彼女と猫又と東京観光


任務が終わるとメフィストに報告に行く。今日も例外なく麗奈は正十字学園へと向かっていた。
(狭い世界・・・あんまり健康的とは思えない)
広い学園都市を歩きながら14才の麗奈はそんなことをぼんやり思う。
ようやく南裏門に着いたところで麗奈は知っている顔を見つけた。
「藤本神父!」
嬉しくてつい駆け寄る。
「よお、元気か?」
藤本の変わらない態度に安心する。
「半年ぶりくらいか、いつ来たんだ?」
頭をぐしゃぐしゃと撫でられる麗奈だがうれしそうに「えへへ。」と零した。
「昨日きたばかりなんです。でも藤本神父もお元気そうで!」
「俺がいつくたばるって言ったよ。」
そんな他愛もない会話を繰り返すと藤本は撫でる手を止めた。
「半年か。また綺麗になったな。母さんに似てきてる。」
急に落ち着いた声になる藤本は切なそうな顔をする。かける言葉が見つからず、麗奈は藤本を見つめた。
「悪い、悪い。」
麗奈の視線に気づいたら藤本は頭をかきながら謝る。
「そういえば、この前ここの門番をする使い魔が決まってな。」
歩き出す藤本に麗奈もついて歩く。
「猫又なんだけどよ。」
「ケット・シー!?」
麗奈の反応が面白いくらいに変わる。
「何、珍しくはないだろう?」
「珍しくはないけど、大丈夫なんですか?ケット・シーはピンからキリまでいるんですよ?」
「大丈夫、大丈夫。アイツの力はホンモノだよ。」
麗奈の不安を払拭するように藤本は答える。
「ほら、アイツ。」
藤本が門の上に座りこむ猫又を見て、片手に持った瓢箪を掲げる。
小さな黒い猫又は藤本に気づくと本当に嬉しそうにぴょんと門を降りると、トトトと藤本に近寄った。
「いいマタタビ酒持ってきたからよ。」
その言葉に猫又はくるくると藤本の周りを歩く。
「可愛いだろ、クロって言うんだぜ。」
「クロ・・・」
麗奈が小さくつぶやくと、猫又はうれしそうに「にゃあ。」と鳴いた。
「・・・かわいい。」
「だろ、雪男の初めての任務のときにな。」
クロをなでながら藤本は言う。
「こいつは人が好きなんだよ。時代とともに忘れられて凶暴化してたんだ。」
杯にマタタビ酒をつぎながら藤本は言う。
「だから麗奈も仲良くしてやってくれ。」
「はい!よろしくね、クロ!」
「にゃあ。」
またうれしそうクロは鳴いた。


「早かったな。」
扉を開けると、外の明かりに少し目が眩んだ。人影は見えるが誰かはっきりとわからない。
「連絡ありがとうございました。ネイガウス先生。」
メフィストはお礼を言いながら、部屋に入る。
(・・・ネイガウスさん!?)
メフィストの"ネイガウス"という言葉に反応する麗奈。その目には驚きと言いネイガウスに対する強い反感が見受けられる。
部屋の中には眼帯をして停止処分をうけているるネイガウスが壁に寄りかかっていた。
「ああ、三日月だったか。」
挑発するような逆撫で声のネイガウスは言う。
「ええ、何か問題でも。」
対する麗奈は余裕のある態度で答える。
「そういえば、」
思い出したように麗奈は言う。
「この前の燐の件。」
そこで麗奈は一旦言葉を切ると、ネイガウスを見据えた。変に答えれば首が飛びそうな強い眼差しだった。



「赦したわけじゃありませんから。」




ピシャリといい放つ。
脳裏に思い浮かぶは先日の出来事。
麗奈が学園に着いた日。
既に夜も半分に行こうとする時刻。
メフィストに挨拶するために向かっていた廊下で出会った血まみれのネイガウス。
慌てて治療しようと近くに寄ると、彼は拒否をしたが強引に治療する。
その際に聞いた。
なんの悪魔にやられたのかと----。
彼は答えた。
「サタンの息子」だと。
麗奈は衝撃に声が出なくなる。
治療が終わり、メフィストのところに直行した。
すると、メフィストは感動の再開をしたかったみたいだが、それは叶わず逆に詰問された。
「麗奈さん、我々の目的、わかってますか?」
そのセリフに麗奈は言葉に詰まる。
そして決意したのだ。


燐を傷つけず目的を果たす---


ネイガウスと会うのは実にあれ以来だ。
しばらく沈黙が流れたが、それを破ったのはネイガウスだった。
「フフ。元気な娘(こ)だ。」
子供扱いされたことに麗奈は明らかにムスッとした表情をするのかと思いきや、
「せいぜい、私に背中を向けないことですね。いつ襲うかわかりませんから。」
と勝ち誇ったように言う。
その言葉にネイガウスも口元をあげる。
「私ならいつでも襲っても大丈夫ですよ。」
二人の間に火花が散る中、わざわざポーズまできめてメフィストが言う。
「「・・・・・・・」」
こんなときだけ気があうらしく、ネイガウスと麗奈は冷ややかな目でメフィストを見ていた。

(・・・燐らしい戦い方と言えば戦い方か)
4人で門の近くからvsクロの様子を見ていたが、さすがに頭突きで倒すという発想はなかったらしく、微妙な空気が漂っている。
(・・・アマイモンのあれは双眼鏡の役目でもしてるのかしら)
斜め下、ソファーに座るアマイモンを見ながら、親指と人差し指で輪を作り、その中を覗いている様子は小学生みたいで正直悪ふざけをしているようにしか見えない。
(・・・というかそもそもなんでアマイモンは離してくれないのかしら)
そろその限界値に達したのかこめかみにうっすらと血管が浮き出てる。
メフィストの救いようのない発言を無視して早く見学しようと思ったとき、アマイモンがガシッと腕を掴んできたのだ。
しかも、それから全然離してくれそうにもない。
意味がわからないがアマイモンがどういう悪魔かわからない以上、下手に関わりあいたくない。
(おとなしいならいいか・・・)
@@麗奈は諦めるのが早くなったと少し落胆した。


(・・・ネイガウスのつぎはアマイモンときたか。)
クロが燐になつき、一件落着といったところでメフィストはアマイモンに話しかけていた。
そこで次なる駒がアマイモンだということを知る。
返答次第によっては自分が止めに入らなければと覚悟したとき、
「・・・ハイ。でもそれよりまず兄上お気に入りの日本をもっと勉強してからにします」
という言葉を聞いて、麗奈はがっくりときた。
「ほう・・・それは感心だ。」
弟が弟なら兄も兄だと思いながらも、た。自分の出る幕ではい。
「さて、それでは麗奈も行きますよ。」
アマイモンは立ち上がると、掴んでいた手にさらに力を入れる。
「え?」
言っている意味が解らず、麗奈は思わず声を出す。
「お前に"無限の鍵"を持たせたのは観光をするためじゃないぞ。」
座ったままメフィストは忠告する。
「え? ちょっと?」
麗奈は抗議の声をあげる。
「ハイ。ではまた後で。」
「ちょっと、フェレス卿! 何、考えてるんですか!」
バタン
必死の麗奈の叫び虚しく扉は閉まり、部屋にはメフィストとネイガウスだけになった。
「・・・・・・・大丈夫なのか?」
壁に寄りかかったままネイガウスが尋ねる。
「・・・・まあ大丈夫だろう。」
二人の頭には最後まで抗議をあげていた麗奈のほうが心配だった。


<続く>


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