スノードーム



「……ここ


どこ?」







(スノードーム)









第一声である。


黒髪に涼しげなアウイナイトのような透き通った瞳の少女、ルイは頭をさすりながらむくりと起き上がった。

地面はふわふわと柔らかな雪。
周りには濃い緑の針葉樹が影を落としている。


あきらかここがどこか知らない森の中であることだけは確かであった。



まあ、問題はそこではなく(いや、充分問題なのだが)、なぜ自分がこんな場所にいるのかということだ。


確か偶然立ち寄った古本屋で、面白い本を探していたはずで…




(…あれ?)




白い表紙の本を開いたとこまでは覚えている。

しかし、そこからの記憶がない。





{マスター。
大丈夫ですか?}
「ああ。
俺は大丈夫だよ。
ところで紅桜、ここがどこだか分かる?」


ふわりと現れた美しい女性。カールのかかった黒髪、哀愁漂う瞳が特徴的な大人の女性。
ルイの念によって現界する彼女はスヴァローグという守護神。


そんな紅桜にルイは問いかけてみるが、紅桜はフルフルと首を左右に振った。



{いいえ。
私にも分かりません。

ただ、おそらく先程までいた地域とは全く別の場所だということは}
「……そっか」




ルイがうむと考え込んだその時、




「……!」
{……!}





□■□■□■□


念を感じた。

しかも結構強い。


{…マスター}
「…うん」


ルイはばっと身構え、すぐに臨戦態勢に入る。



雪を蹴り上げ、針葉樹の森から走ってきたのは二匹の大狼を筆頭とした白狼の群。

先頭の二匹の大狼はそれぞれ金と黒のシルクのような毛並みを持ち、口端から牙をチラリと見せて2人を威嚇する。


この二頭からは念を感じる。
あとの狼達からはしないから、必然的にこの二頭がさっきの念の主だということがわかる。
そもそも動物が念を習得することはできるのか…


『…テメェ、何者だ。
ここに普通の人間ははいれねぇはずだぞ。』
「…!!
言葉が…話せるの?」


念だけでなく言葉まで話せた。
金狼は今にも飛びかからんとルイを睨みつける。

紅桜のルイの前に出て、金狼をじっと見やる。

するとそれまで黙っていた黒狼が静かに口を開いた。



『…その子、
念能力者だよ。』
『あんだとっ!!?
まさか…クモか!!?』
「……?」


ひとしきり会話した後、二頭はまたルイを睨む。
しかも今度のは威嚇ではない。明らかな殺意が伺える。

どうやら2人はルイのことを完全にクモとやらだと勘違いしているようだ。


「待ってくれ。
俺達、どうしてここにいるか分からないんだ
ここはどこだ?」
『うるせェ悪魔め!!!
またアイツを奪いに来たな!!?
今日こそ殺してやる!!』
『……死刑』


そう言うや否や、周りを囲んでいた狼達が一斉にルイに襲いかかった。

話が通じないことにルイと紅桜はやれやれと肩をすくめ、臨戦態勢をまた作ったその時、







「ウィル!ユキヤ!


止まれ!!」






□■□■□■□

どこからか聞こえた通る声に、狼達は動きを止めた。


また新しい念を感じ、ルイがその方向を向くと、刃が赤い鎌を持った少年が汗を拭いながらやって来た。

少年は白い肌に白い髪を持ち、それを隠すように白いマントを羽織っている。
アイスブルーの瞳から敵意は感じられない。


『ノエル!!
止めんな!コイツ…』
「…違うよ。
幻影旅団じゃない。」
『…ぇ。マジで?』
『…やっぱり?』
『は!?
お前が言ったじゃねーか!!』
『旅団だとは言ってないよ』
『テメェ……(怒)』



