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「極秘指定人物?!」

しっかり一分ほど固まってから、眼を丸くさせ詰め寄ってきたシャルナーク。

……まあ、まだハンターにもなってない奴が極秘指定人物って言われたんだもんな、反応としては当たり前だ。

あまりの驚きように初めて勝ったような気がした俺は面白くなって、相次ぐシャルナークの質問に意地悪く笑顔で受け答えた。
しばらくそうしていると、いつまでも笑顔で頷いている俺に毒気を抜かれたのか、シャルナークは力なくソファに身体を預けた。そして片手で顔を覆い、疲れたように声を洩らす。

「あー、面白いとは思ってたけど…、その年でって……もう化け物レベルじゃんか。」

手続きをしたのは全部ジンだから、俺は凄くないんだけどな。
…ああ、あいつが化け物レベルっていうのなら合ってるけれども。

生まれてからの情報が一切無いなんて、流星街出身者くらいしかいない。ジンは俺がそう思われるのを避けて、俺を極秘指定人物に登録した。
本当にただそれだけのことで、それに登録するだけのことを俺はしていない。その辺で拾った石ころに豪華な箱を与えてしまうようなものだ。そこにあるのは大事な凄いものです、と誤魔化しているような、そんな感じ。
だから、正直いたたまれない。
それに合うだけのものが俺にあれば話は別なんだろうけど…。
強さと、世界に認められる力はまた別物だから。ジンを見てると痛いほど分かる。傍若無人だけど、やっぱりアイツは他の人とは違う特別な魅力があるから。
強さの他に人を惹き付ける力、それがジンにはあるから…。

……ま、こんなことを思っても、今はまだどうしようもないけど。

気持ちを切り替えるべく一息吐き、再び口元にからかうような笑みを貼り付けた。

「師匠が化け物レベルだからなぁ…。俺の師匠の偉業ならシャルも知ってると思うけど。」
「有名なんだ?」
「一般人も知ってるくらいにはな。ハンターなら十二支んの亥って知ってるだろ?あれ俺の師匠。」

特にシャルナークなんかは、ハンター試験受ける前に上層部の力関係とか探ってそうだし。
それに加え、十二支んの亥と言えば、ハンターの中でもかなりの変わり種だ。シャルナークなら絶対知ってる。

「……もしかしなくても、ジン=フリークス?」
「そう。やっぱり知ってるんだ。」
「いや、知ってるも何も……あの人、かなりの有名人じゃんか!」

そうだな。
世界的に活躍してるけど、その分起こす問題も多いしな。良い噂と悪い噂が、ごった返してるだろう。そしてその全ての噂は、ジン=フリークスという人物が破天荒で滅茶苦茶な人物だと聞き手に印象付けるものばかりだ。きっと一度聞いたらまず忘れることはないだろう。

「まあ、そんな奴の弟子だから、大抵のことはそれで納得して?」
「これ以上ないくらい納得できる言葉をありがとう。……あ、ねぇ。」

呆れたかのように呟いた後、何かを思い出したかのように言葉をかけてきた。

「なに?」
「師匠がジン=フリークスってことはさ、ルイはもう遺跡ハンターになるって決めてるの?」
「いや?特には決めてないけど。」

ハンターになるって言っても、公共機関が無料で使えることにメリットを感じてるだけだし。俺に出来る仕事があったら、とりあえず経験はしてみたいと思うけど。


「じゃあさ、蜘蛛に入らない?」

……はあ?
いきなりのシャルナークの提案に眉をしかめる。

「蜘蛛の仕事には一切関わらない。他を当たれ。」
「…ルイ、もう少し悩まない?オレだって傷つくよ?」
「阿呆か。俺は盗みを仕事にする気は毛頭無い。」

確かにさっき、俺に出来る仕事があったら、なんて考えたけれど盗みとか人殺しを主とする仕事は、出来るからといって経験したくない。

「ちぇー…、決まってないんなら、いいかなぁって思ったんだけどなぁ。」
「そういう問題じゃないだろ。というか、さっき今の立ち位置から動く気はないって言っただろうが。それに蜘蛛みたいな、ぶっ飛んだ集団に俺が入れるとは思えない。」
「ルイなら大丈夫でしょ。それと、情報担当も一人くらい増えてくれたらオレの仕事が楽になるし。ルイがウチに来てくれたら、かなり嬉しいんだけど。」

嬉しいことを言ってくれるが、それでも駄目だ。

「残念だな。絶対有り得ないから、期待するだけ無駄だ。」
「……どうしても?」

こちらを覗き込むように首を傾げるシャルナーク。
こんなガタイ良いのに、こんな可愛らしい表情が似合うって得だよなぁ…。まあ、そんなので釣られるわけがないけど。

「今更そんな表情しても結果は変わらないぞ。」
「一応、この仕草女の子に人気あるんだけどなぁ?」
「分かってやってる時点でアウトだから。そんで、お前の本性知ってるこっちとしたら胡散臭いとしか言えない。」
「ま、そうだろうね。前にそれ、仲間に言われたことあるし。」

……誰だろう。
性格的にマチさんかな?それとも無自覚でシズクさんとか?

「……あ、仲間にならないとしても個人的に何か頼むんなら大丈夫でしょ?だったら、アドレス教えてくれない?とりあえずオレのは仕事用とプレイベートのやつ両方教えるから。赤外線出来るよね?」
「出来るよ。俺は仕事用とか無いからこれだけな。」

携帯をポケットから取り出し、赤外線をするべくシャルナークの携帯にかざす。
すると、何か気になったかのようにシャルナークの表情が揺れた。

「どうした?」
「いや……、その携帯もしかして改造してる?」
「あぁ、少しだけだけど。」

不便だったら改造しようかと思ってたんだけど、前にサイさんのとこに行ったときに、電池パックを神字の書かれたものに変えられたから、シャルナークが言ってるのはそれだろう。

「ふぅん……、ちょっと貸してくれる?」
「何もしないんならな。はい、どうぞ。」

気づく人は気づくもんなんだなぁ、と思いつつ手渡した。

「……ねぇ、もしかしてルイ、サイと知り合い?」

暫く難しい顔をして携帯を見つめていたと思ったら、不意に溜息を吐いた後、呆れたようにシャルナークが聞いてきた。

え、そんなピンポイントで聞いて来るってことは…

「そうだけど、シャルもサイさんのこと知ってるの?」
「やっぱりか。……じゃあ、その携帯、充電は電気じゃなくてオーラで出来る仕様になってるでしょ?」

……そこまで知ってるということは、シャルってサイさんの顧客、と思っていいんだよな?

あの人の能力は便利だけど、物質に神字を書くことが絶対条件だから、ある程度念に精通してる人ならば直ぐに能力が分かってしまう。顧客だというのなら、知っていても不思議ではない。

「えーと、ということは、シャルの携帯もサイさんの……?」
「そう。それとオレ、小さい頃あの人に機械の扱い方教わったしね。だから、サイとは弟子兼顧客、っていう関係になるわけ。」

……弟子?しかもシャルの小さい頃?

思っていたよりも深い関係に驚きつつ冷静に考える。

じゃあ、もしかしなくてもサイさんって流星街出身…?
ということは、シャルだけでなく他のメンバーとも接触がある、と考えた方がいい、と。

念能力者同士の人間関係って絡まりすぎじゃないか……?
思わず俺は顔を引き攣らせた。