乾いた風に吹かれて、錆びたそれに凭れ掛かる。灰色の空にも疎外感を感じるのならば、僕の居場所など何処にも無いのだろう。持て余した二つの缶コーヒーは指先の冷えを吸収して温くなっていた。片方を空っぽの隣に置いて、自分の分のプルタブに手を掛ける。


冬が好きだと言っていた。
何故かと訊いても教えて貰えた事は無かった気がするから、教えて貰っては無いのだろう。冬なんて寒いだけなのに。この缶コーヒーだって、指に触る固い感触や微妙にスチール缶の味がしたりとかで、本当はあまり好きじゃない。煙では無い白い息をひとつ吐いて、暖かい室内に戻る。
今ではこの匂いを嗅げば安心さえ出来るような、謎の優しさを持ったストーブの灯油の匂いを肺いっぱいに吸い込む。本当はエアコンを買う筈だったのだけど、ストーブの暖かい匂いが好きだって言うから。青いマグカップにコーヒーの粉を入れて、適当に多めの熱湯を注ぐ。舌が火傷するくらいに熱いのを一口喉に流して、やはり缶よりこっちの方が好きだと思う。すぐぬるくなっちゃったり、ちょっと缶の味がする所がいいんだよだなんて、意味が分からない。

ベランダに忘れたもう一つの缶コーヒーを取りに外へ出ると、冷たい風と一緒に何かが脳を掠めた。中に戻って冷めたそれを置いて、青いマグカップを唇に付ける前に”何か”を完全に思い出して、青い欠片が足元に飛び散る。



凪ぐような声を思い出さないように意識して、マグカップの破片を拾い集める。
次に買うマグカップは白なんだろうなとぼんやり考えた。僕は青より白の方が好きだから。缶コーヒーはあまり買わないだろうから、マグカップは買わなくちゃいけない。ストーブも、この分の灯油が切れたらエアコンに買い替えよう。
集めた破片を捨てて、呟いたそれは無意識だった。

「手を繋ぐ理由が出来るから、」

ちゃんと、教えてくれていたんだ。ただあまりにうつくしく紡ぐから、言葉の意味をよく分かっていなかった。

咎められていた煙草に火を付けて、大嫌いな冬を睨み付ける。冷たい両手を擦り合わせれば、最期に触れた温度がフラッシュバックした。
きっと空で泣いている


 
2010/11/20

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