「で、何でメリーゴーランドォオオ!!?」
「静かにしろ。早くチケットを切れ」

観覧車とかコーヒーカップとか他にも色々ありそうなモンだったのに、親父とオバQが乗り込んだのはメリーゴーランドだった。何でだ!?馬と馬離れてたら文字読みづれェだろ絶対!!
困惑する俺を他所に、二人(もういい。人でいい)は馬・・・の隣の箱に入り込んだ。
そうか、カボチャの馬車!!
・・・・いやでも、それでももっと何か他にあっただろ。
しかし桂は特に違和感を感じていないらしい。柱に取り付けられた鏡の位置も考慮して、うまくカボチャの死角になりそうな馬をさっさと探し、横座りに腰掛けた。

「おい、貴様も早く乗らんか。動いてしまうぞ」
「あ、ああ」

桂がソコってこた、この辺りなら見えねーってことで、じゃあ隣のコイツ・・・いや鏡の角度によっちゃ見つかるな。つーと・・・・アレ?コレ桂んトコの馬しかいなくね?
・・・・・・。

「・・・・おい、何故後ろに座る」
「俺だって好んで座ってる訳じゃねェよ!死角になる馬コイツしかいねぇじゃねぇか!」
「あの親父は無駄足だったのだろう?ならば貴様は見つかっても良かろうが!」
「バカ言え!何が悲しくて一人でメリーゴーランド乗ってんの爺に見られなきゃなんねぇんだよ!」

今回は決定打を押さえられそうに無いとはいえ、ごろつきを囲ってる悪徳商人だ。いつどこでお縄をくうとも限らない。
そんな時俺がこんなことになってたのが知れたら・・・。「フフッ」とか生暖かく微笑まれたら、奉行所に移送する前にたたき斬ってしまうかもしれない。


ちゃ〜ら〜らら〜ら〜♪ちゃららら〜ら〜ら〜♪

音楽が流れ始め、馬が動きだした。子供、その親、若いカップルたちを乗せて。
明らかに一頭だけが重量オーバーだ。子馬型でなくて良かったものの、上下運動しきれていない。
目の前で桂の頭がゴウンゴウンと揺れている。こんなに傍に寄ることなぞ滅多にないので、何だか奇妙な気分だ。
大の男二人が乗るには当然馬は小さくて、自然密着する髪から腰から背中から、立ち昇る香りが憎い。まだ雪交じりの紅梅を思わせるほのかな香だった。そう初心でもあるまいにどきりとする。うっ、と、知らず喉が鳴った。
手元で春午後7時の空の色をした羽織が遊ぶ。これに隠れて分からなかったが、触れた桂の肢体は男にしては随分、しなやかでほっそりとしている。その顔と腕から察するに、きっと滑らかで白い。

(だから何だァァアアア!これは桂だ攘夷党の党首だ俺は何だ!?真選組副長土方十四郎だ!!)

欲求不満の男子中学生でもねぇだろうが!
急に壁に頭をぶつけたくなって頭を振った。当然桂に当たって、「痛い!」と怒られた。
さっきから周りの視線(特に女からの)が痛いのが余計に居た堪れない。もう早く終わってくれ。以前松平のとっつぁんの娘のデートを追わされて、メリーゴーランドにも乗ったことを思い出す。あん時も大概だったが精神的なダメージはむしろ今のが大きいんじゃないのか。
桂に倣って馬車の中の様子を伺う。不意に、ちらっ、と親父の視線が動いた気がした。

ガバッ!
キャーッ!?

「うぶっ!?」
「・・・見られたかな。大丈夫だろうとは思うが」

親父に顔を見られないように、桂はくるっと振り向いて突然俺の首に腕を回した。子連れの母親の、カップルの女のほうの、黄色い歓声が何故か上がる。
桂は気持ち頭を俺の首筋に摺り寄せるようにして様子を伺った。絡められた腕は猫のようにしなやかで、陶器のようにひんやりとしていた。警戒する桂の息遣いが規則正しく胸元にかかって、そこだけ熱い。
動けないまま目線だけ桂に遣ると長い睫毛が伏せがちに影を作っていて、着物の袷のはだけた俺の胸元に桜色の形よい唇が添っている。

(だからァァアアア!!)

今度こそどこでもいいから頭をぶつけたくなったが、それすら出来ないほどもう動けなくなってしまっていていっそ死にたくなった。
逃げるように馬車の様子を伺うと、少し見える親父が何だか所在なさそうにしている。恐らくチラチラ向けられる視線を自分たちへのものだと思っているのだろう。黄色い歓声も何が何やら分かるまい。よし死のう。親父、いっそ今俺と死のう。
オバQの方も口数(?)少なく向かいの席で揺られていた。何か考えているようにも、見えた。
何も考えていないようにも見えたけれども。

ちゃらら〜らら〜♪ちゃららららら〜♪

洗脳されそうなファンシーな音がやっと止まり、ステージの回転も緩まってゆく。
すると、有難うございましたー、のアナウンスが入らないうちに、桂は馬を飛び降りて柱の陰に隠れた。入た堪れなくて早く出たいと如実に物語る親父の顔を見たのだろう。まあその時振り返れば同じものが俺の表情にも見てとれたワケだが。
周りの視線がまた痛い。これを完全無視できるだけでも桂は只者じゃない・・・のかただ単に神経太いのか。いずれにせよ俺にはできない。

案の定アナウンスと同時に、親父はそそくさとメリーゴーランドを後にした。なるほどあのタイミングで身を隠していなければ、あるいは目に留まってしまったかもしれない。
少し後ろをオバQが付いていく。どうやらまだ話は終わっていないようだった。
まァ確かに、60過ぎの親父がオバQに向かってメリーゴーランドの中で「キミ、ウチに来ないか?」なんて絵ヅラはゾッとしねぇが。きっとロクな話はできちゃいねぇだろう。


(ということは・・・、)








「やっぱりかよォオオ!!」
「静かにしろ!早くチケットを切れ」

恐らく個室を望んだろう親父は、今度は観覧車を選択した。
今時ベタ過ぎるのかあまり人の入っていない観覧車は良くも悪くも見通しが良く、桂は「連続した箱に乗らねば様子が見えん」とか言いながらさっさとタヌキの絵の描かれた緑色の観覧車に乗り込んでいった。






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