08


「何があったんだ!」

騒ぎを聞きつけたのか、それとも静まったのを確認してから来たのか(おそらく後者だろう。来るのが遅すぎる)。
ダルツォルネを含む、ネオン直属の護衛が駆けつけてきた。
何があったのか?……白々しい。冷めた目でダルツォルネを見て言う。

「……知っていたんじゃないですか?」
「なに?」
「こうなることを予想していたから、俺たちを雇ったんじゃないですか?」

八つ当たりだ。
俺だって知ってた。でも、それを教えなかったコイツにも責任はあると思う。
原作知識から推測しなければ、俺だって知らなかった。

「死亡者は六人、そこに一人生き残りがいますが、血が足りないようなので救急車を呼んでください。そして、ここを襲撃してきたのは、20名の念能力者です。」

血が足りない、というのは嘘だが、相手の反応を見るために言ってみた。
案の定、襲撃者のことを告げると表情が変わった。なんで、そこで犠牲者のことは気にしないんだ。
気に入らない……、気に入らない。怒りが体の中を煮えたぎる。八つ当たりだってのは分かるけど……気に入らない。

「……確かに、とある所から情報を得ていた。そして、万一の時のことを考え君たちを雇った。」

気がつくと、雇われていた護衛が皆、近くに寄ってきていた。
今まで怖くて近寄れなかったようだ。
ソイツ等の目にあるのはダルツォルネに対する怒り。当たり前だ、それは普通説明のときに言ってもらわないといけない。そっちのために働いてやるのだから、そのためも情報も知らせておいてもらわないと話にならない。それに気づかないのか、なお言葉を紡ぐ。

「だが、その万一を考えてよかったようだ。そのおかげで何の被害もなかった。展示物も無事だ。ご苦労だったな。」

ふざけるな。

俺が前に進むより早くジンがダルツォルネを壁に叩きつけていた。

「っぐ!」
「ふざけるなよ。万一?ああ、そうだろうな。そこまで考えるのは当然のことだ。だが、そこまで考えておいてそれを危惧して雇った護衛に伝えないっつうのはおかしいと思うぜ?大体、お前"何の被害も無い"だと?ふざけるな。お前にはそこにあるものが見えねえのか?」

指差すのは血だまりの中にある死体。
ダルツォルネの胸ぐらを掴み、真剣な表情で言ったジンの迫力は凄い。

「す、すまん。……おい、救急車を。」
「はい。」

それくらい自分で呼べよ。
俺のダルツォルネに対する視線が厳しくなる。けれど、さっきよりか冷静になれた。
ジンが怒ってくれたおかげだ。




「ねー、どうしたの〜?って、凄い血!」

いきなり緊張感のない声が割り込んできた。

「ぼ、ボス!このようなところに来られては困ります!先ほどの場所でお待ちくださいと……!」
「え〜、だって、どうせ帰るときにここ通るんだから良いじゃん。……あ、ルイちゃん!あれ?血まみれだね、もしかして盗賊さんと戦ったの?」
「…………ええ。」
「そっか、ありがとうね。大変だったでしょ?」

これには驚いた。言葉こそ軽いが、声には重みがある。本気で感謝しているのだ。ダルツォルネとは比べ物にならない。
ワガママで、常識知らずで、守ってもらうことが当たり前の女の子だと思ったのに。

「あ、貴方も戦ってくれたんですね。……あたしが我が儘を言ったせいで、迷惑をかけてごめんなさい。ありがとうございます。」

ジンに向き直り謝罪とお礼を告げるネオンは、漫画の印象とずいぶん違った。
違すぎて、誰?となるほどに礼儀正しい。
え、ちょっと待て………、この子いったい誰だよ。

「本当にありがとね、ルイちゃん。」

満面の笑顔で言ってきたネオン。不意打ちだったので、結構戸惑う。
そんな無邪気な笑顔で見ないでくれ。

「……どういたしまして。」

視線を斜め横にずらして、返事をした。うわぁあ、今、絶対顔赤いと思う。
その考えがあっていたのか、ネオンとジンは互いに顔を見合わせて

「「可愛い!」」

と俺に抱きついて来ました。
おい、今の間にどれだけ仲良くなったんだよ…?!

