夕立


「っ、つめてー!」

真夏の天候は変わりやすい。いや、ここが高地であるからだろうか。

突然の夕立ちに遭い、俺は手近な寮の入り口に避難した。

「あー、結構濡れたな。・・・結構降ってんな、雨」

「うん、そだねー」

「!?」

突然聞こえてきた声に驚いて辺りを見回すと、小さく体育座りをしている彗がいた。

ばくばくする心臓を押さえながら、怪奇現象でなかったことに安堵の息を吐く。居るなら居るって言ってくれ。


「おま、びっくりするだろうか!声ぐらい掛けろよ!」

「いったいどうしたの、そんなに慌てて。」

「! い、いや、断じて慌ててなんて居ないぞ!誰だって誰もいないと思い込んでいるときに声を掛けられたらビックリするだろう?」

「・・・ふーん、そうなの?」


普段は冷静を保っている俺が、今回の件に関しては妙に挙動不審なので、怪しむような目で彗はこちらを見ている。その目が若干笑っているように見えるのは気のせいだろうか。

面白くないので、俺は視線を降り止まない雨に移した。
真っ黒い雲から時折聞こえる轟音が雨脚を煽っているように見えて、俺の眉間に皺が寄った。俺も彗も何も喋らず、その場でただ雨の音を聞いていた。


「・・・昴、『夕立三日』って知ってる?」

「へ?」

暫く黙っていた彗が、珍しく博識なことを言うもんだから、間抜けな声が出てしまった。

「一度夕立が降ると、三日間は夕立が来るって意味らしいよ。夕立って、夏の暑い夕方に雷を伴って突然降るにわか雨のことで、あっという間に止んで、気温を下げてくれるんだよ。ちょっとした打ち水効果だよね。今日、天文科で習ったんだー。」


一気にまくし立てた彗に唖然とした俺を見て、一瞬驚きながらもえへへ、とはにかみながら笑う彗。もう、さっき驚かされたこととかどうでもよくなって空を見上げたら、彗の言ったとおり雨が小降りになっていた。雲の隙間から日が射している。


「あ、雨が止んだ!よーし、じゃあ今日の夕ご飯は昴のおごりね!」

「な!なんでそうなるんだ!意味が分からん!」

「ふーん?じゃあ、さっき挙動不審になっていた理由、教えてもらおうかなぁ??」

「!!!! な、なんのことだ!」

「うーん?なんのことかなぁ?」

くっ・・・!挙動不審の件をうまくごまかせたと思ったが、彗はしっかりと覚えていたようだ。今日の夕飯は彗と一緒に取ることになりそうだ。



今の俺の心境は夕立以上の暴風雨


「おばちゃーん、獅子座定食一つね!」

「彗・・・なんで今日に限って高いメニューを選ぶ」

「えー、だってそれは昴が・・・」

「ぬ、彗と昴。俺も獅子座定食一つ!」

「お、おい、天羽!お前は関係ないだろう!なんで俺にたかるんだ!」

「だって、昴、さっき水瓶座寮の前で彗と雨宿りしてたろ?そうしたら、挙動不審がなんとかって・・・」

「!!!! わ、わかった。今日に限っては俺がおごってやる。だから黙っててくれ」

「(?)ぬはは、昴は太っ腹だな!わかったのだ! 彗、一緒に食べよ!」

「うん、食べよ」

「・・・あいつら、覚えてろよっ」


思いがけず、昴の弱みを握った彗。
実は昴はお化けの類が苦手だったりします。


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