彼女の初めてのお友達


(私と同じ、転校生で女の子)
祓魔塾へと繋がる鍵穴を扉にさし決意するしえみ。
(お友達に・・・なる!)
こうしてしえみの奮闘記は始まった。


昨日祓魔塾に新しい仲間が来た。
なんといっても特徴的なのはスイカズラみたいに金色の中にところどころ銀色がある髪。ふんわりとし毛先に行くにつれ、カールしていてまるでお人形のよう。
瞳は澄んだ青空のように綺麗な色をしており吸い込まれそうになる。
また美白の中にもほんのりとしたピンク色のある肌で本当に・・・
か・わ・い・いんです!!
興奮気味のしえみに周囲の人間は・・・って祓魔塾だから元よりいなかった。


鼻歌まじりに廊下を歩くしえみ。
(一緒に勉強してー)
しえみの脳内で麗奈と勉強するシーンが展開される。


(買い物してー)
これかわいいーとか言い合ってるシーンも追加される。
(話をしてー)
ついでにたわいもない会話シーンも追加。
(そしてー・・・)
脳内が春なしえみ。
が、止まった。


(一緒に強くなりたい!)
胸元で握り拳を作る。
そう、ここは普通の学校じゃない。
悪魔を倒す祓魔師を養成する塾だ。
@@麗奈だってそれなりの何かを持ってきているはず。
(そして・・・)


(いつか二人で学年トップになれたらいいな!)
シリアスシーンが一変、またしえみの脳内に春が来た。
今度は二人の横で燐がお前ら、すげー。なんて言ってる。
(キャーキャーッ)
また一人興奮するしえみだった。




そして麗奈は固まった。
多分数メートル先にいるのは自分と同じクラスの燐の隣に座っていた女の子で間違いないはず。
間違いないはずなのだが、
(どうしよう・・・声をかけるべきか)
うーんと悩む麗奈。
出来れば面倒くさいことは避けたいのだがとおもいつつも麗奈はため息をついてまた歩き出した。


「あっ・・・あの」
不意に後ろから声をかけられ、しえみは動きを止めた。
(この聞き慣れない声はまさかっ・・・!?)
慌てて後ろを振り向くとそこには


金色の髪
碧色の瞳
白色の肌
まごうことなき麗奈だが多少しえみビジョンで美化された麗奈がいた。
(麗奈ーー!?)


さらに固まるしえみに対し、麗奈は悪いことをした気分になり、
「だ、大丈夫?」
と声をかける。


(どうしよ
どうしよ
どうしよ)
脳内で小さなしえみが走り回る。
(向こうから話しかけてきちゃったー)

テンパるしえみを目の前にして麗奈も動けない。
腕時計を見れば、授業開始までそんなに時間はない。
出来れば転校そうそう遅刻とかはしたくないのだが、自分が話しかけた以上、放っておくのも失礼であるため動けなかった。


(落ち着けしえみ
これはチャンスよ!)
脳内しえみがはっと気づき囁きかける。
(そうだよ
これは仲良くなるチャンス!)


「ああああああああああのっ」
俯き、しかし髪の隙間から顔を真っ赤にして辛うじて聞き取れる声を出すしえみ。
(!?)
麗奈もただならぬ雰囲気を感じ取ったのか身構える。


(あれは三日月さんと杜山さん?)
名簿を脇に抱え、教室へと向かう途中で雪男は自分のクラスの子がいることに気づく。
(もうすぐ授業始まるんだけどな・・・)
何を話しているかは知らないが、教師としての立場上、教室へ早く入ることを促さないといけない。
そう判断した雪男は二人に近づき、






「わ、私とお友達になって下さい!」





「!?」
今度は麗奈が驚きを隠せず止まる。


「・・・・・・」
雪男もまさかそのセリフが来るとは思わず動けなくなる。


(前の神木さんのこともあるから心配なんだけど)
と思いつつ、横で金縛りにあったみたいに動かない麗奈を見る。
(相手が麗奈さんなら心配ない。か)
授業のことは忘れしばらく様子を見ることにした。


(お友達)
しえみが言ったワードが頭の中でリフレインする。
そして自分のかつての師が言った言葉を思い出す。







幼い麗奈は気になって聞いてみることにした。
先程「親友からだ」と言って通話に出た師は程なくして罵声と共に通話を切り、悪態をついた。
「はあ? 友達がどんなもんかって?」
今の聞いてたか? と言わんばかりに首を傾げながら質問を返す師。
「ダメダメ、あんなもん。浮かれ野郎だし、人のこと散々こき使うし・・・」
とどちらかというと友達より親友個人に対する愚痴をこのあと三分くらい聞かされた。
しかしその後に師は笑って言う。
「まっ、悪くねーよ。」
師は大きな手で麗奈の小さな頭をぐわしゃぐわしゃとかき乱すと
「お前にもそのうちできるさ。祓魔師じゃない一緒に戦って一緒に家に帰るやつが。」
麗奈にはそれが祓魔師の仲間とどう違うのかわからなかったが、
「うん!」
と嬉しそうに答えた。


