「そういやァ、見ましたぜィ」
『うん?何をだ』
「昨日アンタがあのオバQの雪だるま作ったとか言ってたでしょう。桜田の団子屋のあたりに。
あんな目立つところに作るたァ癪に障るヤローでェ」
『オバQじゃないエリザベスだ。何だ、蕎麦屋は雪だるまを作ってはいかんか。
なかなかカワイくできているだろう』
「さァ、潰しちまったんでわかんねーや」
『童貴様ァァアアア!!』


【ハンキー・トンクのパレードにノって】


毎晩かけてやる、と宣言したとおり、急の隊務が入らなければほぼ毎晩電話をかけた。
毎晩桂が出る訳ではなかったが、3日かけたら2日は出るので、まあ機会は作れていると思う。コイツほんとに攘夷活動してんのか。
おかげで初日のような緊張はもういい加減に無い。随分軽口を叩きあうようにもなった。
だがそれならさぞや情報を仕入れたのだろうと言われると、これまでのところ分かったことといえば、桂の蕎麦好きと地獄耳のほか、桂が連れているあの白いのはペットらしいということだけだ。
あとは桂の好みの情報ばかり、こっちはほぼ毎回のように増えていく。
桂はカワイイものが好きだ。ふわふわもこもこしたものが好きだ。動物が・・・というよりも肉球が大好きだ。
およそ30近いオッサンの好みではない。でも何となく似合うところが気持ち悪い。
本当は桂一派の使う爆弾や武器の出所を知りたいのに、増えていくのはファンシー雑貨ショップとか肉球を触らせてくれる猫が多い裏通りとかそんなんばっかりだ。
ふざけているように見えても攘夷最大派の党首。そうそう情報が洩れないのは当然といえば当然なのだが。

『不機嫌そうだな、童』
「ええまあ、街ン中ウロウロしてるテロリスト追っかけてったら寒空の下3時間も走らされましてねィ」
『それは健康的で結構なことだ。俺も今日は少し運動したぞ』
「へー。やっと出前始めたんで?」
『いや、知人に会いに出たらな、鎖の切れた仔犬がキャンキャンと追いかけてきおって』
「仔犬なら可愛いモンだ。アンタもカワイイモノ好きなら本望だろィ」

「知人に会いに」にツッコむ気にもなれない。今日桂を見つけたのはスナックお登勢の―――万事屋の目の前だ。そのままかぶき町中心にぐるぐると回されて結局撒かれた。むしゃくしゃしたので帰りに昨日桂が電話口で嬉しそうに話していたオバQの雪だるまを探して潰してきて、今に至る。
雪だるまを潰したら、少しはスッとするかと思ったら、何だか余計にむしゃくしゃした。
不機嫌なのは思うようにいかない桂捕縛や情報収集のためばかりではない。

(潰した時、俺ァ何考えた?)

昨日桂が自慢げに話して聞かせた自信作を、今日自分がたたき潰して、今夜それを桂に告げたらどんな反応するだろうかと考えた。
思い返せ。これが最初ではない。自分は路地裏の猫をいちいち目で追うような奴だったか?ゲーセンのクレーンゲームの中のぬいぐるみをわざわざ眺めたことなんてあったか?それを他の隊士に見られて「沖田さんって意外とカワイイもの好きなんスね!あっ俺クレーンゲームとか得意なんスよー、アレくらいならすぐとれますよ!」とか言って「宇宙海賊ステファン」なんてオバQじみたぬいぐるみを寄越されたのはどこのどいつだ!

(ハツカレのできた女子中学生でもねーやこんなモン)

何かあるとすぐ今夜の電話でそれを言おう、という思考が頭を掠めてゆく。
勿論攘夷浪士の取り締まりや隊務に関することについてはとんでもないと思っちゃいるが、そもそも日常のこまごまとした一コマを桂と共有しようなんて気持ちで始めた電話じゃなかった筈だ。
風呂が空くのを待つあいだ、と嘯いて、寝る前に少し持つこの時間をちょっとでも楽しみにしている、ことを認めたくない。

(知らねぇフリして談笑したって、いずれ斬り合う相手だろィ)

『・・・っぱ、おい童、聞いているのか』
「はっ?あ、あぁ、聞いてまさァ。で、そのレオタードで股間に白鳥付けたオッサンがどうしたんで?」
『ナンの話だそれはァァア!!誰がそんなオッサンの話をするか!
だからな、最近「げーむせんたー」にエリザベスのぬいぐるみが沢山置いてあるだろう。
通りがかる度にあれに挑むのだが、どうしても落とせん。アレなんかコツとかあるのか』
「やってんのかよ。生憎俺ァゲーセンっていやァ格ゲーしかやらねェんで」
『何だ、つまらん奴だな』
「クレーンゲームもできねー奴に言われたかねェや」

ほら。今隊士に渡されたぬいぐるみを「これがカワイく見えてんならオメー眼科行きねェ」と言ってズタズタに引き裂いたのを少し後悔した。
その前に考えるべきはあのオバQのクレーンゲームを置くゲーセンをよく偵察できる巡回ルートを検討することだったろう。いや勿論それもするけども。思考回路の優先順位が狂っている。

「道行くおまわりさんに聞いてみたらいいんじゃないですかねィ」
『マジでか。道行くおまわりさんはそんなに「くれーんげーむ」が得意なのか』
「そりゃァもう。ゲーセン泣かせの猛者どもばっかりでさァ」

畜生。何が面白くないってよりにもよって桂に振り回されているのが面白くない。土方さんに振り回されるくらいなら舌噛んで果ててやると心に決めているが、その次くらいに面白くない。

(・・・・胸糞悪ィ)

何がって、いくら心で悪態ついても、きっと明日の晩も受話器に伸びるだろうこの指が。

「切り落としちまいてェ」
『ああ、あのアームな。俺も全く同感だ』








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -