不知火一樹: シャープなラインの銀縁メガネ4


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数日続いた学園祭も、名残惜しいが終盤を迎え、来場者も家路を急ぐ時間帯になっていた。

学園祭最終日の後夜祭は、最終日の午後7時から行われる。

毎年後夜祭で行われるダンスパーティーは学園祭実行委員の主催だ。
大学の生徒であれば誰気兼ねなく参加でき、期間中模擬店や裏方で頑張った生徒達への労いの場となっている。


学園祭期間中、我がバスケ部の模擬店は昨年のB−1グランプリで優勝したメニュー「甲府鳥もつ煮」を取り上げたため、連日長蛇の列を作った。売り上げも上々で、普段物静かな顧問が手放しで喜んでいたのが印象的だった。

あまりに盛況だったため、営業終了時間を大幅に過ぎてもお客が途絶えることなく、模擬店の片づけをはじめられたのは、後夜祭開始1時間前だった。

それでもあきらめずに片づけに手を動かす部員達を回視した部長が、嬉しい英断をしてくれた。


「片付けは明日!今日はダンスパーティーを楽しもう!」






*******

「さあみんな!学園祭最後のダンスパーティーを思いっきり楽しんでくれ!!」


不知火先輩の一言でダンスパーティーが始まった。


会場内に設置されたテーブルに並ぶ豪華なオードブル。和・洋・中・イタリアンに至るまで一大学の後夜祭とは思えないほどの豪華さだ。

部長の配慮はバスケ部員全員の歓声を呼び、この日のために各々が用意・持参したパーティー用の衣装に身を包む。彼女達は「団子よりも花」なようで。お目当ての先輩や後輩を狩りに会場へ突進して行ってしまった。然ながら、「速攻」時のようである。

特に目当ての男性はいない(・・・いや、いるが高嶺の花だし;)私は、オードブルを片手に椅子に座って”壁の花”を決め込んだ。

遠くで繰り広げられる部員達の一喜一憂に苦笑いしながら、終わり行く学園祭に思いを馳せた。



・・・この学園祭が終れば、不知火先輩は本格的に試験勉強に忙しくなる筈だ。今まで以上にますます会える機会がなくなってしまうのだろうか


ため息を付きながら皿上のテリーヌを食べようとした時、不知火先輩のアナウンスが突然会場に響き渡った。



「皆、盛り上がってるな!よし!じゃあ俺も踊るとするか! 今年の俺のパートナーだが・・・」



なんと、自らのダンスの相手を壇上から選ぶつもりらしい。女子生徒から立候補の挙手や悲鳴に近い主張が上がる中、先輩は額に手を添えて会場中を見回している。
ちょ!何してるんですか!先輩! そういうのは、こっそりお目当ての女子のところに自らで向くものでしょう??

あまりの傍若無人さにあっけに取られていると、先輩の視線が私とぶつかった。



「おっ!みつけたぞ!」



その声がした後、強い光に照らされた。
手で陰を作って、おそるおそる目を開けると、不知火先輩が壇上から私を指差して



「苗字名前!お前だ!こっちに来い!」



先輩は全校生徒の前で恥ずかしげも無く私を指名した。
途端、女子生徒から怒号に近いブーイングが発せられたが 不知火先輩はそれを気にすることなく壇上から私に手を差し出した。



「会長、お目当ての女性がいらっしゃるなら、自ら迎えに行くのが筋ってものではありませんか?」



控えめに聞こえた青空先輩の声に、不知火先輩が「そうだな!!」と楽しそうな声をあげて壇上を乗り越え、私に向かって走ってきた。


照明の照度が落とされ、目の前に不知火先輩がたどり着く。逆光で先輩の顔が見えない。



「名前・・・・今まで待たせて済まなかった。迎えに来たぞ。俺の手を取れ」

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