私だけの刹那の乱舞



「ズミさん!見て、くれていましたか?」
セヴリーヌが少し息が上がった状態で私の待つリンク袖に滑り寄ってくる。
「ええ、見ていましたよ。今のところのアクセルで手を上げるのは力強くて良いと思います。」
「力強く、見えましたか?良かったです…」
私がそう言うと胸を撫で下ろした様なホッとしたという様子で微笑んでいる。
「セヴリーヌがいつも言う、私の生きている世界が外であるなら、あなたの生きている世界はここですね…」
自分で言うのも何だが唐突に私は彼女の手を掴みそう口にした。セヴリーヌが驚いた顔をしているのは言うまでもない。
「突然ですね……ええ、まあ、そうなりますね。」
彼女は少し困ったように笑い少し間を空けた後に肯定した。
「でも、またどうして?」
「あなたが生き生きしてられる場所がリンクの上だということですよ」
「それは、まあそうなんでしょうね…ここは私を表現出来る場でもあります。外ではそれは叶わない。」
私が握る手を強ばらせ目を逸らし彼女は残念そうに言った。
「あなたの世界を見せてくれませんか、私にも…」
「それは…ズミさんも滑ってみたいということで良いんでしょうか?」
セヴリーヌは意外だ、と言いたげに私を見る。
「ええ、滑ったことないんですよ」
「そうなんですか?てっきりあるのだと思っていました…」
セヴリーヌは転んでいるのを見たいですねなんて言いながら笑っている。
「手、貸してくれますか?」
「ええ、構いませんよ。」

・・・・・
「手、離さないでくださいね」
「自転車の練習する子供じゃないんですから…ズミさん、真っ直ぐです。視線も…」
彼女の生きている世界に立ってみて思ったことは…誰も居ないリンクで滑ることは私が思っていたよりずっと心細い。誰も見てくれない自己表現を必死に完成させようとしている。
「あなたが居るじゃないですか。そんな顔しないでください…」
私の思っていることを読み取ったかのように彼女は私に言った。
「あなたが、あなただけが見てくれるのならその為に私は更なる上を目指し滑り続けます…それではズミさんは不満ですか?」
「あなたが、それで良いのなら私がとやかく言う事ではないですよ…ただあなたの演技は儚く美しい、それでいて力強い。それを私だけの物に出来る嬉しさと、私だけの物にするには惜しいという気持ちの半々です」
私がそう言うと彼女はありがとうございます。と微笑んだ。この先はどうなるのか分からない、ただ今だけは私だけの彼女の演技に酔いしれる。



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