土萌羊: 休日の伊達眼鏡2


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テストが終わって最初の日曜日。久しぶりの何も束縛されない休日に、私は街へ出かけようと朝からうきうきした気持ちで支度をしていた。
街へ向かうバスの時間まで30分をきったところで、私は鏡を見た後、靴を履き 自室の扉を開けようとした。

ブブブ・・・とバッグに入っている携帯からの振動。
いつもなら気にかけないその振動を、今日に限っては何故か反応して画面を覗き込んだ。


「ええっ!?」


崇嗣からのメール。ただし、ゲームへのお誘いメールじゃない。

”緊急連絡!月曜日に抜き打ちテストがあるって知ってるか!?中間の内容から出るらしい。乙女座寮の奴らが言ってる”


な・にーーーーー!!!!


ちょっと先生たち!何してくれちゃってるの!?テストはもう終わったじゃん!
頭の中で先生達に抗議しながら、私は靴を脱いで再び部屋に戻った。
バッグを置き、答案用紙と教科書・ノートを抱えて通学鞄に突っ込む。
靴を履き、私は迷いなく、学園の図書室を目指した。



図書室に到着。今日は日曜日なのに、何故か図書室が開館していた。


” 月曜日に抜き打ちテストがあるって知ってるか!?”


・・・・先 生 た ち は 本 気 だ


誰も居ない日曜日の図書室は、平日のそれとは違って張りつめた雰囲気が緩んでいるように感じる。
私は手頃な席を見つけて教科書その他を広げてテストの復習を始めた。
テストの復習は、建前上全て終わっているのだが、あの一件があったため、後半の復習分は全く頭に入ってない。
こなすべき教科は歴史(西洋近代)半分と理科の選択科目である天文物理学、英語文法。

・・・どれも土萌先輩が得意そうな教科ばかりだ。


昨日の今日では流石に聞けない。また上から目線で罵られるのが目に見えている。


でも。


あれだけ罵られてるのに、触れただけで恥ずかしいとか、せっかくの復習が身についていないとか。
相手が嫌いだったら、絶対ありえないこと。


「・・・・・土萌先輩のバカ」


その声は、誰も居ない図書室のあらゆる書籍たちに染み込んで行く。意地悪してくる相手を好きになるなんてどうかしてる。
私は恋愛という底なしの海に私を蹴落とした張本人に小さく抗議した。


「バカって誰のこと!?」


聞こえてくるはずの無い人物の声が離れた場所から私に届く。バッと振り向くと、入り口付近に立っている土萌先輩と目が合ってしまった。さっきまで彼のことを考えていたのだ、不意打ちな状況に頬がボッと熱くなるのがわかる。
次第に大きくなる足音に心拍数は更にヒートアップした。堪らなくなって、席を立ち、書架の迷路に逃げ込んだ。


「ちょっと!何で逃げるの?」

「こ、来ないで下さい!」


今は恥ずかしさよりも、土萌先輩の悪口を言ったことで怒られる恐怖の方が勝っていた。
これ以上怒られたら、先輩はもう勉強を見てくれなくなるだろう。大好きな月子先輩の好意も無駄にしてしまう。
自分はいくら罵られても、先輩達の好意を踏みにじる訳にはいかなかった。
私は土萌先輩に捕まらないよう、書架を行き来しながら 言い訳を始めた。



「先輩の悪口を言ったのは申し訳ないと思ってます。でもそれは出来心というか、つい出てしまう文句みたいなものなんです。悪意はありません!だから勉強見るのやめた、とか言わないで下さい!お願いします」

「何言ってるの?悪口は悪口でしょ?僕、今のですっごく傷ついたんだから。責任とってくれるまで許さないよ」

「ひい!だからそれについては謝りますから許してください!・・・って、うわっ!!」

「ダーメ。・・・・・捕まえた」