「どうしたの?」

「何がだ、不二」

「いや、僕の気のせいかな」

テニス選手としても、部長としても、頭のキレる手塚。だけど、決定的に疎いところがある。色恋沙汰。僕らテニス部は全国的に知名度も高い。手塚ファンも勿論いる。中には、勇者もいるものだ。何度か鉢合わせてしまったこともあるが、なかなか秀逸だったと記憶している。


「付き合ってください」
「わかった」
「え、ほんとに?!」
「確か、お前は美化委員会だったな。掃除の点検か何かか」
付き合う=手伝う

「好きです」
「そうか、気持ちだけ受け取っておく」
「は、はい!」
「油断せずに帰れよ」
「は、はい!」
例え、告白されても清々しいはどの秒殺。



部員でも、からかう余裕もなくなる程。最近では、もはや崇拝されるに至っている。ファンの間では、「テニス=彼女」だと囁かれいる。どんまい手塚。

「不二」

「ん?」

「…いや」

先ほどと似たようなやり取りが、手塚から。実は先ほどから、手塚がそわそわしている。僕としては、興味深いので、ついつい楽しんでしまっている。手塚自身は気づいていないけど、恐らく原因はフェンス越しの彼女。

「珍しい子が来てるね」

「…何の話だ」

そろそろ可哀想になってきたので、話を絞ってみるけど手塚は動じない(ように振る舞っている)。

名字名前。美術部、部長。中学時代からの同期だけど、目立つ程のことも無く、当たり障りのない人付き合いの出来る所謂、普通の子。ただ、手塚は、きっと彼女を好いている。
それを感じたのは、勘に始まり、都の展覧会で見かけた彼女の絵を見ているときの手塚の表情から確信した。




「良い絵だな」

「…そうだね」

「俺も負けていられないな」

「…ああ」

俺たちと言わず、俺と言い切る手塚は、何だか切なそうにその絵を見つめていた。絵から伝わる静かな情熱は、手塚にも通ずる所があったのかもしれない。ただ、それだけ。


せっかく同じクラスになっても、当たり障りなく過ごし、彼女も色恋沙汰とは縁もないのか、気がつけば高2の秋。不器用な手塚を見ていると、応援したい気もする。だが、まずは少しは自覚してもらわないと、始まらない。

仕掛けてみるか。

部活終わりにコートから、名字さんに、手を振ってみた。が、周りの女子に手を振ったと勘違いされる始末。あとで、声でもかけてみようか。

「え、誰々ー?可愛い子でもいたにゃー?」

「英二、さすがだね」

「不二ばっかり、いいにゃー」

手を降ったら、英二が飛びついてきた。

「英二も、振ってあげなよ」

「そうするー!みんな、今日も応援ありがとー!!」

…黄色い声援がフェンス越しに飛び交う。女子の声援に名字さんは、ちょっと驚いていた。どうやら、見学は初めてらしい。…やっぱり何かあったのだろう。手塚が、眉間のしわを深めていた。






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