口喧嘩をはじめた狼達にルイと紅桜はぽかんとしたまま停止する。


そんな2人にノエルは呆れ顔で笑いながら手を差し出した。



「驚かせて…すまない……。
僕はノエル。

あそこの二匹がユキヤとウィル

あな…た…は…?」


ノエルの差し出した手をじっと見つめながらルイもまたフッと笑った。


「俺はルイ。

ところでここはどこなんだ?
本屋に居たはずなんだけど…?」
「…ここは…リノル。

世界の最北端にある国…。

……まさか飛ばされて…?」


ノエルの言葉でハッとルイは気づいた。


念だ。



あの本に念がかかっていて、それによって飛ばされてしまったのだ。

有り得ない話ではない。


きっと作者が念をかけたのだろう。



「…とりあえず、この森をうろつくなら母さんに挨拶しないと…マズい」
「母さん?」
「この森の王様…
あ…。女王様か。

まあとりあえず一度顔見せないと…またさっきみたいな目に遭う…。

白鷹の群れにあったりなんかしたら…
骨も残らないよ」


ルイはノエルに手を引かれ歩き出す。

まあ、食われることはないと思うが、暗い森の中を歩き回るには確かに危険かもしれない。


しかもこの森、なんだか巨大で静かな念を感じる。
そのせいか他の念を感じにくくなってしまっている。



とりあえずルイはノエルに大人しくついて行くことにした。





□■□■□■□


しばらく歩いていくと岩場にでた。

しかもかなり強い念を感じる。
この森にかかる念と同じ…。

ルイは少しだけ警戒体制に入る。



ノエルはそんなルイに気づいてるのか気づいてないのか声を張り上げる。



「母さん!!!
お客さんだよっ」


すると岩場の影からのそりと真っ白な獅子が姿を表す。
新緑の瞳がしっかりとルイを捉える。


(気づいているよ。
だからあの2人を行かせたんだから)
「そーそー。
母さんが行けっつったんだぜ?」
「様子見だね」
「ウィル。ユキヤ」
「えっ!?」


ノエルが呼んだのは確か狼の名前のはずでは…


ノエルが話しかけているのは金髪の青年と黒髪の少年。

じゃあ、さっきのは……この二人!?



「よう。ルイ。
いい感じにパニクってんな。

いやぁさっきは悪かった。
俺たち、ウローン族っつって狼に変身できる能力がある一族なんだ。」
「さっきはゴメン」


さっきとは打って変わって人懐っこく話しかけてくる二人にルイは苦笑した。


(さっきはすまなかったね。
私の子ども達が失礼をしたようだ)
「…いや…。
構いませんよ」
(そこにいる人はお嬢さんの念獣だね
アナタも申し訳なかったね)
{いえ。お構いなく}


リエルバは2人に頭を下げると高い岩場から音もなくルイの前に降り立った


(右手を出してくれるかい)
「…?はい…」

ルイが戸惑いながら右手を出すとリエルバはその手のひらに牙を立てた。


{……マスター!!}

紅桜が慌ててルイの元に走り寄る。

しかし、噛まれた場所から血は一滴も流れず、これにはルイも驚いた。

甘噛み…?
皮膚に牙が当たっているだけの状態。

戸惑うルイにリエルバは牙を離してから話しかけた。



(なるほど。
ジンの弟子かい。
ふふ…確かに奴と似た目をしている)
「……!!!」


何も話していない筈なのにリエルバはルイの師の名前を言い当てた。

ルイはノエルの方を振り向く。


「…あ
それ、母さんの念能力なんだ」
「…え。そうなんだ」


□■□■□■□



どうやらこれはリエルバの念能力らしく、心を読んでるのか、記憶を見てるのか…とにかく驚いた。

あまり物事に動じないルイだがここに来てから驚いてばかりだ。



(さて、どこかの本屋から飛んできたと聞くが…
生憎、私にはお嬢さんをもとの場所に戻せる念能力はない。

そこでだ、シオウに方法を調べさせてる間ノエルと近くの街まで買い物に入ってくるというのはどうだい?)


