春の嵐
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「春ですねぇ」
「・・・おー、そーだな」
神話科の教室からバカつぐと外を眺めていた。
春の柔らかい日差しと頬を撫でる風が気持ちいい。
春は好きだ。
寒い冬を越した植物達が芽を吹き、動物達も冬眠から目覚める。大好きな桜の花も咲いて、一年に数日の桜吹雪を見せてくれる。
ただ、好きな春でも嫌いなところがある。
「は、は、はっくしょん!!!」
そう、私は花粉症だ。
スギとヒノキ花粉症のため、2月から5月ごろまで私の顔はマスクで覆われる。
春は好きだが、花粉は嫌いだ。
おかげでこの時期は窓も開けられないし、洗濯物も外に干せない。布団を外に干すなんてもってのほかだ。部屋の掃除も、最低限の時間だけ窓を開けるが基本的には開けない。
・・・・・・花粉なんて、この世からなくなってしまえばいいのに!
「彗は花粉症だもんな〜、期間限定でも、その面が拝めないのは俺もつらいぜ」
「ぬかせ、このバカつぐ」
「てめ!これでもほめてるんだぞ!」
「遂に頭まで沸いたか」
「沸いてねぇ!!」
和泉崇嗣は私と同じ一年生で、神話科の生徒だ。
殆ど接触は無かったが、月子先輩の一件から顔見知りになり、恋愛感情抜きでバカ談義が出来るので、最近良く顔をあわせたり、こうして並んで外を眺めたりしている。
「つか、さ。あんた、また体育サボりなの?」
「俺は体が弱いんだよ」
「頭が弱いって、言わなくてもわかるよ」
「頭じゃねぇ!体だ、か・ら・だ!」
崇嗣も哉太先輩と同じく体が弱い。
過日、月子先輩に手を出そうとして哉太先輩に殴られて以来、自分と同じ境遇の哉太先輩を崇拝している。外では、神話科の2年生が体育の授業中だ。
「今日も犬飼先輩頭が鮮やか!イケメンだしめっちゃステキ!」
「そうかぁ〜?俺の方が数倍イケてね?」
「流行おくれの江口洋介のくせに。うぬぼれんな」
「それは言わないでくれ、マジ凹むから」
「だったら髪切るとかすれば?うざったい」
「ほっとけ!・・・あ、」
「ん?」
崇嗣が何かに気づいた。
同じ方向に目を向けると、なんと犬飼先輩が私に向かって何かを叫んでいるようだ。
「ぬは!告白フラグキタコレ!」
「ちげぇし」
バキッ!
「ってぇ!!!」
即答しやがった崇嗣を殴った後、私は犬飼先輩ににこやかな笑顔を向ける。
「せんぱーい、どうしたんですかー??」
「おー、お前らが見えたから声をかけてみたんだよ」
「な、なんですと!ありがとうございます!先輩かっこいいっすー!」
「えっ!! ば、ばか!先輩をからかうな!」
「か、からかってなんか!それより体育頑張ってください!!」
「お、おう!」
私は腕が千切れるんじゃないかと思うほど腕をぶんぶん振った。隣でバカつぐがあざ笑うかのように鼻で笑った。
「なにデカイ声で愛の告白してんだよ、こっちが恥ずい」
「月子先輩に振られた奴に言われたくない」
「人の傷口に塩をもみこむようなまねはやめろ」
ああ、でも犬飼先輩マジイケメン。
気遣いも出来るし、空気も読めるし。このバカつぐと同じ専科とは思えない。
「おい、そういや、今授業中だよな?お前、自分の授業はどうした」
「は!!!そうだった!!!ヤバし!逃げよう!」
「つーかまーえーた!!!」
がしっ!
大きな両手で双肩を掴まれた。
よーく聞き覚えのある声、背中越しに伝わる冷ややかな威圧感。隣の崇嗣の強張った表情も手伝って、凄くいやな予感しかしない!!!
「彗」
「は、はいいいいいっ!!!」
私は全身の毛が逆立つ感覚を覚え、ぐぎぎ・・・と後ろを振り向く。
そこには顔をひきつらせつつもにこやかな笑顔の翼が居た。
私もそうだが、、、翼よ、授業はどうした。
「ところで『犬飼先輩かっこいい』ってなに?」
「い、いやそれは、その、なんだ、社交辞令ってやつで」
「そして、なんで和泉と二人っきりで神話科の教室に居るの?俺に隠れて浮気?」
「え、浮気って何?全力で無いけどなんで怒ってんの?」
「どさくさに紛れて『全力で無い』って言うな!マジで泣くぞ、俺」
「理由は後でゆっくりきかせてもらうから、俺ときて」
「つか話きけよ! ちょ、翼!持ち上げないでっ!!」
「シャラップ」
翼は崇嗣にジロリとにらみを効かせ、彗を抱えて教室を出る。
じたばた暴れる彗の抵抗もなんのその。翼には通用しないらしい。
おいおい、俺は当て馬か
「お、俺は悪くねぇ!何でにらまれなきゃならないんだ!」
一人残された崇嗣は、理不尽な対応にひとりキレていた。
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