03

翼に手を引かれ、階下の職員室へ向かう。
誰もいない廊下は静まり返っていて私たちの歩く音しか聞こえない。

否、私たちの歩く音より、私にとっては自分の心臓の音がうるさくて堪らない。


翼のくまったくんを偶然拾って、それから翼と知り合いになった。

最初は、子供の頃に会った初恋の人:青い魔法使いに良く似た翼に驚いた。
兄と同じクラスだということもあり、兄に用事があって宇宙科に行くと大概翼も居て。

不知火会長の策略で兄と一緒に生徒会に入ることになって。
登下校も休み時間も一緒に居ることが多くなって。

実は子供の頃に会った初恋の人、青い魔法使いだったことがわかって。
そしたら一気に気持ちが大きくなって好きになっていた。

好きになればなるほど、自分が翼と不釣合いであることが露呈する。


「・・・彗?」


翼は宇宙科主席で生徒会会計。発明も出来るし運動だってそこそここなせる。
背は高いしイケメンだ。
星月学園がほぼ男子校でなかったとして、これだけの条件が揃っていれば
女子が放っておかないだろう。

片や私ときたら、成績も運動も得意ではないし、得意分野も特にない。
背は小さいし、顔は並だし月子先輩のような女子力も無い。
とにかく自分に自信がないのだ。
中学までは兄の後ばかりついて歩いて、危険な事から守ってもらってきた。
星月学園に男女が均等数在籍していたら、絶対目立たない存在となるので
翼と友達になる可能性は皆無に等しいだろう。

偶然か必然か、そんなのはわからないけど、この学園に来て私は翼と友達になった。

翼が幼い頃に、おじいさんから聞いたと言う予言をずっと信じてきて、
その予言に謳われている「一番星」を私だと言い、「俺の姫」と呼んで側に居てくれようとする。
自分だって寂しいはずなのに、それを押し殺して私に笑いかけてくれる。
そんな翼の優しさは嬉しいはずなのに、素直に喜べない。そんな自分が嫌だ。


「なぁ、彗!」

「えっ!! あ、はい!!」


急に名前を呼ばれ、うつむいていた顔を上げる。


(!!!!!!)


翼が私を覗き込んでいる。その距離、わずか5センチ。
驚いたのと恥ずかしいのとで、反射的に下を向いた。


が、


ぐいっ!


すぐさま翼の両手で上を向かされ、私はその耐えられない距離に再び晒された。


「あ、あ、あの?」

「ぬは、つっかまえたーー! ・・・もう逃がさないぞ?」

「えっ!!!!」

「なーんてね。彗は難しく考えすぎなのだ! もっと気楽で居たらいいのに」

「そ、そんなの無理だよ。私だけがレベル足らずで、生徒会の皆の足を引っ張っているじゃん」

「・・・だろうと思った」

「えっ!?」

「さっき彗が走って逃げちゃったとき、俺の本能が彗を追いかけろって告げたんだ。だから俺はここにいるんだ」

「逃げたなんて! そんな、ことないよ!」

「ほら、また意地を張る。・・・やっぱダメ。離れてると心配だから今日は彗の側にいる。決めた!」


そう言うなり、翼の腕が私のひざの裏に腕が回ったと思ったらガッと持ち上げられる。
そして、そのまま来た道を逆に歩き出した。


「!! ちょ! 翼! やだ、降ろして!」

「ダーメ」

「あ! 先生から望遠鏡借りなきゃ! か、課題ができないから! だから!」

「大丈夫」

「え」


すとん、という音とともに私を降ろした翼が、私の両肩に手を乗せてにっと笑った。
そして、


「その課題なら、俺も宇宙科で済ませたし。手順はここにインプットされてるから心配要らないぞ?」


と言いながらおでこをこつんとくっつけてきた。


「・・・へ?」

「だから、今晩の観測は俺も付き合う。で、さっさと写真撮ったら、その後は一緒に居よ?」

「え、あ、ありがとう。・・・って、ええええええ!!!!!」

「? ぬぬ? 彗は俺と一緒に居たくない?」

「っ、違っ! じゃなくて! やっぱ、そういうことはまずいと思うし!」

「ぬ? 何回も言ってるけど、彗の面倒は俺が見るから無問題! 俺に任せろー!」

「任せられませんね」


その声は一言で、その場を凍らせる威力があった。
翼がビクッと肩をすくめ、恐る恐る後ろを振り向くと、そこには生徒会室で恐怖の戦慄を奏でていた
颯斗先輩が立っていた。少し後ろには、一樹会長が走り疲れて座り込んでいる。


「ぬわ! そらそら! どうしてここが分かったのだ!?」

「あなたの騒がしい声を、僕の耳が聞き分けられないと思ったんですか? ここにいるのはすぐわかりましたよ」

「・・・は、颯斗。そんな方法があるなら、それなら早く教えて、くれればいいだろ?」

「翼くんを探すにあたっての忠告を無視して、勝手に走り去って行ったのは何処の誰ですか?」

「俺ですごめんなさい」

「わかればいいんです」



口元だけは笑っているが、表情が明らかに黒くなった颯斗先輩は一樹会長にも容赦ない。
こうなってしまっては、最早誰も颯斗先輩に逆らえる者は居ない。端から見ていてもものすごい威圧感だ。流石は”裏”番長である。
恐れ入谷の鬼子母神。


「翼くん。何度も言っていますが彗さんは女性なのです。生徒会が彼女を庇護しているのに、役員が率先して彼女に手を出してどうするんですか」

「人聞きの悪いこと言うなぁ! まだ手は出してないぞ?」

「反応するとこそこかよ、って、そういう問題じゃないだろ」


すかさず一樹会長のツッコミが入った。ナイスタイミング。


「うぬぬ〜、ぬいぬいとそらそらには関係ないのだ! 彗の心配は俺がするからいいのだ!」

「翼くん。長期連休時の学校施設は、基本、夜間使用禁止ですよ? 忘れたんですか?」

「ぬぬ・・・、で、でも、彗は観測の許可を取ってあるんだろ? だったら問題ないよな!」

「そりゃ、課題だから許可は取ってあるけど・・・翼の名前は申請してないよ?」

「俺は彗のボディーガードだからいいんだぬん!」

「や、よくねーだろーが」

「・・・何があっても彗さんの観測に付き合うつもりなんですね、翼くん」

「その通りなのだー! なー? 彗? ぬはは!」

「って、ひゃあ!」


どさくさに紛れて私に抱きつきながら声高らかに笑う翼に対し、颯斗先輩は額に手を当てて深くため息をついた。


「かといって、生徒会役員が校則を破っては他の生徒に示しがつきませんし・・・仕方ありませんね」

「ぬ!? 許してくれるのか? そらそら!」

「違います。生徒会として新たに許可を取るんです。僕らが付き添っていれば問題ないでしょう? 一樹会長?」

「まぁ、そうだな」

「!! ぬいぬい、そらそら・・・」

「ん? 何泣きそうな顔してんだよ? こいつめ!」


一樹会長が翼の顔をホールドしたため、私は翼から開放された。
その反動でよろけ、後ろに数歩歩いたところで、颯斗先輩が「大丈夫ですか?」と言いながら支えてくれた。
一樹会長に頭をぐいっと押された翼が「ぬわ! 何するんだぬいぬい!」って言ってるけど傍目楽しそうだからいいとしよう。

この日、私は改めて 一樹会長や颯斗先輩、翼の優しさを再認識し、この学園に、生徒会に居られることを幸せだと思った。

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