第四羽 予言

隣の席の小熊君と仲良くなった。



天文科で隣の席になってから、なにかと話す機会が増え、移動教室、課題、お昼など、天文科に居る時、私はだいたい彼と一緒に居させてもらっている。


小熊君て、男の子なんだけどかわいいんだもん。

性格も気さくだし、優しいし。何気に頭いいし。男の子の友達なんて初めてだけど、ちょっと嬉しかった。



「あ、そうだ。成宮さんはもう部活決めたの?」

「部活?」

「うん」


・・・そういえば、入学式の時、掲示板にいろんな部活の勧誘ポスターが貼られていたのを思い出す。


「あ、でも。私、女子だから、どこの部活に入っても足手まといになるだけだし。遠慮しようかと」

「それなら、弓道部に入らない?」

「弓道部?」

「弓道部には、夜久先輩もいるんだよ」

「え? 本当!?」


部活動は全て男子ばかりだと思っていたが、月子先輩が居るなら話は別だ。

月子先輩が弓道か・・・きっと様になっているだろう。


「小熊君は、どの部活に入るの?」

「僕は弓道部に入部したよ」

「えっ!? もう?」

「うん」


え、つか早っ!!!


「小熊君、顔に似合わず行動力在るなぁ・・・」

「・・・成宮さん、それ、失礼だよ」

「えっ!? もしかして声に出てた?」

「うん、はっきりとね」

「ご、ごめん・・・悪気は無いんだ・・・」



小熊君の顔が怖い・・・なんとなくだが、ブラックオーラを漂わせているような・・・気のせいだと思いたい。


「あ、そうだ!」

急に小熊君が手を叩いて思いついたかのように言う。私はそれにびっくりして「な、何?」と答えると


「確か明日の放課後、クラブ棟で各クラブの紹介イベントがあるはずだよ? 行って見たらどうかな?」

「それって、新入生勧誘の?」

「そう。あ、ちなみに弓道部は弓道場でやってるからね!」

「・・・覚えておくよ」


ちょっと強引な小熊君の勧誘を受けた後、小熊君は部活へ行ってしまった。

なんでも、一年生だから、先輩達が来る前に道場の掃除をしなくてはならないらしい。

それでも愉しそうな小熊君に、心の中でがんばれとエールを送った。







---
クラブ紹介当日。


私と昴はクラブ棟に来ていた。

いろんなクラブが新入生勧誘に躍起だ。

大方の新入生はこの紹介イベントを見て、どの部活に入るか決めるらしい。小熊君のように、既にやりたい部活がある場合は先に入部できるようだが。

私達はクラブ棟に入ってから、沢山の部室を眺めながら廊下を歩いていた。

「へぇ、結構いろんな部活があるんだな」

「放送部、囲碁部、パソコン部、美術部・・・けっこうベタだね」

「学校が特殊でも部活動まで特殊って訳でもないだろ?」

「まぁ、そうなんだけどさ・・・」



星のスペシャリストを集めている星月学園。

そこでの部活動なら、これ! と思うような部活があったら面白いなと思っていた。

彗の目的は 部活動を探すよりも、いつの間にかマニアックな部活動を探すことに変わっていたようだ。


「ねぇねぇ、昴は何にするの?」

「俺は機械工学部に入ろうとしたんだが、すでに定員一杯でな」

「へ、へぇー。マニアックなのに人気なんだ?」

「殆どが宇宙科のやつらだけどな。将来を見越してるんだろう」

「・・・宇宙科ってカオス」



私の発言に、昴が「なんだよそれ!」と怒っているようだけどもとりあえずスルーで。

またしばらく歩いていると、「星詠み研究部」という部活を見つけた。


「わ! ねぇねぇ昴! これ、おもしろそうじゃない?」

「む?」


指差した看板に

「今回特別にあなたの運勢、占います! 高的中率の星読みをあなたも体験してみませんか?」とある。


星詠みはその人の未来を垣間見る力。だからむやみやたらに使うことは禁止されている。そのため、普段は生徒同士でも星詠みはやってもらえないのだ。

星詠みって、一度やってもらいたかったんだ!

「ね、昴! 占ってもらおう?」

「は?嫌だ。俺は占いなんて信じない」

「もー! 昴はそんなだから皆に堅物呼ばわりされるんだよ!」

「な! 誰が堅物だ!!」

「いいから、入るよ!!」






彗に半ば強制的に「星詠み研究部」へと連れてこられた俺は辺りを見回してゾッとした。

・・・いろんな宗教の飾り物が置いてある。これは、ご利益・・・いや、星詠みも大したことはなさそうだ。

入り口を入ると、銀色の髪の男子生徒が椅子に座っていた。・・・ネクタイが赤い。2年生だ。目を閉じている。瞑想中か?


