彼女の恋愛と日本支部


今までいろんな人に告白されてきた。
「君のことが好きです!」
「僕と付き合ってください。」
「愛してます。」
「これから先、君と一緒に歩みたい。」
「一緒に寝ない?」
でも全部断ってきた。
付き合うということ自体に必要性を感じられなかったし、余計な繋がりは自分を縛るだけだと感じていたからだ。
だけど、今回は違う。
自分と元から強い繋がりがある者からだ。
何て答えたらいい?
何て答えようとしている?
(そもそも・・・)
固まったまま視線が外せない。
(・・・私の母親が好きだったはずなのに)
目の前の男は自分の母親が好きで母に告白もしたことあるはずなのに、
(Why・・・?何故・・・・?)
母のことを話す顔が今でも好いている様子だったのに・・・・




私のことが好き・・・?




あまりに信じられなく、言葉が出なかった。



「私が愛しているのは麗奈、あなたなのです。麗奈さんが生まれて15年間。ずっと見てきたんです。----あなただけを。それでも信じていただけませんか?」
時計の針はきちんと時間通りに動いているのに、麗奈の周りは時間が止まったように何一つ動かないそんな気分だった。
何の感情も生まれてこず、目の前にあるメフィストの顔を見るだけで精一杯。
それでも何か言わないとこの場が打破出来ないのを察した麗奈はまだメフィストにされたキスの感触が残る唇を懸命に動かそうとする。
しかし言葉が生まれない。
否定は関係を壊してしまう?
肯定は想いに対して欺く?
何が正しい?
しゃべらないまま時間が流れていく。


コンコン
暫くして扉を叩く音がした。
「「!」」
そのイレギュラーに二人は驚いたが、すぐにメフィストはふうとため息をつく。
「すぐ開けますから、待ってください。」
メフィストは扉に向かいそう告げるとおもむろに麗奈から身を離した。
「待って。」ともいえず、麗奈はすっと視線を外す。
メフィストが降りると若干ソファが浮き上がった気がした。
麗奈が天井を見上げていると、メフィストが上着の乱れを直す音が聞こえる。
「別に麗奈さんを困らせようとしていたわけではありません。」
背もたれのせいで見えないメフィストの方に視線だけ向ける。
「返事もいりません。他の誰かと付き合おうが構いません。」
服装も整ったのだろう。メフィストが扉に向かって歩く音がしはじめた。
「ただ、私のこの想い。
あなたに知っておいてほしかったんです。」
メフィストは背もたれのせいで見えない麗奈の方を向いて告げる。
麗奈は右腕で照明の明かりから目をかばう様にして天井を見つめたままだった。
「・・・・・。」
それ以上メフィストは何も言わず、扉を開けた。
「お待たせいたしました。何でしょう?」
廊下で待っていたのは、全身黒尽くめの忍者のような人間だった。
いつもメフィストの近くにいる祓魔師の一人だ。
「ご報告申し上げます。今しがた、こちらに中級祓魔師の椿馨が来ました。」
(椿先生・・・?)
知っている名前に麗奈は耳を研ぎ澄ます。
「本日の訓練生の任務中に、”山田”という生徒が実は、ヴァチカン本部の上級祓魔師ということが発覚致しました。」
麗奈はそこで口端をニィと歪ませた。
「霧隠シュラ。本部より危険因子の監察として訓練生に混じっていたようです。」
(シュラが動いた----)
少し嬉しそうな顔をする麗奈。
対するメフィストは黙って聞いていた。
「現在、奥村燐を連れて基地へと移動中。椿に"引きずってでも連れてこい"と言ったそうです。」
そこまで言って一度息をつく。
「いかがいたしましょう。」
数秒、メフィストは黙っていたが、結論が出たらしく口を開く。
「行こう。椿に案内させる。すぐ支度を整えるから、君は先に降りて椿に伝えておいてくれ。」
そう指示を出すと、一度礼をしてすぐに下がった。

扉が閉まるのを確認すると、踵を返して廊下を歩く。
(戦場の姫騎士か・・・)
ソファーから若干見えた着物の裾を思い出しながらそんなことを思う。
以前よりメフィストの部屋に出入りしているし、第一メフィストが他の女を連れ込むようなことはしない。
(何を考えてるんだか・・・どいつもこいつも)
これから起こる不安に悪態をつきながら椿のもとへ向かった。


扉が閉まり、気配が完全になくなったのを確認すると、メフィストは「さて。」と呟いて見えない麗奈の方を見た。
「目論見通りシュラが動きましたよ。」
すると、麗奈も体を起こしながら答える。
「この前のが効いているみたいね。」
背もたれから見える少し髪の乱れた麗奈にメフィストは自然と目を逸らした。
そんなメフィストをよそに麗奈は先日の今日橋上での出来事を思い出す。
(アイツが動き出さないといいんだけど・・・)
麗奈の脳裏に一人の人物が浮かび上がる。
「シュラ姉さんも・・・」
とそこで麗奈は言葉をきる。
「待って・・・。今、訓練生の任務中って報告でしたか?」
みるみるうちに麗奈の顔から血の気がひいていく。
「ええ。ちなみにメッフィーランドでのゴーストバスターです☆」
全部把握しているメフィストからしてみれば笑いが出るほど面白かった。
「あああああああああ!忘れてた!!」
今日が訓練生の合同任務ということを忘れていた麗奈。ようやく思い出したらしい。
かなり慌てた顔で大声を出す。
「今頃気づいたんですか?あはははははははは!」
横ではメフィストが体をくの字に曲げて笑っている。ちなみに隠そうとはしていない。明らかに馬鹿にしている。
「なっ!何で教えてくれなかったんですか!」
馬鹿にされていることがさらに麗奈を煽ったらしく、子犬のようにキャンキャン吠える。
「だってアマイモンがわざわざ"約束の日"って・・・あのとき気づかないフリをしていたのではなくて、本当に気づかなかったんですね。あはは、はははは。」
おかしくてたまらないらしく、メフィストの笑いは止まらない。
「麗奈さんみたいな完璧な人もドジをするんですね。」
目尻にたまった涙を拭い拭うメフィスト。
「どうしてくれるんですか?最近ユッキーに出席日数がヤバいって言われてるんですよ!」
「駄目じゃないですか、麗奈さん。転校してまだだ間もないかりなのにもうサボリとは感心しませんね。」
「誰のせいだと思っているんですか? しかも授業のあるときを狙って召集をかけるのは!」
一人慌てる麗奈を面白がっていた。
「もう、いいです。・・・早くシュラ姉さんのところに行きましょう。」
変わらないメフィストの態度に麗奈は深い溜息をつくと先を促した。
帯につけていた簪を抜き取ると慣れた手つきで髪をまとめると仕上げにさす。
赤い簪は色素の薄い髪によく映えた。
麗奈が簪をつけるのを十分に見届けるとメフィストは上着に手を通した。
「さあ、行きましょうか。」
メフィストがふりむくと麗奈は静かに頷いた。