リエルバの提案にノエルとルイは顔を見合わせてこくりと頷いた。


「そうだね。
行こっか」
「…うん」


とりあえず2人は会って間もない筈なのに意気投合し、隣の街アスカルトに向かった。




「いやいや。
久しぶりに楽しそうだなノエルの奴」
「デートだね…
付き合うのかな?あの二人。」
「まさか!!
羨ましいのか?」
「ルイさん美人だから」
「…ハァ
お前女だろ?」
「うっさいよ」
「コノヤロ……」




□■□■□■□



「さて、どこ行く」
「…どうしよ」


2人はアスカルトの中心街にいた。

容姿の整った2人に通り過ぎた男達が振り返る。
しかし全く気にしない2人である。
↑天然

しかし男達が振り返る理由はこの二人だけではない。


その後ろである。



『ノエルには白とか青い服が似合うと思うの!!!』
{マスターは黒か青ですかね}
『そうね!!
ルイさんには黒が似合いそう!』
{分かりますか。
ノエルさんにも白が似合いますね}


紅桜の隣にいる富士紫の着物の女性。
ルイの念獣である雪豹のアリア(人型ver.)である。

因みにいつもは耳と尻尾を出しているが、街中なので隠している。


さっきノエルが出してみた所、普段人となれ合わぬアリアが紅桜と意気投合した為、そのままにしているのだ。

2人はどうやら似たタイプらしい。



「……後ろ盛り上がってるね…。」
「ああ…。
紅桜がはしゃいでるとこ初めて見た」


2人はハアと溜め息混じりに後ろでキャッキャする2人をちら見した。


「…あ」
「どうした」
「…あれ…可愛い」


ふいにノエルが指さしたのは
出店のような形で売られているスノードームだった。


丸いガラス玉の中にキラキラ光る石と動物が入っている。

「綺麗だな」
「…うん」
「あ、そうだ」
「?」
「出会った記念にお揃いのスノードームを買わないか?」
「あ…いいね」
「だろ?」
「じゃあ…僕コレで」
「俺はコレ」


ルイが選んだのは藍色の石とイルカの入ったスノードーム。
ノエルが選んだのは青色の石とシロネコの入ったスノードーム。


2人はそれを持ってにこにこと微笑んだ。


その後、紅桜とアリアがかなり派手な服を買って来たことに地味に引いたり、
4人でアイスを食べたりした。


楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、夕方になった。


□■□■□■□


「楽しかったね」
「…うん。
………………。」
「どうした?」
「…ルイさん。
…もう…時間だ」
「え?」

ルイが首を傾げながら自分の手を見ると、手の平から下の石畳が透けて見えた。


身体が…消えかけている



「ノエル!?」
{マスター!!?}
『紅桜さんも消えかけてる!?』

焦る三人にノエルは落ち着き払った声音で告げた。


「思い出した。
…ルイさんの持った白い本に念をかけたのは…僕だ。」



弟を亡くした寂しさから人を求めた。


1日でいい。
誰かに寄り添ってほしい。



そんな気持ちがこもった念が時を越え、場所を越え2人を引き寄せたのだ。



「…ごめん。
2人には悪いことをした。
…でも、今日1日楽しかった。
…それだけは…」

「何謝ってんの


俺も楽しかった。
貴重な経験もできたし」


そう言って笑いながら薄まった手でノエルの頭を撫でた。


「…!!
ルイさん…」
「寂しかったらまた呼んでよ。

遊びに来るから。」



すう…と薄れていくルイの手をノエルは急いで掴むとふわっと笑って



「ありがとう!!!


また…また来てね!!!」






そのままルイと紅桜は闇夜の空に溶けて行った。





□■□■□■□







「…ルイ!!


ルイってばー」




「…?
ゴン…?」

目が覚めるとすぐそばにゴンがいた。

ここは…もとの本屋…?


「ダメだよ居眠りしちゃ
早く行こう」
「…あ、ああ」


ゴンはいつも通りの笑顔で本屋の入り口に立つキルアの所に走って行った。


そとは明るい。



さっきまでのは…



夢?