俺達が近づくと、ぱっと目が開いた。


「っうわあ!」

「きゃあ!」

「・・・お前達、うるさい」


っ、めちゃくちゃびっくりした。こんな暗がりで心臓に悪いじゃないか!起きてるなら声くらいかけてくれ!


そんな俺の心境とは裏腹に、銀色の髪の先輩は俺と彗をじっと見つめている。

流石の彗も、俺の背後に回ってびくびくしている。そんな俺達を他所に、先輩は目を閉じて語りだした。


「・・・お前達に、予言、ある」

「「予言?」」


「まず、お前」

「えっ、私?」


予言、という意味深な言葉を発したかと思えば、間髪いれずに彗が名指しされた。


「お前の予言、これ」


そういうと、先輩は予言を語り始めた。

『宙の全てをその身に迎え入れた星の子よ。
 覇王が統べる星の降り注ぐ国に導かれ13星座と共に運命の輪を回せ。
 幾重もの出会いと別れを経て、至高の瞬きに辿り着くべし。
 全ては星の導きのままに』



「えっ? これが私の予言?」

「そうだ、覚えておけ。次、お前」

「俺ですか?」


俺まで呼ばれた。


「お前のは、これだ」

『宙に瞬く六連星、宙の姫の添え星よ。
 運命の輪に導かれ、覇王が統べる星の降り注ぐ国に姫と共に赴くべし。
 いつ何時とて其の傍らに、其に仇成す者の盾となりて
 姫が至高の瞬きに辿り着くまで庇護すべし。
 全ては星の導きのままに』




「・・・・・・あの、」


予言とやらを聞き終えた俺は、目の前の先輩に挙手をして問いかける。


「何だ」

「予言って何ですか? 星詠みじゃないんですか?」

「・・・同じようなもの。星読みは頭の中に情景が浮かぶ。予言は頭の中に言葉が浮かぶ。情景は浮かばない。その違い」

「へぇ・・・なんだかすごいね! 昴!!」

ひょこっと俺の背後から顔を出して、嬉しそうにはしゃぐ彗を先輩は不思議そうな表情で見つめていた。


「最初は驚いたけど優しそうだし、男の人にしては綺麗だし!」


彗は先輩に対しての礼儀というものが欠如しているところがある。先輩に向かってタメ口はやめろと常日頃言っているのだが。


「彗! お前は礼儀というものをだな・・・」

「お前、面白いやつ」

「「え??」」


先輩がこちらをみてフッと微笑んだ。

それをみた彗がふわああ・・・・・・と目をキラキラさせて先輩を見る。


「私、天文科一年の成宮彗といいます! 先輩のお名前を教えてください!!」


・・・・・・ああ、始まった。彗の懐き癖。

彗は自分のインスピレーションに「ビビビ」ときた人物に好意を寄せ、懐くところがある。


「神楽坂・・・四季」

「四季先輩?」

「四季、でいい」

「や、先輩なんで。呼び捨ては無理ですよ」

「四季」

「う、・・・し、き」

「・・・うん」


うわぁ・・・ついに先輩を呼び捨てで呼ぶまでになったか。

いくら強要されたからとはいえ、そこは従っちゃダメだろう!! いろいろツッコミたいところがあるが、ここはぐっと我慢だ、昴!



「お前達、ここに入学してきたの、必然。他にも予言を持ってるやつ、いる。困ったら星詠み科に来い。待ってる」



神楽坂先輩は彗の頭をぽんと撫でた後、カーテンの向こうへ下がってしまった。

・・・なんだか不思議な雰囲気の先輩だ。

彗はすっかり懐いてしまったようで「四季先輩!」なんて熱を上げている。どんだけ。




「あー! 面白かった! やっぱり星月学園はカオスな学科が多いねー」

「多く無いだろ! そんなのせいぜい星詠み科ぐらいだ」

「違うよ! 宇宙科だってカオスじゃん!紙一重軍団だし」

「何だ? 紙一重軍団って?」

「え、だってほら、変態と天才は紙一重だって言うでしょ?」

「それを言うなら『バカと天才』だ!!!」

「きゃー! 昴が怒ったーー」


彗はきゃっきゃ騒ぎながら廊下を駆けていく。廊下を走るな!と嗜める。


それにしても神楽坂先輩が詠んだ予言はどういう意味なのだろうか。あとで紙に書いて分析してみよう。


そして、他にもいるという「予言」を持つ者。


これから先、どんなことが起こるのか、期待と不安が入り混じった気持ちで俺は彗を追いかけた。


[ 5/47 ]










「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -