不知火一樹: シャープなラインの銀縁メガネ2 「よぉ、お疲れさん。大活躍だったな」 ミニゲーム終了後、体育館脇の水道で水を飲んでいた私に不知火先輩から声が掛かる。遠く離れていても聞き間違うはずの無い声が不意に聞こえたことで、私は思わずむせてしまった。 「おいおい、大丈夫かよ?」 「だ、だいじょうぶ・・・です。でもいきなりだったので」 「ああ、悪い。」 まさかそんなに驚かれるとは思っていなかったのだろう、むせながらもちらりと不知火先輩を横目に見た時、少し慌てたような表情で謝罪をした。胸元に光る眼鏡が、私の心臓を更に飛び上がらせる。 全校生徒憧れの的の先輩。自分には無理と最初からあきらめてはいたが、何のご褒美か今は先輩と二人きり。・・・こんなチャンスは滅多にない。 ものすごく恥ずかしいが、私は以前から気になっていた疑問を一生分の勇気を振り絞ってぶつけてみた。 「せ、先輩はなぜうちの部活を頻繁に見に来られるんですか?」 こちらが全力で立ち向かっても先輩には適わないことなんてはじめからわかっていた、が。 先輩はいつものしれっとした顔で即発性の爆弾を投下なさった。 「そんなの、名前を見に来ているに決まってるだろう?」 もう、その先のことは殆ど覚えて無い。 体育館に帰ってからのミニゲームは私のミス連発でボロボロだったし、チームメイトにも心配され、早々に帰宅するように言われたぐらいだ。 そりゃ、こんなに顔を真っ赤にしていたら帰れと言われて当然だろう。・・・原因は風邪の類じゃないけれど。 部活を早々に切り上げ、シャワーを浴びて帰り支度をし、大学の構内をおぼつかない足取りで歩く。先輩の言葉が頭の中で何度も繰り返され、顔から熱が引かない。 ぼーっとして歩いていたら、すれ違いざまに誰かにぶつかってしまった。 「わっ、ご、ごめんなさい!!」 「いえ、僕は大丈夫です。・・・おや?あなたは・・」 夢見ごこちから弾かれたように戻されて勢いよく頭を下げた私に、予想外な口調が返ってきた。 声の主に反応して顔を上げれば、優しい微笑を湛えた男子生徒が私に手を差し出していた。 特に転んでもいないので、差し出された手を丁重にお断りして再度謝罪する。 「ほ、本当にごめんなさい!私、ぼーっとしてて・・・」 「ふふふ、遠目から見ていてもそんな感じでしたよ?苗字名前さん?」 「え、何故私の名前を?」 「会長からあなたのことをよく聞かされていますので、初対面でもすぐわかりましたよ。あ、僕は青空颯斗といいます。会長が仰るように本当に可愛らしい方ですね」 「か、かわ!!!!/////」 ・・・この人、私を蒸発させるつもりなんだろうか? 不知火先輩にしても、目の前の人・・・青空さんにしても、この大学の男子生徒は、口調が甘めなんだけど・・・ これが普通というのなら 、女子高出身の私にはものすごい猛毒です。 一人脳内劇場を繰り広げる私に、青空さんが何かを思い出して私に告げた。 「ああそうだ。もしお時間がよろしければこれからご一緒しませんか? 会長があなたに会いたがっているので、お連れしたら喜ぶと思いますので・・・」 「!!! い、いいえ!!結構ですっっ/////じゃ、じゃあ失礼しますっ!!!」 青空さんの好意を無碍にするようで申し訳なかったが、 羞恥心が先に立った私は、その場から脱兎の如く逃げ出した。 背を向けた私に、青空さんが何か言った気がしたが、ただ前を向いて走り去る私には、聞き取ることが出来なかった。 「あっ、待ってください!・・・って、行っちゃいましたね。 ふふ、本当に可愛いらしい方ですね。会長が気に入る訳だ。」 |