思い出すにつけ腹の立つ射的屋台から長谷川さんに連れ出され、俺たちは今堤に座り込んで酒を煽っている。
エリザベス・・・ああエリザベス。お前もさぞ無念だったろう・・・。

「あ、ヅラっちちょっと俺ビールおかわり買ってくるから」
「うむ」

ピュゥ・・・ドォン、ざぁぁ、

俺の頭のナナメ上を青い花火が翔けてゆく。そういえば忘れていたがコレは花火大会であったか。
どん、どん、と、色とりどりの花火があがってゆく。次は、

「次は緑だな、銀時」

いや赤だね、と声はしなかった。俺が緑だというとあれは必ず赤だと言った。勝率はどっちもどっちだった。
そういえば今日は銀時と来ているのではないのだ。
久しく祭りには行かなかった。離れていた時期もあった。けれど祭りに行くならば、必ず銀時と一緒だった。
ことに花火はそうだった。高杉は先生から離れようとしなかったし、何となく俺と銀時はふたりで花火の色をあてっこしたりしてたのだ。
今日は銀時もここに来ている。同じ会場で同じ花火を観ている。
けれど二人一緒ではなくて、座る場所は互いの隣ではなくて、話をするのも互いとではない。
・・・いや、三十路前の男がこの感傷はイタイな。リーダーが寂しい男だといったのも否定できん。何だ、こんなに痛々しいのは俺だけか。銀時貴様は痛々しくないのか。なさそうだな貴様。
一緒に花火を観たいとかそういうことを言うつもりはない。てかそれは痛々しくていたたまれん。
ただ、こんな小さな違和感を見つけるにつけ、互いに遠くまできたものだと・・・、

「ただいま〜」
「ああ長谷川さんか。おかえり。混んでいたか?」
「いやそうでもなかったけどね。そういやヅラっち、さっきのエリザベスって生き物こんなんで良かったっけ?」
「こっ・・・コレはっ!!」

缶ビールと一緒に長谷川さんが差し出したのは小さなエリザベスだった。細い透明な棒に支えられて、エリザベスは確かに俺を見ていた。なんという飴細工。なんという芸術品だ!!

「長谷川さん・・・この愛くるしいエリザベスは」
「え、ソレ可愛い認識だったの?イヤさっきヅラっち大変だったじゃん。まァ代わりっていうか」
「長谷川さん・・・!!」

なんだ。なんか長谷川さんがキラキラして見える。俺は思わず長谷川さんの手をとった。

「このようなカワイイ極まりないものを・・・ありがとう」

グラサンで目は見えないが想いの丈を伝えるに支障はあるまい。長谷川さんはやっぱりソレカワイイ認識なんだ・・・とか呟きながら、喜んでくれたんなら良かったよ、と言った。
そして少し辺りを見渡してから慌てたようにオッサン同士で何やってんだかねェと言いながら俺のてを


「ナニ段々カレカノっぽくなってんだァアアアアア!!!!!!」


 グシャァアアアっ

急に視界が暗くなったと思うと頬に芝生のひんやりした感じがあたった。銀時貴様毎回毎回俺の頭を狙うのはよせ!あっコラ貴様それは俺のエリザベスだ!

「何をする銀時!エリザベスを返さんか!!」
「ウルセーよ!折角の砂糖をこんなキモチ悪ィイキモノにしやがって」

そして銀時は俺のエリザベスの包みをひっぺがすとその口の中にオイ銀時ィィイイイイイ!!

「ああああああ!!貴様何をする!!」
「長谷川さんよォ、あんまコイツ甘やかさないでくんない。馬鹿だから。すげー馬鹿だから尻尾振って付いてきちゃうから。こんなん付いてこられたらアンタも迷惑でしょ」

噛み付かん勢いで飛び掛った俺を銀時はまたスパンと叩いて沈めると、長谷川さんと一言二言交わして缶ビール2つと焼きイカを交換してまた人ごみの中に消えていった。何なんだあいつ。俺のかわいいエリザベスを食いにきたのか。他にも甘味はあろうにエリザベスを狙うとはけしからん。

「・・・・ヅラっち、生きてる?なんか頭に刺さってるけど」
「うむ。あれはいつまでたっても騒がしくていかん」

芝生と泥を払って俺は顔を上げた。痛いは痛いが、まあいつものことだ。それよりもエリザベス。
銀時めこの仕返しは後日きっちりさせてもらうぞ。
なんか頭に刺さってる、といって長谷川さんが抜いてくれたのは赤いかざぐるまだった。

何だ、結局これは手にするのか。これを見てるとなんだかやっぱりあんまり遠くには来てないような気がするな。

「あー、さっきの店の。チャイナの嬢ちゃん用に買ってたのかねぇ」
「どうかな。・・・まあエリザベスを食われた腹いせだ。これは没収だ」



はじめて一緒に祭りに来たとき、風車を綺麗だと言ったら帰りに赤いのをひとつ突きつけてきたのだ。
その時俺がとても喜んだから、かざぐるまが好きなのだと思ったのだろうか。
祭りにいくたびに色を変え形を変え、よくも何年も前に買い与えた風車の色形まで憶えているものだと感心するほど、バリエーション豊かに風車はひとつずつ増えていった。
今日、銀時は俺を見つけてぎょっとしたような顔をした。なんで俺と一緒じゃないのにお前はいるの、というような顔をした。


銀時。なんだ貴様も痛々しかったのか。素直じゃない奴め。


この風車、赤い色にはいくつか憶えがあるが、
この真ん中の竹細工は今までお前がくれた中には無かったな。










                                    






風車売る屋台とか見たことないですが・・・まあそこはそれ



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