春の嵐

653289
「春ですねぇ」

「・・・おー、そーだな」


神話科の教室からバカつぐと外を眺めていた。

春の柔らかい日差しと頬を撫でる風が気持ちいい。



春は好きだ。


寒い冬を越した植物達が芽を吹き、動物達も冬眠から目覚める。大好きな桜の花も咲いて、一年に数日の桜吹雪を見せてくれる。

ただ、好きな春でも嫌いなところがある。



「は、は、はっくしょん!!!」


そう、私は花粉症だ。

スギとヒノキ花粉症のため、2月から5月ごろまで私の顔はマスクで覆われる。


春は好きだが、花粉は嫌いだ。


おかげでこの時期は窓も開けられないし、洗濯物も外に干せない。布団を外に干すなんてもってのほかだ。部屋の掃除も、最低限の時間だけ窓を開けるが基本的には開けない。


・・・・・・花粉なんて、この世からなくなってしまえばいいのに!




「彗は花粉症だもんな〜、期間限定でも、その面が拝めないのは俺もつらいぜ」

「ぬかせ、このバカつぐ」

「てめ!これでもほめてるんだぞ!」

「遂に頭まで沸いたか」

「沸いてねぇ!!」



和泉崇嗣は私と同じ一年生で、神話科の生徒だ。

殆ど接触は無かったが、月子先輩の一件から顔見知りになり、恋愛感情抜きでバカ談義が出来るので、最近良く顔をあわせたり、こうして並んで外を眺めたりしている。


「つか、さ。あんた、また体育サボりなの?」

「俺は体が弱いんだよ」

「頭が弱いって、言わなくてもわかるよ」

「頭じゃねぇ!体だ、か・ら・だ!」


崇嗣も哉太先輩と同じく体が弱い。

過日、月子先輩に手を出そうとして哉太先輩に殴られて以来、自分と同じ境遇の哉太先輩を崇拝している。外では、神話科の2年生が体育の授業中だ。


「今日も犬飼先輩頭が鮮やか!イケメンだしめっちゃステキ!」

「そうかぁ〜?俺の方が数倍イケてね?」

「流行おくれの江口洋介のくせに。うぬぼれんな」

「それは言わないでくれ、マジ凹むから」

「だったら髪切るとかすれば?うざったい」

「ほっとけ!・・・あ、」

「ん?」


崇嗣が何かに気づいた。

同じ方向に目を向けると、なんと犬飼先輩が私に向かって何かを叫んでいるようだ。


「ぬは!告白フラグキタコレ!」

「ちげぇし」



バキッ!



「ってぇ!!!」

即答しやがった崇嗣を殴った後、私は犬飼先輩ににこやかな笑顔を向ける。


「せんぱーい、どうしたんですかー??」

「おー、お前らが見えたから声をかけてみたんだよ」

「な、なんですと!ありがとうございます!先輩かっこいいっすー!」

「えっ!! ば、ばか!先輩をからかうな!」

「か、からかってなんか!それより体育頑張ってください!!」

「お、おう!」


私は腕が千切れるんじゃないかと思うほど腕をぶんぶん振った。隣でバカつぐがあざ笑うかのように鼻で笑った。


「なにデカイ声で愛の告白してんだよ、こっちが恥ずい」

「月子先輩に振られた奴に言われたくない」

「人の傷口に塩をもみこむようなまねはやめろ」



ああ、でも犬飼先輩マジイケメン。

気遣いも出来るし、空気も読めるし。このバカつぐと同じ専科とは思えない。


「おい、そういや、今授業中だよな?お前、自分の授業はどうした」

「は!!!そうだった!!!ヤバし!逃げよう!」

「つーかまーえーた!!!」



がしっ!



大きな両手で双肩を掴まれた。

よーく聞き覚えのある声、背中越しに伝わる冷ややかな威圧感。隣の崇嗣の強張った表情も手伝って、凄くいやな予感しかしない!!!


「彗」

「は、はいいいいいっ!!!」



私は全身の毛が逆立つ感覚を覚え、ぐぎぎ・・・と後ろを振り向く。

そこには顔をひきつらせつつもにこやかな笑顔の翼が居た。

私もそうだが、、、翼よ、授業はどうした。


「ところで『犬飼先輩かっこいい』ってなに?」

「い、いやそれは、その、なんだ、社交辞令ってやつで」

「そして、なんで和泉と二人っきりで神話科の教室に居るの?俺に隠れて浮気?」

「え、浮気って何?全力で無いけどなんで怒ってんの?」

「どさくさに紛れて『全力で無い』って言うな!マジで泣くぞ、俺」

「理由は後でゆっくりきかせてもらうから、俺ときて」

「つか話きけよ! ちょ、翼!持ち上げないでっ!!」

「シャラップ」


翼は崇嗣にジロリとにらみを効かせ、彗を抱えて教室を出る。

じたばた暴れる彗の抵抗もなんのその。翼には通用しないらしい。


おいおい、俺は当て馬か


「お、俺は悪くねぇ!何でにらまれなきゃならないんだ!」

一人残された崇嗣は、理不尽な対応にひとりキレていた。

[ 25/25 ]
[目次]
[しおりを挟む]




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -