「・・・でしょう、かぶき町のボスネコって奴ァ。ふてぇ顔した猫でしたねィ」

「ぶちゃカワイイ?俺が見た奴ァカワイイ要素皆無でしたぜ」

風呂あがり、障子の向こうから総悟の声が聞こえてきた。廊下をゆく足が思わず止まる。
最近なんだか頻繁に電話をしているらしい。女か?と聞けば蕎麦屋の親父でさァと返ってきたことがある。蕎麦屋の親父と毎晩電話というのも何だか寒いものがあるが、余程馬でも合ったのだろうか。
ライターを探す手を止めて、野暮とは知りつつそっと聞き耳を立てた。

「旦那、猫が好きなんですかィ?は?肉球があれば?あーまァソレは猫のが犬のよか柔らけェや」

「アンタ近江犬上のひこにゃんとか好きでしょう。俺ァにゃんまげのがセンスいいと思いますがねィ」

・・・・・・、

「ねこぢる?あああの目ェカッってなってる奴か。オバQといい目ェカッがお好みですかィ?
やっぱアンタの趣味ァわっかんねーや」

「そりゃ、何考えてんのかわかんねェんだからそうなるだろィ。
・・・なァ、教えてくだせェよ。ちょっとでいいんで」


ナニ蕎麦屋の親父相手に親密な雰囲気醸しちゃってンのォォオオオ!!?


【我が家のアディの思春期について】


「・・・・・近藤さん、ちょっといいか」

総悟の部屋を通り過ぎた俺は痛む頭を押さえつつ近藤さんの部屋を訪ねた。
本片手に一人将棋をしていた近藤さんは俺を見ると、おっという顔をした。正直この人に話して解決するようなことじゃない気はするが、俺たちは長いこと3人でやってきたんだ。総悟のことなら近藤さんしかいないだろう。それに正直こんなん一人で抱えていたくない。

「おうトシ!どうした、またそんなムズカシイ顔して」
「イヤ・・・総悟のことで、ちょっと」
「総悟?総悟がどうした、アッ・・・また民家破壊して苦情きてるとか」
「そのくれェなら良いんだけどよ、いやよくないけど、そうじゃねェんだ、その・・・、」

総悟が最近毎晩のように電話で話していること、相手は蕎麦屋の親父、今聴いてきた内容・・・。
ひととおり俺が近藤さんに話すと、近藤さんはうーんと一度唸って、にかっと笑った。

「そりゃあ女だ!馬鹿だなぁトシ、あの総悟が素直にカノジョできたなんて言うワケないだろぉー?
蕎麦屋の親父だなんてのはカムフラージュだ!そぉーかぁー総悟も遂にそーゆーオトシゴロかぁー」

そう言ってうんうんと近藤さんは感慨深く総悟の「恋」をかみしめている。ですます調で喋るってことは年上の女性かな、何考えてるか教えて、なんて言うようになったじゃないかアイツも!などと。
確かに話の内容から察するに、相手は猫やら可愛いもの好きのようだし、女かもしれない。

「近藤さん・・・。俺もそのセンは考えた。いやむしろそうであってくれと願ってた」

しかし総悟は相手を「旦那」と呼んだ・・・。
総悟が「旦那」と呼ぶのに心当たりがあるのはあの万事屋の白髪頭で確かに総悟にとっちゃ年上だが、アレが猫とか可愛いもの好きという話は聞かないし。うわソレ気持ち悪っ。だいいちあの家デケェ犬飼ってなかったか?
しかし俺のそんな懸念にも近藤さんは怯まなかった。曰く、総悟のことだから、バレないように呼び名を変えてるのかもしれない、と。フツーに考えてカムフラージュでも恋人に「旦那」呼ばわりされるのは女としてイヤじゃないかと思うのだが、そこはそれ。

「・・・まァ、女なら問題ねーんだ。女なら。近藤さん、俺が心配してんのは総悟の電話の相手が「もし本当に蕎麦屋の親父だったら」ってことでよ・・・」

自分でついた溜息が重い。ああ煙草が吸いてェ。懐をまさぐったが、生憎切らしていたことに気がついた。畜生、こんなときに。
向かいの近藤さんはニヤニヤしていた顔を硬直させて、「・・・・・エッ?」と言って俺を見た。
そんな目で見てくれるな。俺だってこんなこと想像したくねェんだよ!

「・・・・恋愛なんざ個人の自由、っちゃァそれまでだけどよ」
「イヤイヤイヤトシ、総悟の娘の名前は俺がつけるって決めてんだから、それは!」
「なんで娘限定だよ。まァまだ色恋沙汰と決まったワケでもねェが、」
「でっでもそうじゃなくても蕎麦屋の親父とメッチャ仲良くなってるワケだろう?よっぽどウマが合ったならそれでもいいんだが・・・もしかしたら・・・」

そう言ったきり近藤さんは腕を組んでうんうんと何やら考えだした。
思えば武州にいた頃から男所帯だったのだし、男色も最近では異端視される傾向が強くなったとはいえ、それほど珍しいことでもない。実際容姿の整っていた総悟なんかはよく男に惚れられたものだった。
まァあの総悟相手に何かできる奴ァいなかったけれども。
色恋沙汰と決まった訳じゃない、と言っておきながら完全に色恋沙汰のセンで考えていた俺にとって、がばっと顔を上げた近藤さんの一言はまさにハトに豆鉄砲だった。

「トシ、総悟には父親が足りないんじゃないか?」
「は?」

考えてもみろ。総悟はミツバ殿と二人暮らしだったし、俺たちはほとんど総悟より年上だったが、あくまで「仲間」だった。そりゃあ総悟は子供だった。最低限の礼儀みたいなモンは教えたかもしれん。でもなあ、総悟は「父親」を求めているんじゃないのか?
近藤さんは拳をぐっと握って熱弁した。それを言うなら母親のほうが深刻に欠乏してんじゃねぇかと言いたかったが、ミツバが総悟を母のように慈しんでいたのを思い出して、やめた。

「トシ!」
「なんだ、近藤さん」
「こうなったら俺たちが総悟の父親にならないとな!」



「・・・・・・・・・は?」




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