不知火一樹: シャープなラインの銀縁メガネ


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ガコン!


「名前!ナイッシュー!」


綺麗な弧を空に描いてリングに吸い込まれたボールが部員達を活気づかせる。
チームメートとハイタッチをした名前は、ふぅ、と一息ついて素早くディフェンスへ回った。
そのとき視界の端に映る一人の男子生徒。


・・・不知火一樹。


この大学に彼を知らぬ者はいない。
入学式の時、学園祭実行委員長としての彼の尊大なスピーチは記憶に新しい。

やり方は強引だがカリスマ性があり、生徒や教授達の信頼も厚い。
高校生時代は3年間生徒会長を務めていたらしい。
大学では学園祭実行委員会に籍を置き、1年の頃から奇抜な演出などで手腕を発揮していたが、
昨年、会長の座に君臨するや否や、学園祭をメディアがこぞって取材に来るほどのものに仕立て上げ、
大学の名を全国に知らしめる"偉業"を成し遂げたキレ者である。




そんな彼が体育館を訪れるようになったのは1ヶ月前のことだった。



「名前!8番チェック!」

「うん!」



私の身長は決して高くない。それでもセンターのディフェンスチェックを任されたからにはやるしかない!


ガン!


シュートがリングに当たり、ボールが落ちてくる。オフェンス側の8番がリバウントに入ろうとする動きを素早く察知して、私は思い切って踏み切り、ボールに飛びつく。

その時、視界に不知火先輩が入り、彼の口端が上がった瞬間、オフェンス8番がティップし、ボールが私の目の前に迫ってきた。



「!!!」

「名前!リバァン!」



チームメイトから発破がかかるが、私は危険回避のために両手を顔の前に挙げた。

次の瞬間、掌にボールの感覚。


(うそ)


ダァン!


「速攻ーーー!」


両足で着地し、ゴール下からボールを投げる。
ディフェンスからのオフェンスへカウンターアタック。私はこの瞬間が一番ワクワクする。

私からのパスはセンターライン付近で繋がり、そのままゴールラインを突き進んだチームメイトによって敵のリングへシュートが決まった。

遠くで わあっ!という歓声が上がり、私も小さく掌を握った。反動的に不知火先輩へ顔を向けるが、彼の姿は既に無かった。


一瞬ではあったが、視界に入った不知火先輩はいつもと違っていた。先輩の目元に光る、細身の金属製の何か。


初めて見た眼鏡な先輩に、私の心拍数が勝手に上がる。


(ヤバイ・・・カッコよすぎる!!!)


手の甲で汗を拭ったが、頬の熱は下がりそうも無かった。

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