った自分を笑った。 「……出来てねえじゃねえか」 「あーあ、馬鹿みたい」 己の願いのためにそれは邪魔だと思っておきながら、心のどこかではそれを欲しているだなんて。触れられないからわずかな繋がりを手繰り寄せているだなんて。 間抜けすぎて笑いが出る。 「新選組副長が聞いてあきれるな」 「こんなはずじゃあなかったのに、な」 それでも。まだ。隠せているだけいいじゃないかと思っている自分が一番、滑稽に思えた。 手に出来ないと知っている、だから、 自分だけしか知らない感情(モノ)。自分だけが知っていればいい感情(モノ)。 110717 土→千←沖。この三つ巴はだからこそ愛しい。 |