【リメンバー・リメンバー】




ピュゥ・・・・ドン、ざああ・・・


頭上に炎の粒がきらめくたびに、きゃあだのわあだの歓声が沸く。かぶき町含め、地域いくつかの町が集まった花火大会だ。毎年催されているらしい。
久しぶりに足を踏み入れた、独特の高揚した空気に年甲斐もなくわくわくすると、前方にわた飴やらりんご飴やら抱えて子供らを呼ぶ知己を見つけた。

「あれー、銀さんじゃん。来てたんだ」

夜でも目立つ銀髪は、振り返ってその男と己を認めたかと思うと訳がわからない、という顔をした。まるでいる筈のないものを見た、みたいな顔をして、その後露骨に嫌な顔をした。

「長谷川さんさァ、ダメじゃん爆弾魔花火に連れてきちゃー。つーかオメーは何でいんの?
会場こっぱ微塵にするつもりならウチの神楽ちゃん探してからにしてくんない」
「馬鹿か、俺は市民の憩いの場を壊すなど無粋はせんわ。てか貴様やっぱリーダーとはぐれたのか」
「俺が迷子みたいに言うんじゃねーよ、はしゃいだお子様たちが弾丸のように飛び出してったんだよ」

りんご飴をがしがしと砕きながら銀時がため息をつく。
じきに銀ちゃーん、と声がして、りんご飴のような赤いチャイナ服を翻してリーダーが走ってきた。
「おー神楽、やっと来たか」
「おっ、ヅラとマダオアル!オメーらも来てたアルか」
「リーダー、楽しんでいるようだな」
「おうヨ!金魚掬いの神楽ちゃんとは私のことネ!屋台の金魚全部掬ってオヤジ泣かせてきたアル」
じきにふらふらとやきそばやらお好み焼きやらを抱え込んだ新八くんがやってきて、金魚返しといたからね神楽ちゃんと既に疲労困憊の声で呟いていた。

「ヅラっち、今金魚疲れてるから取りやすくなってるんじゃない?」
「長谷川さん、これでも昔はスピード金魚キャッチャー小太郎と恐れられ屋台に出禁くらってたこのおれだぞ。びっちびちの鮮魚でも引けをとりはせんわ!」
「オメーが出禁くらってたのは頭から水槽つっこんで金魚全滅させたからだろ。
つーかアンタら二人で来てんの?」

あのペンギンおばけはどうしたよ、と言って銀時は胡乱な目を向けた。ペンギンおばけではない、エリザベスだ。エリザベスはアレだ、今日は件の看護師の彼女とデートだ。

「ペットが女連れで飼い主が野郎と二人かヨ。寂しい男アル」
「バイト帰りに偶然会ってさぁ、珍しく一人だったから声かけたらそう言うじゃん。こんな夜取り残された男って寂しいもんなのよ、なァ銀さん。そんで何かノリでね」

うむ。
来ちゃった、と小首をかしげたら銀時に頭をはたかれた。いつも思ってるがお前のこれは結構痛いぞ。

「お前ら揃って寂しいアル。
どうしてもっていうならこの神楽サマの財布にしてやってもいいアルよ!」

貢ぐヨロシ、とリーダーが言うので恐らく銀時の煎餅財布では間に合っていないのに違いない。
育ち盛りの子供らのためだ、と俺は財布を確認し、・・・・・あ、俺はアウトだ長谷川さん。
リーダーが財布を覗き込んでこのマダオどもが!と頬を膨らませるので、お詫びにたまごせんべいを五枚くらい買ってやり、彼らと別れた。ずいぶんアッサリしてたがこれはアレかリーダー、金の切れ目はなんとやら的なアレなのか。いや俺とリーダーの絆はそんな薄情なものではないぞ。
ないったら。たぶん。


***


「いやー、なんかもう改めて祭りっていう気力ないくらい疲れたよね」
「うむ。リーダーは元気そうだな。安心した」

ビールでも買ってテキトーなとこで呑もうや、と長谷川さんが言うので飲み物を売っている屋台を探したが、なかなか屋台が見当たらない。途中で飽きたのでリーダーに荒らされたらしい金魚掬いの屋台でひと勝負した。俺が頭から水槽に突っ込み出金をくらった。
最中、後ろでオイ新八半分持てー、とやる気のない声が聞こえた。ちらりと視線を感じながら、俺は出目金を追った。


***


「あ」
「ん?酒あった?」

その後、なかなか酒を売る飲み物屋台が見つからずうろうろしていると、ふと小ぶりなかざぐるまを売る屋台が目に入った。目のさめるような赤、まぶしい黄色、海のような青。
どれも懐かしい色がくるくるとまわっている。

「あー、こんな屋台まだあるんだ。レトロだねェ」
「・・・そうだな。俺の子供のときからずっとあるからな」

赤いかざぐるま。差し出す白い手。あかい頬のいろ。
子供のころ、祭りに行くと必ずこれを手にして帰ってきた。

「ヅラっち、ソレ買うの?」
「・・・・・いや、これは買うものではない。俺にとってはな」


***


少し歩くとようよう飲み物を冷やす屋台と、隣に射的の屋台を見つけた。
ちらりと覗くと小さな猪口グラスが目に入る。あ、あのデザインは・・・エリザベス!

「長谷川さん、射的をせんか。アレな、あのエリザベスの猪口、アレとれた方が酒を奢るというのはどうだろう」
「え、ヅラっちアレ欲しいの?いいねー俺射的とか得意でさー。
じゃあ遠慮なく奢ってもらっちゃおうかな」
「フッ、俺も普段は拳銃などという無粋なモノは使わんが、なんかできる気がする。ここは奢ってもらうぞ長谷川さん」
「イヤイヤイヤ・・・射的の世界はそんな甘いモンじゃねーのよヅラっち、まァ見てな」

パン、パァン!

ぱん!
威勢のいい音をたてて長谷川さんのコルク弾が当たってゆき、ついにエリザベスは自由へ飛ん・・・!

ぱりん。

「「・・・・・・・・・・・・エッ?」」

「あっゴメーンお客さーん。下クッション敷くの忘れてたよ。いや割れ物コレだけだったからさァ。ごめんねー、あっ代わりに隣のパンデモニウムクッション包もうか」

不穏な音を聞いて後ろを確かめたらしい屋台の親父がへらへらと笑ってのたまう。
パリン、か。そうか、やはりアレはグラスの割れた音だったか。グラスの、俺のエリザベスの・・・。

「親父貴様ァアアアアアア!!
俺のエリザベスをよくも割ってくれたな貴様の頭も割ってくれるわ今すぐそこに直れェエエエッ!!」
「ヒッ!?」
「ちょ、まずいってヅラっち、落ち着いて」

刀を抜きそうになった俺に慌てた長谷川さんが俺を後ろから羽交い絞めにする。ええい邪魔だ!!!そして俺が長谷川さんを退かすべく肘鉄を構えたとき、ゴッ、という音と共に激痛が頭に走った。
おのれ誰だか知らんがこの後に及んでまだ俺の邪魔をするか!

ぎっと振り向くと木刀が俺の頭に刺さっていた。



2/2→



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -