「総悟ぉぉ!駄目だぞ日曜だからって寝てばっかりじゃ!キャッチボールするかキャッチボール!!」

次の日曜。天気快晴。ごろりと横になって猫よろしく日向ぼっこをしていた総悟のもとに、朝の素振りを終えた近藤さんがどかどかと上がりこんできた。

「別にいいですけど・・・なんでまたキャッチボールなんで?」
「父と息子のコミュニケーションっていったらやっぱキャッチボールだろう!」
「そりゃテッパンですがねェ、近藤さんが俺の親父だったァ知りやせんでした」
「いいじゃねぇか、行って来い総悟。オメーがここで寝そべってっと掃除の邪魔なんだよ」
「この部屋昨日新入りが掃除機かけてましたぜ。掃除って土方さん畳に雑巾がけでもするんですかィ」
「ああそうだよ畳の目の汚れまで拭き取ンだよ今日は!!いいからさっさと行って来い!!」

半ば蹴りだすように総悟を近藤さんに預けて俺はどかりと座り込む。投げつけたグローブとボールは総悟が器用に避けて、近藤さんの腹に直撃した。
たぶんほっといても大丈夫だろうが、なんとなく心配になってしまうのは性分なのか、総悟だからなのか。
グローブとボール片手に何やら話している二人を眺めて、手持ち無沙汰だったので畳の目でも拭こうかと俺は洗面所へ向かった。




「総悟ー!最近どうだ、学校はー!」

ぱぁん!

「麹町の寺子屋の教頭がイジメで辞めたそーですぜィ。あと真新しいのは聞きやせーん」

すぱぁん!

「イジメはよくないぞぉ、カッコワルイ!友達はできたかー!?」

ぱぁん!

「愛と勇気だけが俺のダチでさァ」

すぱぁん!


水の入ったバケツとタオルをぶら下げて部屋に戻るとキャッチボールが始まっていた。
既に会話が噛み合っていないが、少し放っておけばそのうち直るだろう。か。
あと洗面所のタオルが全部攘夷志士タオルに摩り替えられてたんだけどォオ!!また攘夷浪士に進入されてんぞ!つーか地味だなイヤガラセが!!
世間の汚れを落とすらしいソレを畳の汚れまみれにして、日々の警備のザルっぷりに胃を痛める。が、とりあえず今は全てを脇に置いて俺は眼前のキャッチボールを眺めることにした。

「ストイックに生きるのもいいけどな!人生には潤いが大事だとお父さんは思うワケだ!」

ぱぁん!

「そいつァ同感ですねェー、ストイックとかガラじゃねーんで」

すぱぁん!

「そうだろう!そして人生の潤いとは何か!?それは恋だ!ラブだ!!気高く麗しく心根を蕩かされるような天女のごとき女性に巡り合うワケだ!!そうまるでお妙さんのような!!」

「近藤さん、ボール投げてくだせェ」



・・・以下省略。

「どうだったトシ!」
「ああ、まあ総悟も割と楽しんでたんじゃねぇかな・・・会話噛み合ってなかったけど」
「そうか!じゃあ後はアレだな、父子の晩酌!頼んだぞ、トシ!」
「ああ。・・・・・・・・・・・エッ?」


***


「なんでェ土方さん、ンなところで呑んだくれて。凍死してくれりゃァこっちァ万々歳ですがねェ」
「うるせぇな、雪見酒の風流もわかんねェ奴が。オイ総悟、お前も呑め」

その晩。総悟が通るだろう時間を見計らって俺は縁側にスタンバった。隣には一升瓶と少々のつまみ。
親父が息子と晩酌で語らうなら縁側だ。たぶん。ちょうど雪も舞ってるしイイ感じだろうが。
さぁ来い総悟。酒とソレっぽい雰囲気にのまれて普段言えない思春期の悩みを吐露してみろ!

「俺ァこんなクソ寒い所で酒呑むシュミねーんで」
「ちょちょちょ待て待て待ってェエ!?ココは文句言いながらも大人しく座るトコだろーが!!」

表情ひとつ変えずに言い放つと総悟はさっさとスルーしていった。慌てて隊服の裾を引っ掴んで止めた。
お前いくつだ。ちったぁ空気読みやがれ。
総悟はチッと舌打ちして俺の手をひっぺがすと、「つまり待ち伏せですかィ。気持ちワリー真似すんじゃねーや」とのたまった。しかしその後一升瓶と庭を見比べて、雪見酒、とぽつりと呟くと、まァいーやと言って俺の隣に腰を下ろした。
・・・おかしい。何だかんだ言って総悟が付き合うまではいいとして、雪見酒、と呟いた瞬間に、確かに総悟は何かに気を取られていた。まさか蕎麦屋の親父か。蕎麦屋の親父と雪見酒なのか!?ちょっとそこらへん詳しく話してみろ総悟ぉおおお!!

「昼間ッから近藤さんといいコレといい、今度ァ一体何だってんです?」

一升瓶から直接猪口に酒を注ぐと、総悟は視線を庭に向けたまま呆れたように投げかけた。
ぶわりと一陣風が舞い上がり、ちらちらと大人しく降っていた粉雪を散らしていく。
暫くひとりでくいくいと杯を重ねていた総悟は、おっ、と言ってそのうちの一粒を酒盃で受けた。
そしてじっ、と杯の中の酒を見つめると、ひといきに飲み干した。
何だ。こんな殊更に「風流」を感じようとする奴でもなかった筈だが。何というか、少し背伸びしようとするような。ふと、昨夜の近藤さんの、「相手は年上の女性かな」という言葉がひっかかる。
・・・イヤほんと、女ならいいんだけどよ。オッサンはレベルが高いっつーかフィールドが違うっつーか、

「・・・・ちょっと心配なんだよ、俺達としちゃあ」
「は?」
「イヤだから、その、・・・お前のち、ちっちっちっ」
「顔芸ですかィ、それともネズミか?どっちにしろうまくねーや」
「ちげーよ!だからその・・・・

・・・お前の父親としてだなァア!!」

















「・・・・あのさ、トシ、総悟も色々難しい年頃だから、なっ」
「・・・・・・・・近藤さん・・・。アイツに足りねぇのは父親じゃなくて人を思いやる気持ちだと俺は思う」




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