(あの方が笑顔でああ仰られたなら、間違いなくいいものなんだろうな)
目の前の必死な少女を見て、@@麗奈は目を細めた。
「うん、よろしく。」
気づけばそう言っていた。


「本当!?」
がばっと顔をあげるとしえみはパアアアアアと嬉しそうに言う。
「うん、本当。」
麗奈は恥ずかしそうに俯いた。


(良かった良かった)
しえみにまた一人友達が出来たことに雪男は一人納得したように頷くとひっそりと近づく。


「じ、じゃあ今度一緒に遊ばない?」
「うん!」
「買い物も!」
「うん!」
「それから・・・」
「はい、そこまでー、」
と盛り上がっているところに雪男が割り込む。


「雪ちゃん!?」
「もうすぐ授業始まりますから、教室に行きますよ。」
ニコッと笑った雪男が正直怖かった。
「「は、はい。」」
二人は口を噤むと雪男を挟んで歩き出した。






「もう授業始まってますよね?」
子猫丸が不安そうに尋ねる。
「あの奥村先生が遅れるとは考えられへんな。誰かさんと違って。」
勝呂はちらっと誰かさんをみる。
「誰かって誰だよ。」
燐も燐で勝呂を睨みつけた。
「それより奥村、杜山さんまだ来てないけどどういうこと?」
今度は別の席の神木が問いかける。
「俺だってしらねーよ。」
(何だよ、どいつもこいつも雪男やしえみばっかり)
いたたまれない思いをしながら燐で小さくなりながらルームメイトの糾弾を受けていた。


「転校生も来てないみたいですし。」
その志摩の言葉に教室が静まりかえる。
「そういえばアイツなにもんだよ。」
勝呂が気味悪そうに答える。
「"ちょっと強いだけ"とか何よって感じ。」
フンとそっぽむく神木。
「いやでも、確かに昨日のあれをみたら、ここにいる誰よりも強いかもしれません。」
子猫丸の言葉に神木が噛みつく。
「昨日の話なら聞いたわよ。だからむかつくんじゃない。」
腕組みをしてツイと明後日の方を向いた。
(でも、ま、奥村と同じで"謎"よね)
神木がちらっと燐を見るとまだうなだれていた。
(一体、何者?)
それが燐に向けたものなのか麗奈に向けられたものなのか、はたまた両方に向けられたものなのかは定かではない。

ガラッ
「はい、おはようございます。皆さん。」
雪男の挨拶にクラス中が入り口を見る。
そして一同固まった。
なんてったってそこには、雪男がものすっごい笑顔でその横に嬉しそうなしえみがいて反対側には恥ずかしそうに俯く麗奈がいた。
(((((何があったー!?)))))
まだこれが生徒二人が落ち込み、雪男が少し怒ってる様子ならまだわかる。しかしこの図となれば何があったか検討もつかず一同絶句した。


「二人とも早く席についてくださいね。」
雪男の言葉にしえみは気持ち悪いくらいに「はーい」とにっこり返事をし(現に神木は「気持ち悪」と呟いた)、麗奈は慌ててコクっと頷くと急いで自分の席に座った。


「さて、皆さんも早く杜山さんを見習って三日月さんと仲良くしてくださいね。」
名簿を開きながら言う雪男に、燐がばっとしえみを見る。
「え? 何? もう友達?」
断片的な燐の問いかけに、しえみは「うん!」と嬉しそうにうなずいた。









「どうして杜山さんは祓魔師になろうとしたの?」
休憩時間、しえみと麗奈は廊下で話をしていた。
「しえみでいいよー。」
「うん。今度からそう呼ぶ。」
その言葉に安心したように麗奈は一度目を伏せると紡ぎ出すようにゆっくりと話し始めた。
「私ね祓魔師になろうと思ってここに来たわけじゃないの。外の世界を知るためにここに来たの。」
うっすらと開けた瞳はどこか寂しげだった。
「でもね、悪魔と戦って命がけで怖くて、それでも誰かにありがとうって言って貰って嬉しくて、何かを守りたいって思えて。」
寂しげな瞳にはしっかりとした意思が宿っていた。
「だから三日月さんとも一緒に戦ってそれで守れたらなー…なんちゃって。」
てへへと笑いながらしえみは自分の言葉に照れる。
「悪くねーよ。か。」
麗奈はかつての師のセリフを言ってみる。
「なんか言った?」
しえみが顔をあげると麗奈はふるふると首を横に振った。
「そんな関係になれたらいいなって言ったの。」
「三日月さん・・・」
「しえみ、麗奈でいいから。」
「麗奈・・・」
躊躇いなく下の名前で呼ぶとしえみは麗奈の腰に思いっきり抱きついた。
「大好き!」



父様、母様、
私にも可愛いお友達が出来ました。



麗奈は小さい子をあやすようにしえみの頭を撫でた。




<続く>


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