不知火一樹: シャープなラインの銀縁メガネ6


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淡い光だったとはいえ、闇夜に照らされた小さなステージで不知火一樹の告白の一部始終が全校生徒の前で繰り広げられた。
運良く居残っていたメディアによっていち早く取り上げられ、翌日のニュースを賑わした。





騒々しく廊下を走ってくる音と共に、学園祭実行委員会室のドアが勢いよく開けられる


バタン!


「し、不知火先輩!これっ!どういうことですか!!!!!」



当の不知火は その玉座に悠然と腰掛け、新聞を広げていた。名前はその書類が散らばる机にバン!と手をつき、新聞の向こうの不知火に詰め寄った。



「ああ、それな。お前が俺のもんだって世間様に知らしめることが出来ただろうが。ありがたく思えよ?」



否定するどころか、むしろ感謝しろと言われているようだ。旧態依然の態度に腹が立つ。名前は不知火から新聞紙を取り去る勢いで、更に詰め寄った。


「それにしたって限度ってもんがあるでしょう!!・・・・げ、んど、が・・・・」


名前の言葉から勢いが奪われていく。不知火が不意に新聞紙から顔を覗かせたからだ。
机越しとはいえ、詰め寄っていたせいで不知火との距離は近い。名前は慌てて後ずさろうとした。



「待てよ」



反対側へ向かっていた力のベクトルは、不知火の手によって阻まれた。彼の大きな手が私の頬に添えられる。



「・・・どうした?顔が真っ赤だぞ?・・・もしかして俺に欲情したか?」

「っ!ま、まさか!そ、そんなこと!」



この気恥ずかしい状態から一刻も早く逃れたくて一瞬身を引いたその時、



「嘘付け、してるだろ。眼鏡をかけた俺に」

「!!!!!」



爆弾が、投下された。



威力は絶大、名前のちっぽけな理性などは不知火の前ではいとも簡単に崩れ去る。
迫る不知火を拒むことさえ適わず、彼の熱い思いを受け入れざるを得ない。
程なくして離された唇に彼の指が添えられた。



「お前がコレをかけた俺に弱いなんて、最初からバレバレなんだよ。」



名前は大きく目を見開く。



「・・・・どうして、それを」



・・バレていた。もう、だめだ。ニヤリと口端を上げながら不知火会長の顔が近づく。覚悟を決めたその時、



「会長、名前さんが困っていますよ?意地悪は女性に嫌われますよ?」

「! 颯斗!」
「青空さん!」




書類を両腕に抱えて青空さんが委員会室に入ってきた。私に優しく微笑むと不知火先輩を横目にため息をついた。



「まったく、このままだと会長がじら続けて いつまでたっても話が進みそうに無かったので。不躾ですが入らせていただきました」

「でも」



そういって私に再び微笑み、



「その様子だとうまくまとまったようですね。会長もよかったですね、半年間の片思いが実って」

「ばっ!//// 颯斗!」



・・・・半年?不知火会長が半年間も私を?



「入学式で迷子になっているあなたを助けた時、会長はあなたに一目ぼれしたんですよ?」



くすくす笑う青空さんの横で、罰が悪そうにそっぽを向く不知火先輩がつかつかと私の傍に寄ってきてぐい、と腕を引っ張る。



「今時期、一目惚れや片思いなんてないと思ってたが 仕方ないだろう、どうしようもなく好きなんだから」



頭を掴まれ、会長の胸に追いやられた。先輩の顔は、心なしか赤みを帯びていた。


「おまえは、俺のものだ。絶対離さないから覚悟しとけよ?」


私は迷わずその胸に体を預け、そっぽを向く彼に微笑を返した。
私の大好きな彼を彩る、シャープなラインの銀縁メガネ。

そのメガネを外してもいいかと問えば、肯定二文字のあとに対価のキスが降って来た。


                                          END

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