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結局、促されるままテーブルの上に並んでいた魅力的なケーキをシャルナークと二人で食べた。
シャルの巧みな話術とお菓子の力で、それなりに楽しい時間を過ごせた、のだと思う。会計の際、奥から出てきたディルクさんがその厳つい表情を崩したくらいには、俺たちは仲良くなった。

……ただ「興味を持って欲しくない。」と馬鹿正直に突っぱねたのが決め手でこうも仲良くなったのは、どうも納得できない。普通は気分を害し、一歩引くだろうに……。


少し話して俺が本好きということを察したシャルナークは、話題をそこに集中させた。
すぐにその切り替えが出来るあたり多趣味なのだろう。
今まで読んだ本の中から好きな作品を幾つか言うと、少し考えた素振りを見せてから、面白そうなものを色々と紹介してくれた。
自身が読んだものについては、大まかなあらすじまで語ってくれ、まだ読んでいないものについては、ここら辺が気になる等、ネットで見聞きした情報を話してくれた。
そして、おススメしてくれた本はどれも俺の心を擽るようなものばかり。

正直のところ、本についてここまで話せると思っていなかったため結構驚いた。
シャルナークは本屋の店員に物凄く向いてると思う。
……あ、でも本業が機械だから、電化製品の店員のほうが向いてるのかな?


そう考えながら、既読の本を置いてある本棚に近づき目当ての本を取り出した。

「シャル、これだけど合ってる?」

文庫サイズの本をソファに座るシャルナークに見えるように掲げる。

「うん、それそれ。間違いないよ。………でも、いいの?これ結構貴重なものなんだけど。」
「間違って買ったやつだし……、俺はいらないからいいよ。」

言いながら手渡したのは拷問に関する本。
もっと言えば、拷問にかけられた被害者が日々綴った日記だ。
一応、最後まで読んだが……、やはり読んでいて気持ちが良いものではなかったから、もう二度と読まないだろう。

こういう本はマイナーであまり表に出回らないため自然と値があがる。
古書店でまとめ買いしたときに一緒に買ってしまったもので、お金のことを考えずにいたため気が付かなかったのだ。

「……拷問、ねぇ。」

本の内容を思い出してしまい、顔を顰める。

「はは…、オレだって好きでやるわけじゃないよ?というかオレ自身そんなの数えるくらいしかやってないし。………まあ、これを欲しがってるオレの仲間は趣味にしてるけど。」

苦笑しながら言うシャルナーク。
拷問が趣味、って……考えるまでもなくフェイタンだろうなぁ。俺としても、こんな物騒な本をいつまでも手元に置いておきたくないから、あげることに抵抗はない。

作り置きしていたお菓子をテーブルに置き、向かい合わせに置いてあるソファに腰を下ろす。

「あ、そういえばルイと一緒にいる……あの女の人もここで暮らしてるの?」
「そうだよ。今日は出掛けてるけどな。」
「じゃあ四六時中一緒ってわけじゃないんだ。なんか“実は付き合ってるんじゃないか?!”っていう話が飛び交ってたから、てっきりそうかと思ってた。」
「………付き合ってないし、まず女同士だろうが。なんであそこまで騒がれるのか良く分からないんだけど?」

一応この噂も耳には入ってる。

この地域は同性愛があまり一般的でないのにも関わらず、俺と紅桜の恋愛事情(そんな事実は一切無いが)について、かなりの盛り上がりを見せている。
ちなみに調べたなかでは否定的な意見は無く、仲を熱狂的に応援するような声ばかり。

その状況をいまいち理解出来ない俺はシャルナークに答えを求めた。

「見た目的に興奮するからじゃない?」
「は?」
「見た目に反す強さを持った謎の美少女と、人間離れした容姿の美女でしょ?しかも、友達っていうには雰囲気があまりに異質すぎる。非日常を求める人にとったら、君たちの仲をそう解釈して喜ぶのはそう珍しいことじゃないと思うけど?」

こちらが驚くくらい素早く答えを返してきたシャルナーク。

見た目的に興奮する…?
そんなことを言われても、いまいちピンとこない。

紅桜が美しいのは分かる。
けれど、俺の容姿は……悪いとは言わないが、せいぜい人並みだろう。
此処は天空闘技場だから、俺の見た目を裏切る強さは話題になるのは分かるけれど、顔立ちで話題になるほど整っているとは思わない。
というか、謎の美少女ってなんだ。俺のどこに謎という要素があるんだよ。ただ、対戦相手を片っ端から倒してるだけだろうが。

「あー、うん。分からないなら、それでいいよ。…これはオレの好奇心だけど付き合ってないんなら、どういう関係なの?」

眉を寄せて考えていると、諦めろとばかりに突っ返された。
一度答えたんなら、こっちが納得するまで聞かせて欲しいところだ。
そう口を尖らせたかったが、質問をされたため答える。特に躊躇するような内容でもないし。

「相棒、だよ。」

友達とも恋人とも仲間とも違う、相棒。
修行中、俺と紅桜との関係を考えたときに、この呼び名が一番すっきりした。
あと因みに紅桜のことを念獣って呼ぶの好きじゃない。なんだか紅桜がモノみたいに扱われてるみたいで嫌だ。

しかし、そんな俺の感覚が他の人に分かるわけがなくシャルナークは首を傾げた。

「相棒?」
「そう、相棒。それ以外の言葉は見つからないから。」
「………ふぅん。何かやっぱり不思議な感じだね。」

シャルナークは紅桜が念獣だと気づいてない。
凝をすれば一瞬でバレるだうが、生憎と動画で映ってるのは俺で紅桜は選手でないため滅多に映らない。映ったとしても観客席で“隠”状態のため気づかれない。残るは写真という話になるが……、
念能力者か念のこもったカメラで撮らない限り“隠”状態の念を記録媒体に映せない。そのため天空闘技場にはその念能力者、もしくはカメラがあるため、普通の動画と高価な動画、この二つが売り買いされている。
念能力者、もしくは無意識に念を使ってる人にプライベートで簡単に写真を撮ることを許すか?と問われればNOだろう。
紅桜をカメラに収めた人はオーラを映せない一般人ばかり。
紅桜の容姿は知っていても、そこまでは気づいてないだろう。人型の念を操る能力者は世界でも少ない。こんな念能力を持ってるのは念を体得して何年も経ったくらいの玄人しかいないだろう。それくらいには俺には才能がある。


……ま、多分シャルナークとは今後も会うから、こんなことは直ぐにバレると思うけど、さっきの意趣返しということで。
さっきの話題、俺納得してなかったし。このくらいはいいだろう。

「あ、オレが調べたら二人の情報出るかな?」
「相棒ってこと疑ってるんだ?」
「それもあるけどさ、もし君たちが何かの活動してたら情報載ってるかもでしょ?」
「……調べるのは無理だと思うけど。」
「む、オレこれでもハンターなんだけど。ハンターサイトにアクセスすれば一発で出るんじゃない?」

実力を軽く見られたと思ったのだろう。シャルナークは少し口を尖らせて反論した。

けれど、俺が言いたいのはそういうことじゃない。

俺の情報はまず絶対に出てこない。
ルイ=フリークス=クロセの情報は絶対に。

出てくるとしても、それは天空闘技場でのルイ。

「無理だよ。だって俺、極秘指定人物になってるし」

だから無駄なことしないほうがいいよ。と言うとシャルナークが固まった。