06


ネオン来るんだよなー。
あの不思議ちゃんみたいな子が、ここに来るんだよな。この気持ち悪い物を見に、わざわざここに来るんだよな。
俺が思うに、あの子がこんな変な性格になったのは、あのお父さん……ライト=ノストラードのせいだと思う。娘を利用して相手を見下すような腐れ外道。
詳しいことは、俺が知るはずもない。でも、普通の環境にいればあの子も普通の可愛い女の子だったろうに。

ジンには、もうここに来る人物のことを言ってある。
何故、俺たちを呼んだのか、という推測も。
入口の壁に背中を預ける。ジンも俺の真正面にいる。入口はほんの3mほど。結構狭い。
マイナーな博物館だから、こんな狭いのだろう。入口だけでなく全体も狭い。
だけど、やはりそこはマフィアの娘さんが来たがるところ。世のマニアが涎を垂らしながら見るような物がたくさんある……らしい。
俺には、猟奇的な気色悪いモノとしか捉えられない。
緋の眼とかだったら、綺麗だから分かるけど。殆どがそういうのじゃない。

ジンも通路とかを確認するとき、眉を顰めてたから俺と同じ気持ちだと思う。


どうしても、ここに居ると明るい気持ちになれない。
はぁ……とため息を着くと、外から車のブレーキ音が聞こえた。来たかな?

黒塗りのいかにも高そうな車から出てきたのは、ピンクの髪の可愛らしい女の子。
16歳くらいのまだ幼さの残る顔つき。目をキラキラと輝かせて、満面の笑顔を浮かべている幸せそうな顔。
それをお付きの侍女に惜しみなく向けている。それほど嬉しいのか、ここに来て。
侍女さんも可哀想だな、微笑んではいるものの笑顔が引きつっているのを見て同情する。仕事だからといっても限度があるよな。……あれ、ネオンの侍女さんって和服のイメージがあったんだけど洋服だ、と少しだけ目を瞬かせた。

長いスカートの先はふわんと丸まっている。
服装はピンクと白を基調とした可愛い服、こういう可愛い子が着ると和む。華やかだし。スカートをふわり、ふわりと可愛らしく揺らしながら自動ドアの前に立ち開いたのを確認し前に進む。
邪魔な仕切りがなくなったおかげで、声がよく聞こえるようになった。アニメと同じ声だ、と軽い感動を覚えた。だってジンの声ってカセットテープのやつと結構違う……、いや同じということは同じなんだけど…多分あの声格好つけたような感じ。だからあまり感動しなかったんだよな。というか初対面のときはそれどころじゃなかったし。

徐々にネオンが近づいてくる。
こういうとき召使だったらご主人様のお帰りだ!とか言って頭を下げるんだろうが、俺らは棒立ちのまま見送るだけ。
後はネオンがここを通り過ぎれば、第一関門突破。

「あ。」

不意に漏らした言葉。静かな空間に響いたそれはやけにうるさく聞こえた。
発したのは、俺でもなくジンでもない。
となれば……………

「かっわい〜!ね、貴女、歳いくつ?」

本来ならば、俺には目もくれず、声をかけることもしないはずだった依頼主の娘。
ネオン=ノストラードが俺に向かって話しかけてきた。
それも満面の笑みを俺に向けたまま。可愛いのはお前だ。女の子って、お世辞でも、さも本当のことのように言うよな。
ネオンの後ろに控えていた、原作でも見た護衛さんの目が俺に集中するのを見て、勘弁してくれ!と叫びたくなった。
俺、警戒されたっぽい。ちょっと、厳しくなってきてる。この視線。マフィアに目をつけられた……?
というか、初対面の相手に、こんな気さくに話しかけちゃダメだろ。

ちょっと、自分の価値を知ら無さ過ぎるだろう。
これじゃあ護衛する方は大変だ。少しでもいいから危機感というものを持つべきじゃないのか。

「……恐れ入ります。歳は13です。では、どうぞ中に入りお楽しみください。」
「え?!13?うそ〜……大人っぽいねぇ。あたしはネオン!15歳だよ。よろしくね!!」
「ルイ=クロセと申します。」
「ルイちゃんね。覚えた!よろしくね!!」


裏表のない笑顔。
厳しい状況下で育っているのにも関わらず、こんなにも明るく笑える。
無理をしているわけでない、この子の本質。一種の才能。無防備すぎるところが難点だけど、それもこの子らしい。まあ、それが近い将来アダとなるのだが。逆十字の男によって。





◇◆◇◆


「気に入られたな。」


ニヤニヤと言ってくるジンを殴りたくなった。
そういや、コイツ止めようともしないで面白そうに笑ってやがったな。ちくしょう。
ため息混じりに吐き出す。まだそんなに時間たってないのに疲れた……。
あの後、十分くらい嬉々として話しかけられた。
なんでも十代の女の子と話す機会は全然無かったものだから、俺を見て嬉しくなったらしい。
年齢と聞いたとき、自分より一つ上か同い年だろうと思っていただけに、年下と知って余計驚いたそうだが。
まあ、あの子よか俺の方が精神年齢高そうだな。

