誰かの涙の痕


「何コレ?」
麗奈は目の前にあるものを見て、敬語を使うのも忘れて、目を丸くした。
「何コレとはなんだ。何コレとは。」
麗奈の反応が不服だったのか、ネイガウスは少しムスッとした表情をする。


それは、数分前のこと。任務が終わりいつも通り、メフィストに報告をしに行った帰りのことだった。
麗奈はため息まじりにメフィストの部屋を出た直後、彼、ネイガウスは廊下の壁に寄りかかっていた。
(・・・フェレス卿に用事かしら)
そう思いながら、通り過ぎようとした。
「少しいいか。」
壁から離れ、麗奈に近づく。
「・・・・・ええ。」
断る理由を探したが思い浮かばず、麗奈は了解する。
(このごに及んで何かしら・・・何か新しい情報でも?)
黙って歩き始めたネイガウスに麗奈は不審がりつつも、ついて歩く。
やがてネイガウスが使用している部屋までたどり着く。
ますます訳がわからないまま麗奈も一緒に入った。
ネイガウスは机の引き出しを開け、ホッとした表情を見せると何かを取り出す。
「受け取れ。」
ネイガウスの手を離れ、放物線を描くそれを麗奈は慌ててキャッチした。
手の隙間から覗き見えるネイガウスには似合わないパステルカラーに麗奈は意味が解らず、手を開いた。
そこにあったのは片手で辛うじて掴めるくらいの正方形の箱。
麗奈の表情は困惑しており、
現在に至るのである。
「えっと、とりあえず開けてもよろしいでしょうか?」
ようやく麗奈は平静を取り戻しつつあった。
「ああ。」
視線を逸らしながらネイガウスは答えた。
生唾を飲み込み、「きっと、パンドラの箱を開けるときはこんな気分なんだろうな。」と一人思う。
少し固いケースを開ける。そこにあったのはバラのコサージュだった。
「・・・コサージュ?」
あまりに変哲が無さ過ぎるというか、拍子抜けした顔で目が点になる。
そんな麗奈を横目で見ながら、ネイガウスは説明する。
「それは妻のものだったんだが、もういないからな。」
その言葉に慌てて麗奈は顔をあげる。淡白なネイガウスの表情に切なくなる。
「大事な奥さんの片見を・・・」
「いいんだ。使ってくれる人がいるなら妻も喜ぶだろうし。まあ、君くらいしか、使ってくれそうな人が思い浮かばなくてな。」
苦笑いするネイガウスに麗奈は心苦しくなる。
(・・・青い夜で、か。)
麗奈の両親は植物状態だが生きている。しかしネイガウスの妻は死んだ。
「大切に使わせていただきます。」
深々と頭を下げながら麗奈はお礼を言う。
ネイガウスが見つめた空は少しずつ晴れてきていた。



誰かの涙の痕



(妻に最初に贈ったプレゼント・・・)
(キミはそれでも受け取ってくれるか・・・)


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