肆
「ちょ、やば、不二くんきたよ!」
「え、まじ!?」
「不二くんー!!」
フェンス越しデビューしたものの、黄色い声援がやばい。部活終わりの出待ちなのか、片付けが終わっても、見届ける女子もいた。
不二くんは、それこそ、男女ともに囲まれやすく、同じクラスになっても関わりが薄い。
「こんにちは」
「え、」
噂の爽やか系イケメン不二くん。なぜか、私と女友達(名前)を見ている。もはや声も出ないらしい、隣の女友達(名前)の限界のようだ。
確かに綺麗な顔だし、彼女いそうだよなー。いや、そしたら、彼女と帰るのでは。
そんなことを考えていたら、彼が話しかけてきた。
「名字さん、だよね?」
「はっ、はい」
え、私か。まさか。隣で「グッジョブ!」と聞こえてきた女友達(名前)の声。声でかいわ。
「君、美術部だったよね」
「あ、ええ、まあ」
「女友達(名字)さんは、茶道部だっけ?」
「そうそう!今日は、ちょうど2人とも休みで」
「ふーん、名字さんは、今度の題材探し?」
「…ん?」
「12月の青春展、出品するんだよね?」
「あ、うん。まあ…」
名前はださいが(失礼)、青春学園主催の展覧会。確か、今は大学生の展示をしていたはず。12月には、中高生の美術部からも出品予定。マイナーだけど、一般公開もしてるし、毎年の美術部的には大イベントの一つである。
「僕で良ければ、相談にのるよ」
「え、いや、そんな、恐れ多い」
「名前、チャンスよ!」
声でかいから、女友達(名前)よ。
「ふふっ、友達も面白いね、」
「…え、そんな」
おいおい、顔赤らめないでー!!周りの視線ちょっと痛いんだけど既に。とはいえ周りの女子は、テニス部の片付けも終わったせいか疎らに散っていく。不二くんは、どうやら、それを見越していたらしい。うーん、ちょっと計画的。別の意味で怖い。
「僕、名字さんの絵に興味があってね。」
「…は、はあ」
不二くんは、とても素敵ににこやかだけど、なんとなく私は苦笑いしか出来ずにいた。
「名字」
「あ、」
手塚くんがいつの間にか、いた。不二くんと帰るつもりなのだろうか。もはやライフ0の女友達(名前)を連れて、退散しようとしたが、手塚くんと目が合ってしまう。
「…」
「…」
なんという気まずさ。昨日の今日で、ライバルについて聞くのもなんとも言えない。
「…帰ろうか」
不二くんの一声。絶妙なタイミング。
「そうだな」
手塚くんも背を向けそうになる。真田くんのお礼、ど、どうすれば…?!いや、もう聞いてしまえ!
「あの!」
「名字さん?」
「テニスしてる人って、何もらったら嬉しい…かな」
不二くんは、きょとんとしていたけど。
「人によるけど、僕は、君の絵かな」
「…は」
聞く人を間違えたらしい。不二くん、笑ってるけど、私笑えない。
「て、手塚くんは…!」
「眼鏡クリーナーだな」
「……あ、ああ、ありがとう」
真田くん、眼鏡してなかったよね。手塚くんなら、昨日の今日で察してくれそうだったけど、無理なようだ。
手塚くんなりの親切心に感謝しながらも、結局、真田くんへのお礼は、1人で悩むしかないと感じた放課後。
「あ、名字さんも一緒に帰「お構いなく!」
女友達(名前)が何か言いたそうなのを後目に、私はフェンスを後にした。フェンス越しデビュー侮りがたし。
手塚くんは、
「油断せずに帰ることだ!」
と、叫んでいた。あれで同い年とは、真田くんと通ずる所があったのかもしれない。そんなことを思った私であった(失礼)。