ネオンはともかく、ジン痛い!
剥がそうにも、ジンが邪魔でネオンが剥がせない。ジンを乱暴に剥がそうとするとネオンもその被害に遭ってしまう。
それは勘弁。
ノストラード家に目を付けられちゃうし。

ジトと、と助けろやオラ、という視線をダルツォルネに送る。
その俺の怒りを混じらせた視線に動かされたダルツォルネは控えめながらも、ネオンを説得しにかかった。
ネオンは不満そうにしつつも、大人しくそれに従った。

「あ、ルイちゃん。よかったら、メアド教えてー!」

と思ったら、またもや俺にズイっと近づいてくる。
なんで、ここまでネオンが俺に興味を示すのかがわからない。気に入られるようなこと何もしてない。
……もしかして、この髪の毛が目的か?
この髪色が珍しいことを自覚しているため、身構えたがそんなわけないかと警戒を解く。

「え、あ別にいいけど。」
「やった!」

携帯は無いから、俺がネオンの携帯を手にとってパソコンのメールアドレスを入力した。
これで、俺の連絡先を知っているのは二人。もう一人は、言わなくても分かるだろう。ジンだ。

「えへへ、今まで同じ年頃の子と話したことなかったから嬉しいっ!ルイちゃんは、あたしの友達第一号だね!……あ、ねぇ、ルイちゃん、じゃなくてルイって呼んでも良いかな…?あたしのこともネオンって呼んでいいからさ!」
「……いいよ、よろしくネオン。」

いつの間にか友達になっていたようだ。
……まあ、別に悪い子じゃないし良いか、な?あまりにも嬉しそうに笑うネオンが眩しく見えた。
友達になったとしても、どうせそんな交流ないだろうな。会うに関しても、いちいち護衛付けなきゃいけないんだから。何よりネオンのお父さんが良い顔しないだろう。

「では、ボス。今度こそ戻ってくださいね。」
「はーい!」

元気な声を上げて、奥の方の部屋に向かったネオン。
……どうしても譲れない時になるとワガママになるだけで、それ以外はいい子なのかな?

侍女さんに明るく声をかけながら、ドアを開けて中に入る。
それを見送ったダルツォルネは、疲れたようにため息を吐いた。確かに疲れるだろうな。
遠くから見てると可愛いものだけど、護衛する側にとっては大変だろう。

ちょっと……ちょっとだけ護衛の人に同情した。


◇◆◇◆


「まー、とりあえず。コイツらを引き渡さねえとな。」

ダルツォルネと報酬の話をしたあと(貯金通帳が見たこともない金額になることが確定した。)博物館側の被害を確認。

とりあえず、やるべきことは全部やったとばかりに、両手を腰に当てていると。
ジンはおもむろに携帯を出して賊の顔を撮り始めた。何だ、この光景シュールだな。
最後にリーダーと思われるやつの顔写真を撮って、それをどこかへと送ったようだ。

「どこに送ったんだ?」
「ジジイの所。………お、もう返事がきやがった。」

ずいぶん早い返事だな。
本当にハンター協会会長って暇なのかな?それとも、仕事をやりながら返信してんの?
内容を確認しようと、後ろから覗き込む。

「アンジアロ盗賊団?」

半年間、ほぼ森で過ごしてきた俺にとって聞き覚えのない名前。たまに街まで降りて買い物をすることもあったけれど、それでもこの世界の情報は少ないだろう。
独り立ちしたら賞金首の情報調べようと心に決めた。

「ほー、ボスがA級。んでもって、それ以外がC級だとよ。」
「……その割には弱くないか?」
「まあボスは能力使う前に倒したし、基礎をおろそかにしてたんだろうな。どうやら発動条件が厳しいらしいようだったから比較的楽だったぜ。」

まあクート盗賊団よりも楽だろうなぁ、と遠い目で見る。

「まあオーラの多寡で勝負は決まらない、とは言うけれど基本的な体術はどうしても必要不可欠だからな。そこをサボれば致命的だよな。」
「そうそう。分かってんじゃねぇか。」
「あれだけ基礎トレやって組手やれば当然だろ。」
「ま、それさえ分かってりゃ大丈夫だな。……あ、賞金のことも載ってた。えーと、ああボスが十億だってよ。」
「……十億?」
「あとは壊滅させたから、セット金みたいなのがついて……このくらいか」

…………。

提示された金額に言葉を失う。
……改めて幻影旅団って凄いんだなと感心した。全員がA級首だろう?……凄いな。