初詣


「・・・明けましておめでとう」
「お前、クールな性格目指すのは一向に構わないがせめてつっこんでやれよ」
扉を開けた向こう側。
燐の隣に門松帽子を被った雪男がいた。


「ゆっきーの趣味かと思った」
カラコロと下駄の音を響かせながら麗奈は言う。
今日は元旦。
せっかくなので旧男子寮メンバーもとい、幼なじみで初詣しようという話があった。そして朝迎えに来た二人の内一人が頑張ってボケたのだが空振りに終わった。がいきさつである。
「そんなわけないでしょ。なんかクリスマス以降、僕こういう役回りが多いんだけど。」
必死に訴える雪男に気のせいだよ。と燐は言った。


参拝場所は人がごった返していてなんだかまだまだ順番は回ってきそうにない。
「どーする?」
「どうするもなにも並ぶしかないでしょ」
麗奈が尋ねると雪男が呆れたように答える。
「うへぇ。この中並ぶのかよ。」
もちろん燐は文句を垂れた。
「文句言わないの」
雪男はびしっと言うと燐ははあとため息をついた。


「もう朝日が昇りきったな」
朝、早い時間から出て初詣済んでから朝日眺めて寝正月というプランを立てていた燐。そのため昨日からオールしていたわけでかなり眠いらしく、朝日がまぶしい。というかかなりの計画倒れだ。
「兄さん、除夜の金聞くんだって張りきっていたからいけないんだよ」
「あれって本当に108回鳴るの?」
「いや、俺も半信半疑だったんだけどマジで108回鳴ったよ」
燐が嬉しそうに言うと麗奈は私も起きとけば良かったと後悔した。


「ところでもう願い事決まった?」
麗奈が尋ねるとこくんと二人は頷いた。
「当たり前だ」
グーッと親指を立てニカッと笑う燐。
「兄さん、願い事は一つにしてね」
そこに雪男の冷静なつっこみが入った。
「ぐっ!?」
なにかダメージを受ける燐。
「願い事を一つに絞るほうが大変そうだね」
麗奈が横でぼそっと言った。
ようやく順番が回ってきた。
「お賽銭投げようか」
と雪男が言うと3人が思い思いの額を賽銭箱に投げ入れる。軽い音を立てながら、賽銭箱の中へと落ちていく。
「なんで二人ともそんなに額が小さいの。」
落ちていくお賽銭を見ながら雪男が言う。
「俺のお小遣いの額知っての口かよ」
燐が半泣きで雪男を睨みながら言う。
「だってフェレス卿の懐に入るんでしょ」
泣いてる燐の横で麗奈は少し離れたところを指差す。
「「・・・・・・・」」
そこにはメフィストフェレスの犬バージョンの銅像が狛犬の変わりに立っていた。


「さてさて願い事!」
メフィスト犬の銅像を見てショックから立ち直れない二人をよそに、麗奈はシャランシャランと景気よく鈴を鳴らす。
パンパンと手を叩くと合掌し何かを祈った。双子もそれにならいながら渋々祈る。
(・・・何だか激しく願い事が叶わないような気がしてきた)
雪男は先ほど投げたお賽銭の金額を思い出し、やるせない気持ちになった。


「あっ!麗奈さん!」
とお賽銭が終わった三人組は列から外れたところで声をかけられる。
「志摩くん。勝呂くんに、子猫丸くんも。」
振り返れば塾生仲良し三人組がいた。
「奥村くんも、先生も。明けましておめでとうございます」
「「おめでとうございます」」
志摩に引き続き勝呂と子猫丸も挨拶する。
「麗奈さん、今日着物なんですか。かわいいですね、すごく似合ってます!」
熱弁する志摩に少し照れる麗奈。
「ありがとう、志摩くん。二人とも何も言わないから自信なかったんだよね、変じゃない?」
と言いながら、振り袖を少し持ち上げる。
「変じゃないですよ、変じゃない。むしろ綺麗で言葉を失うという感じです」
というなんか恋人っぽい会話をしている横で燐が雪男にぼそっと言った。
「やっぱり門松帽子を被ったのがいけないと思う」
「なっ!?被れって言ったの兄さんじゃん!この裏切り者」
「どうです?このあと二人でおみくじひきにいきませんか?」
「いいねいいね!」
となぜか抜け駆けしようとしてる志摩に4人は割ってはいる。
「黙って聞いてれば変な方向に話すすめんじゃねーよ」
「志摩さんばっかりずるいですよ」
「まあまあみんな喧嘩しないで。すぐそこだし。みんなで行けばいいじゃない。神木さんとしえみもいるんだから。」
「「「「「は!?」」」」」
その言葉におみくじ売り場を見たら、確かに神木としえみがいた。
但し、巫女服で。