「お待たせしました。」
椿のところにメフィスト達が着く。
「いえ・・・。お忙しいところありがとうございます。」
そこで椿はようやく麗奈の存在に気づく。
「もしや・・・三日月さんですか?どうして理事長と?」
一緒にいることに驚く椿。
「おや、ご存知ないですか?麗奈さんは『戦場の姫騎士』なんですよ。」
麗奈の肩を抱き、メフィストは自分の前に引っ張りだす。
その言葉に椿は息を呑んだ。
「あの『戦場の姫騎士』なんですか!?お会い出来て光栄です!」
目を輝かせながら言う椿に、麗奈はいつも会ってるでしょう、と言いたい気分だった。
「今はまだ言えませんが理由あって祓魔塾に通っていただいてます。」
メフィストも椿の反応に満足そうに答える。
当の本人は少しうんざりとした顔をして溜息をついていた。
「ところでシュラがいるとか。」
一段落したところでメフィストが尋ねる。
「はい、実は訓練中に地震がおきまして、アトラクションの一部が崩壊致しました。」
椿が説明し始めると二人は真剣な顔で聞いた。
「我々が到着したとき山田と名乗っていた生徒が自ら上級祓魔師だということ明かしました。」
(それが・・・)
麗奈は愉しそうに微笑む。
「彼女は本部勤務の上級祓魔師の霧隠シュラと名乗りました。
椿の言葉が廊下に静かに響いた。








「おい、一つ聞きたいんだが。」
小脇に挟まれたまま燐は睨みつけるようのシュラを見つめた。
基地内に向かう途中、雪男も後を追ってきている。
ふと、シュラは問い掛けた。
「彼女もーー、麗奈も一枚噛んでるのか?」
その言葉に燐はキョトンとした。
「噛んでるって?」
後ろの雪男は黙ったまま目を逸らす。
「お前がサタンの子って知ってるのかってこと。」
シュラは静かに問う。



「ああ、小学校あがるまえくらいから知ってるみたいだぜ。」



なぜ、麗奈について聞かれたのかわからなかったが、燐は問われるがままに答える。
「・・・そうか。」
燐の答えにシュラは短くそう言った。
(馬鹿・・・)
後ろでそれを聞きながら雪男は燐に対して心の中で悪態をついた。






「その通り。」
シュラが日本支部について説明をしていたところにメフィスト達がやってきた。
「それが我々、聖十字騎士団です。」
声の先にメフィストがいた。
「お久しぶりですね〜☆シュラ。」
おどけた表情で挨拶するメフィスト。
その後ろに椿と麗奈もいた。
「まさかまさか貴方が監察として塾に入ってくるとは。私、知る由もありませんでした。」
(何、言っているんだか)
麗奈はメフィストの台詞に肩をすくめた。
その時視線を感じて顔を上げれば、シュラがこちらを見ていた。
だがすでに顔を逸らされる。
「単刀直入に聞く。」
シュラの目が一層真剣になる。
「・・・よくも本部に黙ってサタンの子を隠してやがったな。」
探るような声。シュラの攻撃が始まる。
「お前、一体何を企んでいる。」
「企むなど滅相もない。確かに隠してはいましたが。」
慌ててシュラの言葉を否定するメフィスト。
「すべては騎士団の為を思ってのこと・・・。」
麗奈はメフィストの言葉を少し離れたところから聞いていた。
その言葉に燐は俯いていた顔を上げる。
「サタンの子を騎士団の武器として飼い馴らす・・・!
途端、メフィストの表情が一変した。
「・・・この二千年、防戦一方だった我々祓魔師に先手を打つ機会を齎すものです。」
久しぶりに見たメフィストの本気に麗奈は身震いする。
「・・・だとしてもまず゛上゛にお伺いを立てるべきだろ?」
「・・・綺麗に仕上がってからと思っていましたのでね。」
口端を歪めるメフィスト。
「・・・藤本獅子郎もこの件に噛んでいるのか?」
シュラの一番気になっていたところ。
「ええまあ。炎が強まるまでは藤本に育てて貰っていました。
素直に答えるメフィストに麗奈は思わず視線を向ける。
「いいんです。いずればれることですから。」
それ以上麗奈は何もいえなかった。
「そうか。」
シュラの声のトーンも落ちる。
「麗奈もなのか。麗奈も一枚噛んでるのか?」




「ええ。燐のこと守りたいから。」



燐がこちらを見つめた気がした。


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