いつだったか、バイト先の中国人留学生に「銀ちゃんは子供ができたらメロメロのデロッデロになりそうアル、ウゼー」と言われたことがある。
そん時ゃ「ばっかオメー、銀さんはスパルタよ、ビッシバシよ」とか何とか言ったモンだったが、

神楽、オマエ実はエスパーだったとか言わねーよな。


【パペット・ダンスside 銀時 3】


「オーイ、銀さんのお帰りですよーっと」

返品を諦めてからこっち、目下の問題はあの目玉飛び出るくらいの借金の返済にシフトした。
折角気楽な時期だったが、バイトを増やした。流石にこの時期長期ってワケにもいかないから、単発で割のいいのを探して。おかげでそれまでのバイト仲間で学生最後の旅行にとか、サークル仲間と卒業旅行にとか全部パァだ。世知辛い世の中だね。
玄関先で俺の声がすると、たぶんそれまで狭い居間で絵本でも読んでいたんだろう。小太郎がぱたぱたぱたっと俺を迎えに駆けてきた。そしていつものように、俺が世界で一番弱い顔に満面の笑みを浮かべて俺の足に抱きついた。

(あー、この一瞬のためにバイトしてる)

フられた幼馴染そっくりの人形を溺愛とか正直キモチワリーと自分でも思う。思うんだけども。
イヤでもウチの小太郎見たら多分俺でなくてもこうなっちゃうんじゃねーの。誰でもメロメロなんじゃねーの。だってカワイイじゃん。世界一カワイイじゃんウチの小太郎。アレッコレ親バカ?

PPP・・・

足にしがみついていた小太郎を抱き上げて、イヤー今日も銀さんがんばったわーとか呟きながら部屋に入ると、ジーパンの尻ポケットでケータイが震えた。
ナニ、何の用。多分アレだな、ハケンの・・・、
バイトの斡旋かと思ったそれは、意外にも学部の友人からのメールだった。呑みの誘いか?


【From:坂本辰馬
 Subject:今から行きます
 ――――――
 金時くんこんばんは。最近またバイトを増やしたそうですが体は大丈夫ですか?
 卒業旅行に君が来ないというので土方くんに聞きました。プランツドールを目覚めさせてしまったというのは本当ですか?実は僕もプランツには興味があったのですが、今まで一度も目覚めているプランツを見たことがありません。今度是非見せてほしいなと思います。】


題名と本文逆ゥウウウ!!ていうかアイツほんと俺の名前直す気ねーな!
しかも「今度」って言ってんのに「今から」行くってどういうことだよ!

ピンポーン

・・・・・今から「行く」ってのはさァ、せめて今から「家を出る」ってことなんじゃねーの?
ほとんどメールを読む時間しか与えずに鳴ったチャイムに振り返る元気もなかった。一方小太郎はイキナリ部屋ん中に鳴った大音量に目を見開いてビックリしていた。そういやウチのインターホンが鳴るのは小太郎が来てからは初めてか。このまま鳴んなきゃよかったのに。

「アッハッハッ金時ー、開けとおせー」

厚くもない玄関の扉の向こうで気の抜ける声がした。
バイト増やしたの知ってんだろ。俺が帰ってない可能性とか考えとけバカ本。
えー・・・あんなんにウチの小太郎見せんのヤだなァ・・・。

***


「おお、これがおんしのプランツ・ドールがか!べっぴんさんじゃのー」
「当たり前だろーが。オラとっととドア閉めろバカ本。寒ィんだよ」

追い返そうかとも思ったが、辰馬がプランツにと専用の砂糖菓子を持ってきたので上げてやることにした。
店主と俺以外では初めて見る別の人間に対して、小太郎はちょっと警戒しているらしい。抱き上げた俺のセーターをぎゅっと握って困惑した表情を浮かべていた。

「プランツ・ドールちゅうは観用「少女」ち聞いとったが」
「あー、なんか最近こーゆーのもあるんだってよ」

すっかり警戒モードに入られた坂本はそれでも興味深そうに小太郎を観察した。
店主にもらったトリセツを読み、俺がミルクを用意するところをしげしげと眺めて、ミルクを飲んだ小太郎が俺ににっこりと笑いかけるとおおー、と歓声を上げて相好を崩した。やめてくれる。ウチの小太郎にでれでれすんのやめてくれる。
その後暫く小太郎に構い、そのうち小太郎が寝てしまうと、寝床に運んで戻ってきた俺を見てニヤニヤとした。

「メロメロじゃのー、金時」
「ウルセーよ。目ェ覚めちゃったモンはしょーがねーだろ。なんか枯れるとか言うしよォ」
「アッハッハー、まあおんしの生活が荒れちょったのを心配したき、しょうえいことちや」
「・・・イヤそんな荒れてねーよ」
「イヤイヤ荒れちょった荒れちょった。去年の今ごろくらいからひどかったろーが」
「・・・・・・ナニが言いてーの、辰馬」

ちょうど去年の今頃。俺はフられた。ガキの頃から一緒にいた幼馴染の『別れよう』に深いイミも無いモンだと思ってなんとなく返事をした。ンなこと言ってもどうせ明日もこんなカンジで過ごすんだろうと思って。
そしたら次の日から家にも来ねーし電話もメールも忙しいとかかわされて、おかしいなーとは思った。
でも決定打だったのはアレだな。引越したの黙ってやがった。
高杉に聞いてマジでビビった。その時やっとフられたことに気がついた。
その後の生活は・・・、まァちょっと自暴自棄だったかもしれない。

「・・・『小太郎』ちゅうがか、あん子は」
「・・・・・」
「ワシゃあおんしらとは精々大学からの付き合いじゃき、昔ん頃はよう知らんが・・・似とるがか」
「・・・・まァ、似てるっちゃー似てる、けど」

普段がやかましいぶん、坂本が静かに話しだすと何となく聞かなきゃならないような空気になる。
坂本は俺が桂そっくりのプランツを目覚めさせた偶然を小説よりもナンとやら、と苦笑し、プランツに桂を投影しているようには見えないが、と続けた。

「慰めがあるんはえいことじゃが、おんしまだ未練があるろう」
「ねーよンなモン」
「ヅラもあれで思い込んじょき融通のきかんところがある・・・。いっぺんどうしてでも会って話すがえいちゃろう」
「話聞けよオメーは。ねーっつってんだろーが」
「銀時」
「・・・・・・・アイツの考えてることなんざ昔ッからわかんねーよ。会って話したところで」

会って話して、もう一度フられろってか。
別に無理矢理会おうとすりゃいつだってできた。それをしなかったのは、あの顔であの声で、もう一度拒絶を、今度は理由つきで、ハッキリと示されるのに耐えられないだろうからだ。


坂本は暫く黙って俺を見ていた。その後不意に立ち上がると、「金時、コーヒーないがか」といって台所へ消えた。










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