天羽翼: キスを阻む最後の砦3


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静まり返ったホール、置いていかれた本。そして私。
それぞれ置いてけぼりを食らって何をすべきかわからなくなった。

とりあえず私は彼から渡された本のページを開いてみた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何語ですか?コレ。


ぜんっぜん、わからない!


てゆーか、何でロケットの事が工学部にまで広まってんの!?興味本位でこっそりやってたはずなのに!
分野違いな事にも積極的だとか思われてるのかな。
恥ずかしい・・・・・・今にも顔から火が出そう。


そんな名前と心中穏やかでない存在がもう一人、図書館の机に突っ伏して赤眼鏡越しにおぼろげな表情を浮かべていた。


(頑張る、ってなんだろう?)


いろんな人と関わらなきゃダメだと梓に言われたけど、なんか違う気がする。
俺の行動なのに、俺の意思が何処にも無くて、まるで俺自身がロボットになったみたいだった。
じいちゃんやばあちゃんや梓には手放しで大好き!って言える、あの心がぽかぽかするような気持ちがないとダメなんだと思う。


「ぬ〜ん・・・難しいのだ」


ふう、とため息をついて目を閉じる。ふと、星月学園での学園生活が思い出された。
ぬいぬいやそらそら、書記は元気かな? 今頃みんなはどうしているだろう?
楽しかった想い出が俺の頭の中で走馬灯のように駆け巡った。俺は思わず顔を緩める。


「・・・くん。天羽くん」


未だ、頭の中では星月学園想い出劇場が展開中だが、机をコンコンと叩く音と自分を呼ぶ声に反応して顔を反対側に返す。
そこには、俺の本を抱えた苗字が俺を覗き込むようにして立っていた。


「わっ! な、なんなのだ!?」


驚いた拍子に勢いよく起き上がった俺と、苗字の顔が至近距離で掠め合う。


「っ!!」 「ぬわ!」


その距離、眼鏡の分わずか数センチ。突然訪れた予想だにしない展開にお互い顔を真っ赤にして固まってしまった。
はっと我に帰った俺は苗字と目が合う。さっきの顛末が思い出されて、俺の心拍数はどんどん上がっていく。
不可抗力とはいえ、やっぱりさっきのはマズかった、と思って気まずくなる。

座っていた椅子ごと後ずさりして、仰け反り気味に苗字を見上げると、我に返った苗字が俺に向かって勢いよく本を差し出してきた。


「こ、これっ!」

「・・・ぬ?」

「この本・・・何が書いてあるのか全然わからない。天羽くんは解るんでしょう?」


予想を裏切る質問に一瞬思考回路が固まったが、俺のスーパーコンピューターはすぐさま再起動して次の言葉を弾き出す。


「うぬ! その本に興味あるのか?」

「興味云々というより・・・とりあえず何が書いてあるか解らなかった。・・・説明してもらえると嬉しいんだけど」


人付き合いは苦手だ。だけど発明に関しては俺の最も得意とする領域だ。まさかの展開だけど、苗字が俺の本をきっかけに話しかけてくれたのは嬉しかった。


・・・嬉しかった?


あれ、なんで嬉しいんだ?俺?という疑問が浮かんだが、今は頭の隅っこに追いやった。


「まっかせろー!苗字がわかるまで 俺が何回だって説明してやるぞ!」


隣の席に苗字を座らせ、早速説明を始める。最初は難しい顔をしていた苗字も、俺の体験談を交えた話に徐々に笑みを零すようになり、最後にはお腹を抱えて笑ってくれるほどになった。
きっかけはほんの些細な事。その日、俺は苗字と友達になった。


「もう知ってると思うけど、俺は天羽翼。翼でいいぞ!苗字の事は名前でいいか?」

「いきなりだね、まぁいいけど。よろしく天羽くん」

「ぬーん・・・名前は手ごわいのだ」