備え付けの木ベラで水ヨーカンを一切れちゅるりと口に運ぶ。滑らかな舌触りが桂好みだ。甘いものが得意でない桂に配慮したのだろうその味わいは控えめで、考え事でもしていたら口にあることを忘れそうである。あの夕暮れの沖田の背中を思い出して、それに気をとられたままつるつるとやっていたら桂が怒った。

「おい銀時、貴様食いすぎだ。リーダーや新八くんにもと思って持ってきたのだぞ」
「神楽なんか一口だよこんなもん。アイツに持ってくんならダースだダース」
「いただきものだからな。感想のひとつも言わねば済まん。俺にも一口くれ」
「ん」

桂がそう言うので咥えていた木ベラで半切れすくって水ヨーカンを口に入れてやる。俺が木ベラを差し出すと、桂は何も疑問を持たずに大人しく口を開けた。木ベラが桂の歯に当たる音を指で知りながら、俺はまた知られぬように小さく溜息をつく。
あの総一郎くんが、コイツに恋ねぇ。
対テロ特殊対策部隊と攘夷党党首。一体何がどうしてそうなったのか検討もつかないが、何かがどうかして沖田は桂に恋をし、桂も沖田を気にかけているらしい。というのはこの妙な名刺から想像するしかない訳だが。

「・・・蕎麦屋、盛況?」
「まあな。一時期出前をやらんかと毎晩催促の電話をする者もあったよ」
「へー。じゃあソイツに真っ先に知らせてやれよ」
「急な家移りだったからな。移転の知らせも出来ず終いだ」

ああそういうこと・・・。
恐らく何かの拍子に真選組と桂の家デンが繋がっちゃったんだろう。まさかと思うがまさかな事なんて世の中にはゴマンとある。ある日突然猫になったり下半身がドライバーになったりすることもある、と思えば宿敵同士の家デンが繋がっちゃうことくらいあったって驚くことじゃない。ついでにいうとその所為でロミオとジュリエットな恋が芽生えちゃったとしても、まあ驚くことでもない・・・か?
話す桂の瞳は静かで、ちりりと燻るような沖田の瞳と対照的だ。恐らくこのちょっとトウのたったジュリエットはまだ、駆け出しの青いロミオに対して恋というのではないらしい。
そのことにちょっとホッとして、茶を啜る桂の顔を見上げる。さっきから何だチラチラと、と僅かに眉が寄せられた。

「そりゃ残念ねー。毎晩電話かけてくるなんてジョーネツ的じゃん。ハツカレのできた女子中学生でも今ドキねーよ」
「そうだな。風呂の空くまでとか言いながら時々「早く風呂入れ」なんて言われてたりな。あれは可笑しかったぞ」
「蕎麦屋の親父と客が毎日ナニをそんな話すことがあんの?」
「うん?まあ他愛の無い世間話だ」
「よく追いかけっこしてんじゃん。井戸端会議にしとけよ電話代かかるんだし」
「そういうワケにもいかんだろう。「蕎麦屋の親父」と「客」は追いかけっこなぞせん」
「・・・まーね」

空になった水ヨーカンの箱を名残惜しくテーブルの隅に押しやって、またごろりと横になったら枕にしていたジャンプがソファに沈んだ。
こら銀時、食べてすぐに寝ると牛になるぞ。なるか馬鹿、オメーは俺のかーちゃんですか。
お決まりのように一言二言じゃれあって、俺がむすっとして目を閉じるのを見届けてから、桂は急須に湯を足しに行った。その背中を片目で見送りながら、今度は声に出てたかもしれない、気持ちだけは心の中でだけ盛大な溜息をつく。
総一郎くんもカワイソウに。時代が変わればどうかは知らんが、今は立派な敵同士。誰に相談できるでもなく、刀向けなきゃ会えもしない。
まァモンハンの中とか雪山で遭難とか、敵対どころじゃないビックリドッキリアワーならば話は別だが、よしんばそういう特殊状況でうまくイイカンジになったとしても今度はまた節々で邪魔が入る訳よ。万事屋の旦那がさりげなく且つ確実に決定打を打てなくしてくるワケよ。あーカワイソウだカワイソウだ。輝く青春の一ページがだいなしだ。性春したいオトシゴロなのにねぇ。

湯を汲んで、桂がまたこちらに戻ってくるので目を閉じた。チラチラ見てるとまたさっきみたいに不審がられるので。
昔から、何故かしらたぶん今も、一番に近い近距離をキープしながら、俺たちは綱渡りをしている。いや、実際綱を渡っているのは俺ばかりで、今はなんとかこの距離を保とうと桂の一定距離より内に入ろうとするものを牽制するにとどまっている。
さっさと綱を渡りきってしまえばいいものを、まァ・・・色々あンだよ。色々。

「ヅラァ」
「ヅラじゃない桂だ」
「さみしい?」
「何を馬鹿な。続ける訳にもいくまい。タイミング的にはあれでもギリギリだ。・・・だがまあ、」

さっき桂はギリギリまで茶を注いでしまって、身体をかがめて必死に啜ろうとしている。熱い茶を零さない程度に減らして、何とか湯のみを持ちあげるとやっとこちらに視線を向けた。
そして熱を冷ますようにふうと大きく茶に息を吹きかけたと思うと、ブレスの直前にぽつりと、




「まあ、・・・・・・・・・・ちょっとだけな」


それにふうんとも応えをせずに、俺はごろりと寝返りを打った。薄暗い室内にはまだ雪の残る時期ながら少し春の匂いのする風が入り込んできて、それが桂の髪をくすぐっていったのを桂が俺の向かいで笑んだ気配で知る。
カワイソウだね総一郎くん。キミも俺も。立場と過去に助けられながら、立場と過去が邪魔をする。
正直言うともし真選組と桂にナニかあるとしたら相手は大串くんかあのゴリラだと思ってた。認めたかないけど土方と俺には似たところがあるし、近藤はむしろ桂のほうが面白がって、記憶ないときに意気投合しちゃってたりする。でも土方は職務に真面目で不器用で不憫だから自滅しそうだと思っているし、近藤は今ンとこお妙に夢中だからまァ滅多なことはないだろうと思っていた。いやーキミは大穴万馬券。その発想は無かった。でもよく考えたら柔軟性はありそうだし、土方なぞよりも余程危険かもしれない。
あとはまだ子供と呼べるほどのその若さが吉と出るか凶と出るか・・・まァがんばれ青少年。とりあえず同じ穴のムジナとして同情する。それはもう大いに同情する。こんなのに惚れちまったのが運の尽きだ。まー今度一緒に呑もう。
だけどその距離あとちょっとでも縮めたら、




(潰すぞ、小僧)




同じ風が鼻を撫でるのに間抜けなクシャミをひとつしながらそんなことを考えていると、風邪かと言って桂が笑った。











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