安心できる存在 Vol.1 君のことが知りたい

「ぬ、ぬ、ぬ〜、ぬぬぬのぬ〜」


翼が生徒会室のラボで発明に没頭している。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


あのー、翼さん?

私を呼びつけといて、私は無視ですか? ああ、無視なんですね?


・・・実は30分ほど前、私は翼からメールを貰った。


《前に約束した事、覚えてるかー? 彗の事が知りたい! 生徒会室のラボにいるから。まってるぞー》



発明に没頭しているときの翼は、周囲の状況が見えなくなる。事実、私が来たことに、まったく気づくそぶりが無いので近くの椅子に腰掛けて、翼の発明が終わるのを待つ。


ふー、と息を吐いて 私は目を伏せた。


・・・・・・私の話、か。


翼は「彗の事が知りたい」と言ってくれた。まぁ、話すことはたくさんある。生まれた場所、私の家族、学校での思い出、きれいな景色。全部、素敵な想い出だ。


そう、想い出。

私はここへ沢山の想い出を持ってきた。でも翼には、私と同じような想い出がない。

両親に見捨てられ、祖父母に育てられた。大好きなおじいちゃんが死んで、一人になって・・・人とかかわることを止めてしまった翼。




・・・・・・・・・・・・・・・



ああ、もう! だめだめ! 翼と2人だけになると、どうも焦燥に浸ってしまう。

ふぅ、とため息ひとつ、私は、翼の様子を伺おうと顔を上げる。






はた。



!!!!



目の前、ものすごい至近距離に翼の顔があった。椅子に反対に腰掛けて「ん?」という表情でこちらをじっと見ている。



「・・・・・・・・・ぅ、わあ! 翼!」


「ぬは、やっと気づいた?」



にぱ、と満面の笑み。

やっと俺に気づいたー! と喜びオーラ全開だ。びっくりしたなぁ、もう! 私はばっと後ずさりして反論する。



「って! 翼! 呼びつけといて、私に気づかないって何!? 待ってたのは私だし!」


「ぬ? そんなことないぞ、彗が来たの、気づいてたぞ?」



え、そうなの?


勘違いしていたのは自分だということに 今、気がついた。・・・なぁんだ、それならすぐに声をかければよかった。そんなことを考えていると翼が、




「だって、彗、何だか考え事してるみたいだったし・・・あと、」


「へ」


そういいながら、翼が私の頬に手を伸ばす。


「途中から泣いてたし」


「え!? 私が?」


「うん」


私の問いかけに答えながら、翼の手が私の目じりを拭う。不覚にも、その大きな手にドキッとしてしまう。



「うぬ、これでいつもの彗だ」


「え、あ、あああありがと・・・って! ちょ!」


「彗、照れてるー! かわいいーーーー!!」



ガバッ!


「ぎゃっ!」


急に抱きつくな、って前にも注意したはずなのに・・・


幸いなことに今回は椅子越し。でも、直接翼の体温は感じないものの、耳にかかる吐息がくすぐったい。



「ぬは! 彗げっとぉー! ・・・て、ぬ?」


・・・・・・・・・・・・・・・


無言。反論言葉が出てこない。

いきなり抱きつかれたから怒らなきゃいけないのに。

さっきまでセンチメンタルな感情に浸っていたせいか、今日はその気力が無い・・・


珍しく抵抗しない私に、翼は確実に違和感を覚えているだろう。


ああ、今日はこのままでもいいかも・・・私は翼に縋るように上着を掴んだ。




「・・・? むー、彗?、どうしたのだ?」


「・・・・・・」


「なぁ、彗ー」


「・・・・・・」


「ぬぬぬー・・・」




いつもと私の反応が違うことを心配した翼が、覗き込んで問いかけている。


・・・うー、しばらくこのままでいさせてくれないかなぁ?

私が黙って人に抱きついてるなんて、滅多にないんだよ? 小言もひっぱたきもしないから、今だけはこのままでいさせてよー




「なぁ!!!!」


「!!!!」



抱きついていた体が離れたと思ったら翼が私の両頬に手を添えて、私を覗き込んでいた。




「・・・彗? ・・・何かあった?」


「・・・・・・っ」


翼が心配そうに私を覗き込む。

なんかあった? ・・・あったといえばあったし、無かったといえば無かった。ただ、胸が切なかった、だけ、で。


ふ、と目線を伏せた瞬間、私の目から涙が落ちた。その時、



「え」



唇に、感触。


頬にかかるやわらかい髪



「なに?」



離れていく影。


ふわふわした感覚がやけに心地よくて目線が戻せない。



キ、スされた?



ど、・・・どうしよう。



刹那、頬に添えられていた翼の両手が後頭部にまわり、思いっきり翼に掻き抱かれた。



「彗・・・」


「・・・・・・っ」


胸にじーんとした感覚が広がる。なんだろう・・・すごく暖かくて安心する。


心地よさくて、せつなくて。何より翼がやさしくて。思わず目を閉じて縋るように翼の背に腕を回した。


私の目から、またも涙がこぼれる。今度は何粒も、ぼろぼろと。



「翼ぁっ・・・」



思わず声をあげて泣いてしまう。涙のダムが決壊したみたい。あふれ出したら止まらなかった。



「・・・っ、ひっく、・・・ぅ」



ずるずると力が抜け、床に座り込んでしまう私を子供をあやすように抱きかかえ、翼は黙って私の頭と背を撫でてくれた。


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