「……マフィアの娘さんがあんなに無防備で良いのかね。」
「そんなんだから、俺等を雇ったんじゃねえか?ま、ルイも良かったな。女の子の友達が出来て」

友達?
俺、いつネオンと友達になったっけ?ただ名前名乗っただけだろ。
怪訝そうな顔になって、ジンに問い返す。

「友達?」
「ルイにしちゃ、珍しく気に入ってたみたいじゃねえか。あの子のこと。疲れたようだったけど結構、気に入ってただろ?それに、あの子もルイに好意を持ってる。」

流石。よく見ている。
あのムカつく、ニヤニヤ笑いの裏でそこまで観察してたのか。少し悪態を付きたくなった。
あんまり、顔には出してないつもりだったのにな。疲れたという感情しか。

「……でも友達になったわけじゃないだろ。俺、あっち側に足を踏み込む気もないし。」

マフィア側、つまり裏側に行く気はないし、そもそもあっちが俺の身体能力値を見て恐る可能性だって捨てきれない。

「そうか?案外、そういう方が良いんじゃないのか?」
「?……どう言う意味?」
「いや。同じところよか案外違うところ同士の方が仲良くできんじゃねえか、ってことだよ。」

違うところ、………例えばゴンとキルアとかかな?
でも、友達になったとしても、あんなに仲良くはなれないだろうな。やはり条件が違いすぎるから。ゴンとキルアは特別な関係だろう。

「まあ、俺は別にこの世界で同性の友達が出来ると思ってないから良いんだけど。」

覚悟はしてる。
というか、友達ができるのかという時点で怪しい。悲しいことに。

「ったく、素直じゃねえなぁ……。」

心外な。

「俺は素直な気持ちを言ったつもりだけど?」
「……………はあ。」

疲れたようにため息を吐くジンにイラついた。
おい、お前。何が言いたいんだ。一体。
軽く睨むが、肩をすくませてみせるジン。どうやら、これ以上言う気はないよう。


俺も面倒くさいので追求は止めておいた。
暫く同じ体制をとっていたので、首を動かしてほぐす。
すると案外固まっていたみたいで、ポキという音が立て続けに鳴った。
これは、肩も危ないなと思い、壁にぶつからないように距離をとって回した。ジンも同じようにする。ジンも固まっていたのだろう、小気味いい音が何回も鳴った。

暫く俺とジンは入口で緊張感の欠片もなく準備運動をしていた。
緊張感の欠片もないが、肩を張り詰めてビクビクしてるよかマシだろう。


腕を上にめいいっぱい伸ばしているとき、おずおずと怯えたような声で話しかけられた。

「す、すみません……。」
「「ん?」」

低姿勢に話しかけてきたのは、同じく雇われた護衛。
その後ろには、ガクガクと震えている奴もいる。凄く怯えてるみたいだから、俺の脅し作戦は成功したよう。

「どうしたんですか?」
「い、いえ。あのダルツォルネさんが、持ち場を交換しろと。」

ちょっとやりすぎたかな?
顔が凄く青くて、少し可哀想に思えてきた。大きい図体で、そんな態度取られたら違和感がある。野獣みたいなやつを従えている少女。客観的に見たらかなりシュールな図だ。。
ダルツォルネが、ねえ?
ネオンと俺が話すのが、余程気に入らないのかな?このままじゃ、帰るときにも会うだろうし。
随分と嫌われたもんだな、と思うが、まあ仕方がないだろう。

「交換?……えっと、確か貴方の持ち場は……一番奥の方のブースでしたっけ?」
「は、はい。えっと、では……。」
「ほー、よく覚えてんなぁ。そんじゃ、行ってくるとするか!」
「だから、引っ張るなって。……では、頑張ってください。」
「あ、ありがとうございます。」

最初から最後までドモってたな。別にそんな怖がることなんて無いのに。
あっさりと、その場を立ち去り気色悪い道を進んでいく。
移動することになった、持ち場に行くまで出来るだけ展示物を見ないように歩いた。
何かオーラが篭ってるのばかりだなぁ……。
しかも、怨念とかドロッドロしたオーラばっかり……、と呆れたように目を瞑る。

博物館自体広くはないので、直ぐに新たな持ち場に着いた。
恐らく時間的に、ネオン御一行は、ここを通り過ぎて次のブースへと言ってるのだと思われる。
そうでなければ、ダルツォルネが、わざわざ此処に移動させるわけがない。
趣味の悪い展示品を睨みつけながら一つ舌打ちをした。