「ルイ!!
はやくー!!」
「ああ
今行く……?」

せかすゴンにルイが立ち上がると指先にコツンと何かが当たった。



「…これは」



拾い上げてルイはふっと笑う。






夢じゃなかった









ルイはそれをコートのポケットにしまってから本屋の入り口に歩き出した。










雪国のスノードーム




思い出はガラス玉の中に






時の歯車はまた元の日々を紡ぎ出す。






これはある日の少女と少年の不思議な話







□■□■□■□

-epilog


「ノエル。
何見てんの?」

「あ。
スノードームだ!!」

「ああ。
昔から持ち歩いてるんだが…
一体誰から貰ったのか…思い出せないんだ」

「そんなことあんのかよ?」

「ああ…。

だけどとても懐かしいような…

そんな気がするんだ」

「じゃあきっと大事な人から貰ったんだよ!!」

「…そうか。

そうかもな…。」

「まあ、とにかく行こうぜ。
次の試合始まっちまう」

「ああ」











end


〜〜〜〜
【お礼文】


この作品は雪兎様より一万打記念企画品として頂いたものです。


まずはじめに。
何だこの素晴らしい作品は……。

この間、捧げた文章がカス同然に……。
あ、あんなものを捧げてしまって良かったのだろうか……?
いや、良いはずがない!


ウィル君、ユキヤ君、ノエル君、アリアさんがルイの名前を呼ぶたびに悶えました。
そして、ウィル君とユキヤ君に威嚇されたシーンにも萌えました。


そして、人間になったユキヤ君とウィル君に驚くルイに「可愛いなぁ……」と親ばかを発動しました。


スノードーム……。
ノエル君らしいですよね。
そして、その場面を妄そ……ゲホン、想像すると、ついつい笑みが……。

ノエル君、ルイで良かったら、どんどんそっちの世界に送ります。
というか、絡みがメッチャ見たいです。
可愛すぎます。

というか、ルイはゴンやキルアの世話をしてたから、ノエルの扱いは難なくできると思う。
だから、ルイがノエル君の頭を撫でたとき「雪兎様、よくルイのことをご存知で……!!」
という感じに、机をダンダンと思いっきり叩いて悶えてました。
そして、ノエルに「また来てね」なんて言われたら……、ルイは間違いなくノックアウトされますね。
なにこの子可愛い。
よし!念能力開発して、再会して見せようじゃないか!と決意して、修行に勤しむことでしょう。

一瞬で想像できたところが怖いです。
というより、ここまで私の妄想力を引き上げた、雪兎様が怖いです。

わ、私の萌えるところを分かっていらっしゃる……!!


もう悪いところなんて見当たりませんね。
全部、良いところばかりで……いや、逆に良いところが多すぎて、萌えすぎるところが欠点……?
欠点にならない欠点……。


挿絵の方も、可愛くて可愛くて……。
個人的にアリアさんの表情に萌えました。
何か「はにゃ〜ん」って感じの表情が、可愛い!!
紅桜も、いい感じに笑ってて……。
この表情は、これから先このメンバー以外には見せないでしょうね!!
というか、見せないで!
そっちの方が萌えるから!!

そして、ルイとノエル君……。
ノエル君、その見上げ加減グッジョブ!
上目遣い、可愛い……。
ルイ、貴女そんな優しげな表情できたのね……お母さんは嬉しいわ。
そして、貴女その絶対領域隠しなさい。
そんな色っぽい太腿出してたら、悪い虫がいっぱい付いちゃうじゃないの!!
……いや、見られてると気づいた時点で相手を蹴飛ばすんですね。わかります。



……お礼文、というより萌えた場面ですね。
ま、まあそれほど素敵だったということで!


グダグダ文……?
ああ、私が書いた文のことですね。
それしか無い。


雪兎様。
こんな素晴らしい作品を、私にくださりありがとうございます!
これからも、仲良くしてくださると嬉しいです。


 





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