05


「では、私はここで待っていますね。」
「……紅桜も来ればいいのに。」
「折角の師弟水入らずに邪魔は出来ませんよ。」

朝早く起き、準備を済ませた俺たちは小屋の中にいる。
まだ日が出始めた頃に起きたというのに外は十分に明るくなってしまった。予想外に時間がかかったのは、紅桜とジンによる写真撮影が行われていたからだ。
初仕事前だというのに、ごっそり体力を削られた。指定時間までもうあまり時間の余裕がないし。
長距離移動は疲れるから着いたら少し休憩したかったんだけどなぁ……。

「ルイ、さっさと行こうぜ!」
「ちょっと、おい。引っ張るな!……それじゃあ、紅桜。行ってきます。」
「ええ、行ってらっしゃい。」


【信頼する移動手段(ベストメンズ)】で、移動した先はヨークシンシティの目立たない裏路地。
目立つところとか、指定場所にいきなり飛んだりしたら悪目立ちすることは免れないから、という理由である。
でも、やっぱり指定場所の近くではある。わざわざ遠くに飛ぶ必要なんてないし。

道中ジンと雑談をしながらも数分で指定場所に着いた。
地図を確認、ジンがメモした内容も確認。すると、あれ?おかしくないか?下から、見上げきれない上を見上げてから、首をかしげた。ここで合ってる、んだよな。

「どこが博物館?」
「……ホテル、だな。」

依頼内容は、博物館を訪問するマフィアのお偉いさんを護衛すること。
だけど人物に直接つく人は、元からあちら側に護衛さん。俺たちは博物館の入口か、そこらにいて護衛の補助をする、ということ。

依頼内容からして、指定場所は博物館でないとおかしいのだけれども……。目の前にある巨大な建物は、どう見てもホテルにしか見えない。

「……とにかく、中に入ってみるか?」

メモの書き間違い、という可能性もあるが、とりあえずロビーに入ってみよう。
ロビーに入ると、……まあ、普通のロビーだった。普通のホテルより断然広くて、豪華だけど所詮ロビーだった。
数歩進むと、黒服の男たちが行く手を遮った。

「ハンター協会から紹介されたお方でしょうか?」
「ああ、よろしく。」
「それでは、私のあとに付いてきてください。」

冷たい目線をこちらに寄越した後、一人が先頭を歩く。
……部屋番号指示してくれれば良かったのに、と心の中で思う。

「こちらで暫くお待ちください。」

そう言って案内されたのは、少し狭い一室。見れば既に十数人集まっている。
新たに部屋に入ってきた俺達を一瞥し、視線を戻す。見事な強面ぞろい。気弱な人だったら怯むだろうな、この面子。

「というか、雇われたの俺たちだけじゃなかったんだ。」

小さく呟いた。
一人一人、順に見るが大して強そうじゃない。全員念能力者、というのは分かるけど。纒してるし。
……もしかして、基本しか出来てないんじゃないか、というくらいオーラの量が少ない。しかも無駄な筋肉をつけた大男ばっか。何だあれ、観賞用の筋肉か。ボディビルター向けの筋肉か。
気だるげに窓際の隅っこの方に移動する。下には車が何台も走っている。排気ガス凄そうだな、等とくだらないことを考えていると、新たに男が入ってきた。慣れたような雰囲気とこの場で一番綺麗な纏をしていることから、依頼主側の人間だろう。
意識をそちらに向けると相手の顔に既視感を感じた。
……おいおい、まさか。口元がひきつる。

ふざけるなよ。

鮫を彷彿とさせる刺青を顔に施している男。

「よく集まってくれた。俺はダルツォルネ。ボスの護衛のリーダーを務めている。諸君らには指定の場所について護衛してもらいたい。」

まさかのノストラードファミリー……?!
なんだ、これ。初めての仕事で、まさかの原作キャラと接触?冗談でも笑えないぞ。
マイナーだとしても、本当に笑えない。
ノストラード家が、ハンター協会にまで依頼するだけの金があるということは、既に娘の念能力で儲けている証拠。
それで、このダルツォルネが出てきたのは護衛する対象がネオンだから。
…………博物館のジャンルは考えるまでもない。珍しい種族の内臓の一部とか、髪の毛だとかに決まってる。
凄く悪趣味だ。
何だか怨念が溜まりに溜まってそうな博物館だな。緋の眼なんかあったらクラピカの生霊がついてそうだ。
………ありそうで怖いから、今のは考えなかったことにしよう。


嫌な自分の想像に眉をしかめていると紙を渡された。
どうやら、それは博物館の見取り図と配置のようで自分の名前を確認する。

「入口か。」

良かった。
中じゃなくてよかった、見れないことはないけど人体の内臓みたいなもんをずっと見ていたくない。
そして、ジンと同じ持ち場で少しだけ安心した。ペアで来た念能力者はそれが制約になってる可能性もあるから、それを考慮したのだろう。俺達はそんなことはないのだけれど。

というより、あの男、護衛を新しく雇った理由言わないな、と博物館の構造を説明する男を見やる。一度限りの護衛にそんなことを話す必要がないと思っただけなのか、それとも知らないだけなのか。
護衛対象がネオン。
こんな護衛をつけたのは、占いに何かが出たから。
さて、その占いの内容は……?この時のダルツォルネの信頼度がどのくらいのものなのか。

説明が終わり部屋から出る。
どうやらダルツォルネは、博物館まで俺等と同行する様子。
じゃあ、ネオンは後から来るのか。この時だと、そんな警戒心強くないみたいだな。と案外緩い警戒態勢に驚いたとき、肩に衝撃が走った。

誰かにぶつかられた、ぶつかり方からして、わざとだな。
まあ、ここで騒いでも仕方がないし無視しようとすると、あっちのほうが騒いできた。

…………面倒くさい。

「おい、嬢ちゃん。」

上から目線で話してくる大男を冷ややかな目で見やる。

「……なにか?」
「邪魔なんだよ。弱っちいくせに、出しゃばりやがってよ。女は家で、飯の準備でもしてりゃあ良いんだよ。」

ああ、女が戦いに出ることを拒む人種か。くだらない。
邪魔?弱い?出しゃばってる?そのままお返しする。念を多少扱えるくらいで調子にのるなよ。

この男の暴言にはジンの他、ダルツォルネまで驚いてるようだ。
お前、相手の強さを見極めることすら出来ないのか、というところだろう。
うん俺もここまで愚かなやつは初めてだから驚いた。
女だからって、ここまで馬鹿にされるのってムカつくよな。
ってことで、少し怒ってもいいよね。

「グアっ……!!」

殴った。身長的に顔は狙えなかったから鳩尾を狙った。
暴力で物事を解決するのは好きじゃないんだけど、こうでもしないと黙ってくれないし。
それと、あとコイツには生贄になってもらおう。尊き犠牲に。またコイツみたいな馬鹿が現れないとも限らないし。

「この人、もう護衛は出来ないみたいなので、どこか医務室なんかに連れて行ってくれませんか?」
「あ、あぁ、分かった。」

ダルツォルネに向き直って言いつつ、もうこんな愚か者が俺に喧嘩を売ってこないように周りのやつらにオーラで牽制する。
これでこれ以上馬鹿にされないで済むだろう。