不知火一樹: シャープなラインの銀縁メガネ3


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青空さん、いえ、青空先輩は不知火先輩と同じ学園祭実行委員会のメンバーだった。
青空先輩にぶつかってしまったあの日以来、青空先輩と話す機会が増えた。
ただ、最近不知火先輩には、まったく会えていなかった。



「青空先輩、不知火先輩はお元気ですか?最近バスケ部の練習も見に来ていないようですし、、、」

「ふふ、気になりますか?」

「えっ!いや、あのっ、そうじゃなくて//// ただ、本当にお元気かな、と・・・」

「一樹会長は 学園祭実行委員長ですが、法科大学院への試験勉強が忙しいようですね。最近は僕も会長の姿をみかけていません」

「先輩の学部って法学部でしたっけ?・・・難しいんでしょうね」

「はい。ただ無茶をするところがあるので、心配なのですが」



無茶をするのは彼の専売特許みたいなものですから、という青空先輩の言葉に二人で噴出してしまった。




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季節が廻るのは本当に早い。私が大学に入学してから半年が経過し 秋蜩の声が恋しくなる頃。

大学内は学園祭ムード一色で、私も部員達も模擬店の準備に追われる日々が学園祭前日まで続いた。
皆も私も、準備のわずかな空き時間を使っては体育館でシュート練習をしていたが、他サークルの模擬店が体育館に設置されることになって学園祭終了までバスケ部は体育館を追い出された。


皮肉にも学園祭のおかげで短い期間とはいえ練習することもかなわなくなってしまった。


学園祭の前日の夕方、私は明日に備え 早めに家へ帰るために構内を歩いていた。気がつくと、目の前は体育館だった。無意識に足が向いていたようだ。
すっかり装飾が施されて来訪者を待つばかりの体育館を見上げた。

唯一、体育館だけが私と不知火先輩を繋ぐ場所だった。練習を見に来てくれる彼に無様な姿を見せたくなかったから人より沢山練習もした。


・・・ただ、数日体育館が使えないだけじゃない。

・・・シュート練習なら公園でもしている。神様のくれた休暇だと思えばいいじゃない。


そう自分に言い聞かせてはいるが、自分にとってはわずか一瞬だけでも大切な思い出が在る場所。
数日だけでも離れたくなかった。・・・離れたら不知火先輩との細い「知り合い」という糸が切れてしまいそうな気がして。


いつまでここにいても仕方が無いとため息をつき、失意のうちに帰宅を決め込もうとしたとき、私の携帯が震えだした。



画面に映し出されていた文字は、その時の私に半年分のパワーをくれた。




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”不知火だ。颯斗から聞いたよ。
 俺は元気でやってる。練習見にいけなくてごめんな。
 お前も知っての通り明日から学園祭だ。
 まぁ、俺がプロデュースするんだ、
 去年以上のものになることを楽しみにしていろ。”


もうこの際、何で不知火先輩が私のメールアドレスを知っているかなんてどうでもいい。
不知火先輩からの言葉が、私には何より嬉しかった。
青空先輩が気を回してくれたに違いない。後で会えたら絶対お礼を言おう。
そして、私も学園祭を楽しもう!


午前9時から行われたオープニングセレモニーで、不知火先輩が開祭宣言をするため壇上に立った。久しぶりに見る先輩は、以前にも増してカッコよくなっていて、女子生徒から黄色い声援を集めていた。

不知火先輩の言葉どおり、会場は様々な趣向を凝らした演出がされていた。



野外ライブ会場では 今をときめくイケメン俳優がサプライズで登場し、ゲリラトークショーを行ったり
不況のために大々的に行われなくなったファッションショーを、大学の生徒から希望者を募り行ったりなど、構内を走るミニマラソン大会では、完走賞としてブランドのレアアイテムが貰えるとあって全国から参加者が押し寄せた。大学でこそ出来るイベントが多くの人の目を惹いた。

模擬店も、B−1グランプリ優勝を獲得したメニューを取り上げた店が並んだり、とあるテレビ番組で何回も優勝をしている料理人や大食い選手権で優秀な成績を納める選手などが一同に介し大学杯大食い大会を開催するなど、こちらも盛り上がりを見せていた。

有名検索サイトで行っているチャリティーオークションを公開形式で行ったり、海外へ衣類や物資を送るための呼びかけを行うブースまであった。


例年話題性のある学園祭だが、今年は取材に来るメディアも昨年を上回り、来場者の数に至っては開始3時間で昨年の2倍に膨れ上がったため、一時は入場制限も行ったほどらしい。


噂には聞いていたがこれが不知火会長のアイディアと顔の広さとカリスマ性か。
彼の偉大さに、学園祭期間中ずっと驚かされてばかりだった。

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