04


シャワーを浴びて、すっきりした後、俺と紅桜は晩御飯を作っていた。
「HUNTER×HUNTER」の世界に来て約半年。トリップしジンと出会ったあの日。俺は全てをジンに話した。
元の世界のこと、そしてこの世界のこと。そして未来を知っているということ(勿論何が起こるかなど詳しいことは言っていない。言ったのは言葉の通り“未来を知っている”ということだけ)。
それらを全て話し終えた後、ジンから言われたのは「オレの弟子にならないか。」ということ。「念を覚えて元の世界に帰るのもいいし、未来を変えるのも、変えないのも好きにすればいい。ただオレはお前を気に入った。」と言われて俺は迷わず首を縦に振った。
修行の最中、様々なことがあった。「一か月で向こうの大陸まで泳いで来い。」と言われて三週間で達成し、その途中変なオーラを感じたため念能力を使いながら潜ったところ海底遺跡を発見。その海底遺跡に刻まれていた文字が前にジンが唸りながら持っていた本に綴られていた文字が一緒だと気付いて自分でちまちま解読していたら、それが未解読文字だと判明したり……、「これでハンター証取ったら一ツ星は楽に取れるな!」と笑ったジンを忘れはしない。ああ、あと「これお前の戸籍な!今日からルイはオレの娘だ!」と言われてルイ=フリークス=クロセと書かれた書類を見せられたときは凄く驚いた。驚きすぎて思わず手が出てしまったのは正直悪かったと思ってる。

半年で俺が作った念能力の数は大きく分けて三つ。
そのうちの【無限の可能性(ポテンシャルバディー)】は、応用した技を三つほど作った。
さっきの【世界で一つの万能薬(メディカルヒール)】の他に、瞬間移動、除念能力がある。
応用しなくても、水の温度を変えたり動かしたりすることが出来たりするので、この能力は重宝している。お風呂を沸かす時も一瞬でお湯を張れるから便利だし。

あとの二つの能力は、この能力より多くの容量を使った。
【四次元の別荘(ポケットマイホーム)】と【守護精霊(ルートガイスト)】
【四次元の別荘(ポケットマイホーム)】は念で作り出した念空間となっており、指で円又は多角形を描くことにより入口が開かれる。中の念空間は能力の名前の通り家のような造りになっている。
そして、俺が一番大事なのは【守護精霊(ルートガイスト)】と言う念能力。
念能力で具現化した念獣のことで、名前は紅桜といい炎を自由自在に操り精製能力…というより物質を再構築する能力を持つ。


「あ、紅桜。そこの味噌取って。」
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」

出汁を入れて、味噌をかき混ぜる。
小皿に取って味見をし、いつも通りほっこりする味に一息吐いた。

「ん〜、これで足りるかな……?」

今日は和食。
というより、ジンは和食が気に入ったみたいなので、殆どこの半年は和食を食べ続けた。俺としても、ジンの和食好きは助かった。毎日洋食とか……日本人の俺には耐え難い。
この半年間、料理当番は全て俺だ。おかげで和洋中、ほとんどの料理は作れるようになった。

どうせなら美味しい料理を作りたい、と料理について研究しながら作り続けたこの半年。その甲斐あって俺の料理の腕は、プロ顔負けじゃねえか?とジンに褒めちぎられるまでになった。

「……これで足りないとなると、後はご自分でやらせれば良いのではないでしょうか?」
「流石にこれ以上作る気力は無いしな。」

俺と紅桜の前に並ぶのは三人分の料理。
俺と紅桜は、普通の量だけど……ジンの分は、とてつもなく多い。運動したあとだから、いつもより多い。
俺は、運動しすぎた時は逆に吐き気の方が勝るので、あまり食べない。ジンは体に悪いというが、本当に食べ過ぎたら危ないのだ。
最初の方は背が伸びないぞ!と耳が痛いことを言ってきたが、実はここ半年で急激に身長が伸びてたりする。そのため最近ではそれが使えなくなったみたいで、残念そうだ。

そんなときにたくさん食べたら確実に吐く。最初無理やり食べさせられたら、本当に吐いたし。あの時は殺意がわいた。
まあ、ジンも悪いと思ったのか本気で謝ってきたので許したけれど。

「おーい、ジン晩御飯出来たよ。」

出来たご飯をお盆に乗せながらジンを呼び、俺たち三人はいつも通り温かいご飯を食べた。








「……なぁ、ジン。」

夕食を食べ終わり、洗い物を終えた後書類を見ているジンに話しかけた。
紅桜も近くでお菓子作りの本を読んでいたが、俺が告げようとすることを察してか部屋から出て行った。

「おう、どうしたルイ?」

書類から目を上げたジンの向かい側に腰掛けた。
ジンの黒い瞳が俺を見つめる。

「……俺さ、そろそろ独り立ちしようかと思う。」

年が明ける前、紅桜を具現化し終えたときからずっと考えていたこと。
四大行を体得した俺が三ヶ月もジンの傍で修行をしている意味は無かった。

「ジンには凄い感謝してる。行く当てもない俺に半年間修行を付けてくれて……ジンのおかげで、この世界で生きていくための力が付いた。これから、この半年間で学んだことを世界に出て試そうと思うんだけれど……いいかな?」
「…………ルイ。」

