俺だけのツンデレラ

窓の外は雨。

子守唄にも似た、先生の講義から解放された昼休みの微睡み時。
お腹も一杯になって、程よく睡魔が襲ってくる。
あたりを見渡せば、先に夢の世界に連れて行かれたクラスメイトが
幸せそうに寝息をたてていた。


・・・これは私も便乗するしかない。そう思って目蓋を閉じかけた、その時。


ふわん、と覆いかぶさる、濃紺のニット。
袖口に紫のライン。よく知った、その匂い。



「・・・寝ちゃうのか?」



耳元で囁かれる、甘えた様な問いかけ。
・・・この声の主は、一年下の後輩。天羽翼君。



「なぁ、名前。起きてよ」



背中越しの心地よい体温。
彼が私を覗き込む度に、彼の髪が耳や首に触れてくすぐったい。

彼女でもない私に、そうする理由が分からない。というか、気づきたくない。



「ぬぅ・・・」



狸寝入りを決め込んでいたら、本当に眠くなって体から力が抜けていくのが分かった。
天羽君もあきらめた様な口調で、私の背中から離れていく。
ああ、これであと数十分、気持ちよく寝られそうだ。
そう思ってゆっくり息を吐いた時、



ちゅっ



「ひゃああ!」



首筋に何かやわらかいものが触れ、私は大声を上げて起き上がってしまった。
数人のクラスメイトが一瞬、目を覚ましたがすぐに夢の世界へと戻っていく。


今、この教室で起きているのは 私と天羽君のみ。



「・・・・・」



しまった。大げさに反応しちゃった・・・



「ぬは、やっぱり狸寝入りだったんだな。名前のその反応、俺、大好き」


(!!)


狸寝入りを咎めるでもなく、目をきらきらさせて、とても嬉しそうに私を見ている。
嫌な予感しかしない!



「あ・・・あは?」



誤魔化す様に笑った私を、天羽君は一瞬でその肩に担ぎ上げた。



「ちょっ! 何して、」

「まったく、名前は素直じゃないのだ」

「はっ!? てか、どさくさに紛れてどこ触ってんの!この変態!」

「寝言は後で聞くぞ。 天羽翼、行っきまーす!」」



どこかのヒーローの名台詞を借りて、驚異的なスピードで教室を飛び出した天羽君。
宇宙科主席の肩書きは伊達ではなく、先生であっても彼の行く手を阻む事は出来ない。

あっという間に彼の城へたどり着き、そっと椅子に下ろされる。

さかさまの視界が元に戻ってほっとしたのも束の間、
膝まづいた天羽君の手が私の手を掬い、恭しくキスをした。



「!!!!」


「ようこそ、俺の城へ。俺だけのツンデレラ。」



素直になれない姫に、王子様からの宣戦布告。
突然の出来事に、私の理性はオーバーヒート。
体が林檎のように染まっていく。


ああ、これではもう 気づかぬフリなど出来そうも無いじゃない。


俯いて笑った私を、天羽君は嬉しそうに抱きしめた。
二人の物語は今、始まったばかりだ。

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