vs高級バレンタイン


「あれ、アマイモンだけ?メフィストは?」
任務から帰ってきて最初に目に入ったのはアマイモンだった。
「私では不満が?」
顔にチョコレートがついた状態でアマイモンが不服そうな表情でこちらを見る。
「別に。ただメフィストに伝えたいことがあったから。」
上着を脱ぎながら麗奈は言う。
アマイモンはそれでも不服そうな顔を止めず麗奈を見つめる。
「私がだめで兄上はなぜいいのです?」
アマイモンは食べている手も休めた。
そこで初めて麗奈はアマイモンの方を肩越しに見る。
(今日はなんかやけに絡んでくるな・・・)
祓魔師の問題を悪魔であるアマイモンに言うこと自体におかしさをなぜ感じないのか不思議でたまらない麗奈。しかし、事は荒立てたくない。というか正直めんどくさい。今は一刻も早くシャワーを浴びたい気分だ。
(なんかいい話題ないかな)
麗奈はアマイモン近辺に興味をそらすものがないか探す。
(あれは・・・?)
少しアマイモンから離れたテーブルの上に新聞か何か読み物が置いてある。
「そっかバレンタインだ。」
近づき読み物をつかみ、麗奈は記事をざっと見た。
今年の売上ランキングやコーナーの戦線の様子なで書かれている。
「バレンタインですか?」
(よしっ!興味持った!)
一安心する麗奈に気づかず、アマイモンはに尋ねる。
「兄上はジャポンのバレンタインは少し違うとそこにおいて行かれたものなんです。」
「まあ、確かにそうよね。女の子からあげるなんて企業の戦略・・・。」
ぶつぶつ文句を言う麗奈。
「麗奈サンはあげたことはないんですか?」
「いつも貰う側だったよ。」
ちょっと遠い目をする。頭の中では今年のバレンタインについて予算編成会議が行われていた。
「今年は誰かにあげるんですか?」
「まあ、お世話になってる人には。もちろん義理で。」
「ギリ?」
「簡単に言えば付き合いみたいなものよ。本当に好きな人にあげるのが本命。」
「・・・本命は?」
素朴な疑問をぶつけるアマイモン。
「いないわよ、そんなの。」
麗奈は冷たく切り返すと機嫌を悪くする。
「じゃあね。」
最後には一言そう言って逃げ出した。
「行ってしまいました。」
誰もいなくなった部屋を見つめながらアマイモンはぽつりと呟いた。


(・・・本当、信じられない。)
ムスッとした顔で麗奈は廊下を歩いていた。
思わず部屋を出てしまい行くあてもなくさまよう。
「本当、信じられない・・・」
先ほどのアマイモンのセリフが頭をよぎる。
(どうして私の気持ちをわかってくれないんだろう)
胸がキツく締められる気分だった。
「どうかしたの?」
ふと声をかけられ麗奈は振り向く。
「しえみ!?」
そこにはしえみがいた。
「どうしてここに?」
麗奈が目をぱちくりさせる。
「バレンタインの材料を買いに。」
嬉しそうにしえみは答える。
「バレンタインか、しえみは作るの?」
「うん!」
満面の笑みを浮かべるしえみ。
「ねぇ、私も一緒にいい?」


「わーどきどきしてきた。」
湯煎されたチョコレートを型に流しながら、麗奈は呟く。
あれから麗奈としえみは街にチョコレートの材料を買い、一緒に作ることになった。
「大丈夫だよ、そんなに緊張しなくて。」
横でアハハと笑いながらしえみが答える。
「それにしても麗奈はこういうの得意そうなのにね。」
その言葉に麗奈はうっと詰まる。
「本当にしえみがいて助かったよ。しえみはいいよね、女の子な特技があって。」
少し遠い目をする麗奈。
(私なんか力があるくらいだよ)
半分泣き目になる。
「そんなことないよ」
しえみはしえみでほめられたのが嬉しかったらしく照れている。
「それより、誰にあげるの?好きな人?」
照れを隠すつもりで言ったのだがら麗奈の動きが止まる。
「べべ別にそんなんじゃない。世話になってるだけだから。」
どもる麗奈に普通なら説得力がないが相手がしえみな故、そっかあと納得してくれる。
「私もお世話になってる人に渡そうかなー。」
その横で麗奈は赤くなる顔を必死になって抑えていた。


「あれ、アマイモンだけ?メフィストは?」
バレンタイン当日を迎え、麗奈はしえみに教えてもらったチョコレートを持ってメフィストの部屋に来ていた。
「私では不満が?」
そこには前と全く変わらないアマイモンが目に入る。
「ううん、むしろ今日はメフィストがいたら邪魔だった。」
さりげなく上司いびりをする麗奈。
「アマイモン、今日はあなたにね・・・」
とそこで麗奈はテーブルの上の甘い香りの正体に気がつく。
そこにはテレビや雑誌くらいでしかみたことのない高級菓子店のロゴやマークの入った箱がごまんとある。

しかもすべてチョコレートだ。
きっとメフィストが持ってきたものだろう。アマイモンが他人から何かを貰うほどの交流はないはずだから。
(でも・・・)
麗奈は後ろ手に持っていたチョコレートを隠すように身をよじる。
(私なんかが作ったチョコレートなんて、いつも高級なモノばかり食べてるアマイモンに渡すなんて出来ない)
「どうかしたのですか?」
アマイモンはどうして急に麗奈が黙ったのか分からず尋ねてみる。
「な、何でもないよ。大したことじゃなかいから。」
顔をあげた麗奈の顔を見て、アマイモンは表情が固まる。
「じゃ、じゃあ、私、帰るね。」
そう言ってさがろうとした瞬間、
アマイモンは麗奈を真正面から抱き締めた。
硬直する麗奈、動けない。
アマイモンの腕が麗奈の顔の横を通り過ぎ、背中へと回る。
「ア、アマイモン!?」
ようやく声が出た麗奈。
「これですか」
しばらくしてアマイモンが麗奈の背中側から、ラッピングされた箱を取り上げる。
「あっ・・・」
しまったという顔をする麗奈。
「これ、何です?」
目の前にだされ、麗奈は顔をカーッと赤くさせる。
「な、何でもない!」
「ないわけないでしょ。」
言い返すもすぐつっこまれる。
しばらく同じような問答をしていたが、諦めたのか麗奈は観念したように口を開く。
「バレンタイン、アマイモンに。」
なるべく目を合わせないようにする。
「こういうの得意じゃなくて、」
ようやく聞き取れるくらいの声だった。
「しかもアマイモン、高級品ばかり食べてるから。」
「だから私が麗奈さんが作ったチョコレートを食べないと。」
ため息まじりにアマイモンが言うと麗奈はこくりと頷いた。
「馬鹿ですね、あなたは。」
ぽんっと頭の上に手を乗せるアマイモン。そしてそっと抱き寄せた。
アマイモンが食べたであろうの甘ったるい菓子の匂いがする。
「世界中でただ一人、私を想って麗奈さんが作ったんです。いくら高級でも麗奈さんの味には負けますよ。」
その言葉に麗奈は胸がキュッとなる。
「あの、アマイモン。私、あなたのこと。」
するとその口を塞ぐようにアマイモンの唇が重なる。
思わず目を見開いた。
すっとアマイモンが離れると口の中が甘い気がした。
「大好きですよ、麗奈さん。」
単調すぎるセリフ。
だけど今の私には十分過ぎるくらいだった。


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