ジンに名前を呼ばれ、思わず背筋を正す。
珍しく真剣味を帯びたジン。
こんなジンを見たのは、二度目だ。一度目は自主トレーニングのやりすぎにより注意力が散漫になった末、崖から落ちてしまったとき。目が覚めて思いっきり頬を殴られて怒られた。

ジンの次の言葉を待つ。

「……半年前にも言ったが、オレがお前を弟子にしようと思ったのはルイを気に入ったからだ。覚えているか?」

ジンの問いに静かに頷いた。

「ルイの戸籍を作ったのも、ルイのためにしたことは全てオレが好きでやってきたことだ。……いや、ルイのため、っていうのは良くねぇな。いわば全部オレの自己満足だ。」
「……でも、それで俺は凄く助かったし、嬉しかった。」
「お前がどんどん強くなって、世界に目を輝かせる姿を見るの凄く楽しかったんだぜ?……お前はオレの自慢の弟子だ。ルイ=フリークス=クロセ、オレの二人目の子どもだ。ルイなら世界に出ても上手くやっていける。オレが保障する。」

ニッと歯を見せて笑うジン。

自慢の弟子、二人目の子ども……。
ジンの言ったことを反芻する。「オレが保障する。」か……、ああ、どうしよう。凄く嬉しい。
嬉しいがジンに会ったことのない離れたくじら島で暮らしているゴンに少し申し訳ない気持ちが湧き上がる。

「……俺、ジンの弟子になれて良かった。本当にありがとう。」
「オレもルイに会えて良かったぜ。……ああ、あと本当はクオウを具現化した後から、そのつもりだったんだろう?」

腕を組み、呆れたように言ったジンに驚いた。

「なんで知ってんの……。」
「三ヶ月一緒にいたんだぜ?そんくらい分かるさ。……ルイ、独り立ち、明後日まで待ってくれ。明日だけオレに時間をくれないか。ルイに渡したいものがあるんだ。」
「渡したいもの?」

改めてジンの偉大さに驚いていると、意外な言葉に目を瞬かせる。

「ああ、詳しくはまだ秘密だがな。」
「ふぅん……。まあ明日だろ?別にいいよ。」

三ヶ月うだうだしていたのだし、明日一日くらいどうってことはない。

「あとルイの能力使ってヨークシンに行きたいんだが……。」
「いいけれど……、ヨークシンの金庫にでも預けてるのか?」

明日というのだから、この近くにその渡したいものがあるのだと思ったんだけど……ヨークシンか。飛べないことはないだろうけど大陸の移動は結構疲れるんだよなぁ。

「あー、実は明日ハンター協会からの依頼請けてるんだよ。ネテロのジジイに別件で電話したとき押し付けられたんだ。……ルイにはオレと一緒にその仕事をうけて欲しい。」
「え、明日仕事あったの。そんな話聞いてないんだけど。」

仕事……しかも明日?
ここからヨークシンまで飛行船で一週間はかかる。ということは、最初から俺の能力でヨークシンまで行く気だったんだな。

この半年間、こうやっていきなり「あ、オレ今日から一週間出掛けてくるから修行やっておけよ!ついでに送ってってくれ!」ということは度々あったため、今更驚きはしないけれど。

「まあ、ルイにはオレをヨークシンまで運んでもらうだけの予定だったからな。言うのは明日で良いと思ってた。渡したいものもヨークシンにあるから心配すんな!」

いや、その心配はしていなかったんだけれど。

予想通り俺をヨークシンまでの運搬係にしていたジンに呆れた。まあ長距離移動は修行にもなるからいいんだけれど……。

それにしてもハンター協会からの依頼か……しかもネテロ会長から。
……危なくないか?強いとは思うけれど、この半年間ジン以外に戦った人なんて念の使えない密猟者くらい、という実戦経験に乏しい俺で大丈夫なのか。

「……依頼の難度は?」
「ん?ああ念が使えりゃ多分問題ないってとこじゃねぇか?聞いたとこによると最近目立ってきたマフィアだっつうから見栄っ張りで依頼してきたもんだと思うぜ。強いて言うならばHくらいの難易度だろ」

眉間に皺を寄せながら聞くと、あっけらかんと答えるジンに、ほっと胸を撫で下ろした。

難易度H、ということは易しい、か……。
いや、ハンター協会にきた依頼と考えると初めての仕事にしてはレベル高いのか。

「たまにあんの?こうした依頼。」
「まあな、嫌味と一緒に?たまには仕事請けろって面倒臭いもん押し付けられるな。今回はマフィアの依頼っつうからジジイとしても面倒臭いんだろうな。……ああ、ルイと一緒に行くんならジジイに知らせねぇとな、ちょっと待ってろ。今かけるからよ」