「明けましておめでとう!」
麗奈が元気よく声をかけると神木としえみが嬉しそうにこちらを向いた。
「来てくれたんだ」
「明けましておめでとう、麗奈ちゃん」
「当たり前でしょ!二人とも似合ってるよ」
麗奈が巫女装束について褒めると神木は顔を真っ赤にさせ、明後日の方向を向く。
「当たり前でしょ!巫女の血統なんだから」
と言いつつも嬉しそう。
「えへへー」
しえみも照れ笑い。
「え?え?なんでしえみが?」
神木はわからなくもないがしえみがいることに酷く驚く燐。雪男も目を見開いて驚いている。
「忙しいって聞いたから手伝いにきたの」
「あとは巫女服を着てみたかったんだよねー」
麗奈が肘でつつくとしえみが恥ずかしそうにうつむく。
「えらいなー、しえみさんは」
「なんで麗奈さんはしなかったんですか?」
子猫丸の素朴な疑問に麗奈は
「だって正月くらいゆっくりしたいじゃん」
(お願いします!今すぐお手伝いしてください)
巫女服みたさにお手伝いしてあげなよとは言えない男子達であった。


「おみくじなんだった?」
引いたときたまたま隣にいたので勝呂に話かける。
「大吉だった」
と言って紙切れをピッと見せる勝呂。
「え!?すごーい!なんでなんで?」
聞かれても困る質問をしながら麗奈も自分のを見せる。
「わたしなんか吉だったよ。普通すぎてコメントできないよ」
(・・・)
騒ぐ麗奈に勝呂は何も言えないというかそれこそコメントしようがなかった。
「いやいや、運があるだけましですよ。僕なんか凶ですし。地味に運悪そう」
「うん、ゆっきーは地味に運悪そうだよね」
すぱっと言われた言葉に雪男はしょぼくれた。
「楽しかったねー」
どこが楽しかったのか雪男にはイマイチ理解出来なかったが、麗奈は楽しかったらしい。
「帰り、私の部屋寄らない?」
麗奈が何を思ったか知らないが、燐と雪男は首を縦に振った。
「よし決まり!」
嬉しそうに麗奈は自分の部屋へと向かう。


きちんと整えられた部屋に案内されると小さなテーブルを囲んで座る。
「兄さんは?」
「トイレ行ったよ」
つまり今、雪男は二人きりという事実を目の当たりして心臓の鼓動が早くなる。
「ねえ、ゆっきー」
「何?」
「あのね、前から言おうと思ってたんだけど・・・」
酷く小さな声で時々横目でちらちらとこちらを見ながら話す麗奈。
なんとなく言うことが想像出来て雪男は心臓はさらに激しく動いた。
「うん・・・」


「麗奈、飲むぞー!」
バンッと扉があくと同時にシュラが入ってくる。一升瓶片手に。
(え、ええええ〜!)
仮にもここ学校だよと心の中で突っ込む雪男。
「甘酒なら、許されるよね?」
頬に手をやりながら麗奈は少し赤らめ、どこからかやはり一升瓶の甘酒をテーブルに置いた。
「おいしいのか、それ」
そこにトイレから上がった燐がやってくる。
(誰かどうにかして)
もはや雪男には止められなかった。
(本当に僕のときめき返してよ)
雪男は涙ながらに甘酒を一緒に飲んだ。


翌日--
「・・・シュラ、これお酒」
「甘酒なんかお酒じゃないからね」
シュラの持ってきたお酒が甘酒でなかったことに今更気づいた。


「雪男、大丈夫かよ」
「頭痛い」
被害者はここにいた。
(ちくしょー、絶対来年甘酒禁止にしてやるー)
雪男の悲痛の願いはまだまだ届きそうになかった。


back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -