焦がれた朝日 | ナノ


嫌なものばかり目につく


「妹さん、結婚するんだ?」


突然、背後から聞こえた声。いや、背後ではない、耳元だった。

「……は?」

女性相手というだけで、いちいち近いのは、天人の性なのか。変態なのか(失礼)。男でも、近いのかもしれないけど……文化の違いかな、などとくだらないことを考えてみる。

「その手紙」

私の皺を見て、神威さんが指さした。そして、スッと引く。優雅な速度で、笑顔を絶やさないまま、彼は言う。

「俺にも妹がいてねー」

「そうなんですか」

「殺しそこねたけど」

「…そうですか」

「……意外な反応だね」

神威さんは笑っていた。何が意外なのかと言われれば、世の中すべてが非常識に見えるとでも言おうか。私に期待する答えがわからない。

「……」

暫しの沈黙が続く。何かを試すような間だった。不思議と緊張感はない。どちらかと言えば、早く仕事終わらせたいという願望から生まれる、ちょっとした苛立ち程度だ。時間ももったいないので、書類整理や事務処理の書式の確認をしてみる。
神威さんは、何も言わず、ニコニコと眺めているだけ。

諦めて歩みを進めると、神威さんも付いてきた。隣ではなく、斜め後ろを適度な距離を保って歩く。
私も、それからは、特に反応しなかった。一応、仕事相手なわけで、下手なまねもできない。色々、詮索してくるわけでもなく、なんとなく神威さんは、一緒にいた。不思議な感じだが、あの小煩い沖田に比べれば、これが大人ってやつなのかな、なんて納得してみるる。

「終わった?」

「…え、ああ。はい」

買い物を終えたところで、ようやく声をかけられた。わざわざ待っていたのか、え?なんのために。

「それ、送るのってだめ?」

「は?」

「実はさー今すぐ、君が欲しいんだよねー」

あーはいはい、仕事かよ。うん、わかるけどさあ、そういうのは先にいうもんだよね。だいたい台詞のチョイス怪しいのも、どうかと思う。

「うっわ、お前の兄貴ナンパしてるぜ」

「あいつも地に落ちたアル」

「しっ!聞こえるよ!」

…いや、めっさ聞こえてるんですけど。
怪しい3人組が柱から、顔だけ出しながら、時折こっちを指さして、ぶつぶつ話している。

「え、てか、あれってグラサンが着てた服に似てね?」

「知らないんですか!この間、OHK(大江戸放送協会)で再放送してたじゃないですか!バリバリ女性外交官!」

「まじか、私、サインもらってくる!」

「ばっかお前!てめえの兄ちゃんが口説いてるタイミングでいくなよ!」

「だから、良いアルヨ。この男はやめとけって言うためにもネ」

「それ、アウトだろおおお。ここでケンカしたら、あの人まで巻き添えじゃないかあああ」

「外交官なら、ダメ男ならぬ、ダメ女ちがいないネ。いける!」

「いや、何がいけるか、訳分かんねーから!」

…始終、筒抜けで色々話している。去年特集されたこともあったな、そう言えばと思いながら、神威さんを見ると、眉間のシワが増えていた。意外と表情に出る人なんだな。

「送りますよ、それ」

3人組が話している間に、プレゼントは発送することにした。

「悪いけど、付き合うのはここまでね。仕事の契約早めるなら、書類送って」

神威さんに契約書類の控えをわたし、身を翻す。

「今すぐっていったんだけどな」

「わたし、仕事にはうるさい方だから」

神威さんは、表情を変えずに書類を受け取る。


「じゃあ、妹から逃げるのも、だめ?」

だめ?勝手にすれば?

なんだよ、この男。どうしたいのか。夜兎は、兄弟で殺りあうとか言ってたのに、神威さんらしからぬ発言だ。

「君って、意外と面白い人間みたいだから」

「は?」

神威さんは、そう言って笑った。仮面のような笑いとは少し違う。

「書類、書き直すよ。じゃあね」

それだけいうと、何やら満足気に、さっていった。あの3人組も、既に別のものに目が奪われている。あのピンクの髪の女の子は、本当に妹なんだろうか。

まあ、私には、どれも関係ないんだろうけど。

(むしろ、私に関係あるものって、あるのかなあ)

なんて、ちょっと考えてみたり。
そうして、私の長い出張は近づきつつあった。




back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -