一人称



ショーウインドウに 映る自らの姿をみて、オレは溜め息をつく。

(服、買おうかなあ…)

オレは 生まれついて男と女、二つの性をもつ特質系念能力者。
今は女。
ホットパンツに半袖のシャツと緑のノースリーブの上着。
首にゴーグルをさげて、右手首に赤いリストバンドを着けている。
これが女の時の姿。

ただ、いっつもコレなのもってノブナガおじさんが心配して。
そしたら、クロロお兄さん(おっさんいうと落ち込む)が大量の札束をくれた。

洋服 買えってさ。こんなに貰ってもなあ…
お洒落は嫌いじゃないけど、別段 こだわってもないし。
でも、おじさんたちがいうことにも 一理あるんだよね。

「あ」

そうだ、誰かに聞いてみよう!
そうと決まれば行動だ、えっと

「すみません、そこの黒っぽい青い髪の人ー!!」

スタイリッシュ美人さんをみかけ、声をかける。

ふりかえった…けど、

眼光が鋭ぇええええ!?



□■□■□■□





道を歩いていたら、誰かに声をかけられた。

またナンパか?
イラッとしながら振り向くと、そこにいたのは女の子。なんだ。

「なにかようですか?」
「あ、あの、服を買いたいんですけど、迷っちゃって」
「そうですか。それで」
「あなた、センスよさそうだな〜って、思って」

気のせいか? 怯えてるような。

「別にいいですよ。男だったらナンパだと思って殴るところでしたが」
「そっ…そうですかぁよかったあ!!」

なぜか胸を撫で下ろしつつ、ニッコリと微笑む。

「今 女でマジでよかったぁああ…!」

とか小声で呟いている。
なんか変わった奴だな。

「あーでも、俺もそんな服好きでもないし」
「え、俺?」

俺の一人称をきいたとたん、キョトンとした表情を浮かべる。

確かに、俺は女だけどさ。

「おかしいですか?」
「いやいやそうじゃなくて! オレも自分のことオレっていうんで、久しぶりに一人称俺の女の人に会ったなあって 嬉しくなっちゃって!」

パアァアアっと顔を輝かす女の子。
ま…まあ、嫌ではない、な。

一人称をキッカケに 俺達は話が弾み、一気に交友を深めた。




□■□■□■□


「ルイ、なにやってんの?」

珍しく仕事がなくて、散歩しているとルイと知らない女が見えた。
これまた らしくなく右往左往しているから、好奇心から 話しかけてみるとキラキラした目で見上げられた。

「イルミ!!」
「うん、そうだけど」
「ちょっと服を選んでくれないか!?」
「え、ウェディングドレス選ぶの?」
「違う!」

なんだ、残念。

「で、なんで?」
「この子、ニュースターっていうんだけど。服を買うのに悩んじゃってさ」

イルミこういうのセンスありそうだし、選んでくれ! とか。
面倒だね。しかも、ルイなら ともかくさ。

「頼むよ」
「…はあ。高くつくから」
「金とるのかよ」
「いや、ルイだからデートの予約か結婚式で」
「高すぎる!!」

慌てて止めようとするけど―まあ、いいか。放ろう。

「えっと、あの、オレ別に無理してもらわなくても」

汗をダラダラとかいているニュースターも無視。
君のことは どうでもいいんだよ。

「や、でも ルイさんは―うわあっ!?」

慌てるあまり、ニュースターは ガタンと倒れ 額を打ち付けた。
派手に転んだもんだね、割れたんじゃないの。

…あれ?

「いたたたたたたたた」

額をスリスリ擦りながら、立ち上がったニュースターは

「男?」
「え、ど、どうなってんだ!?」

緑の長袖ジャケット、白いシャツ。額にゴーグル、左手に赤いリストバンド。

さきほどまでの女に よく似た服装の少年は、今更 自分の変化に気がついたようだ。

「わあー、能力発動しちゃったあ…」

声も低くなっているが、感情をそのままだす表情や 動作は、ニュースターそのもの。

「どういうことだ、ニュースター?」
「えーと。説明したいのは山々ですが、視線が」

周りを見渡すと、店のなかにいた人間がニュースターを見始めている。

「そうだ、逃げよう」
「え!?」
「あ、ちょっと」

ひらめいた! という顔をして、ルイは ニュースターの手をひき、超特急で走り出す。

…あーあ、見えなくなっちゃった。
どさくさに紛れて、ルイを飾り付けようと思ったのに。ちぇ。


□■□■□■□



「というわけで、買えなかったのでした」
「そうか。大変だったな」

出掛けたときと違う男の姿で帰ってきたニュースターは 気まずそうに説明した。

「それにしても、ルイに会うとは。すごい偶然だな」
「今日はツイてない…帰りたい…」

俺を睨み付けながら、ニュースターの背後に隠れるルイ。

「生理的に無理!!」

そこまでいわなくても。

軽く泣きそうになりながら、プリンをすくう。

やめろノブナガ、そんな目で見るな。


一人称俺同盟っ


(おじさんたち、ドンマイ!!)





[back][top]
- ナノ -