第二羽 先輩達と知り合う

コンコン




次の日、制服を着て出かける支度をしていると、部屋のドアがノックされた。


「あ、はーい!」

私は先生かな?と思い、ドアを開けた。すると、そこにいたのは髪の長い赤いリボンの女子生徒。


「はじめまして、かな。おはよう、成宮さん」


にこっと微笑むその表情は、見覚えがあった。確か、昨日の入学式で壇上に居た・・・

「お、おはようございます! あ、もしかして、もう一人の女子生徒って・・・」

「うん。私、2年生の夜久月子です。よろしくね」

「は、はい! こちらこそよろしくおねがいします!!」


ペコリとおじぎをして先輩に向き直る。
先輩は、ふふと笑って私を見ていた。ああ、なんて綺麗な人なんだろう。私は顔がカーッとなっていくのが分かるくらい恥ずかしかった。


「えと、今から学校に行くの?」

「はい、そのつもりです」

「それじゃ、一緒に行こうか?」

「え、いいんですか?」

「勿論! ・・・学校で女子は私たちだけだしね」

「・・・そうみたいなんですよね。びっくりしました」

「ふふ、普通はそうだよね〜」


私と夜久先輩は、職員寮から学校へ向かうことにした。昴が「迎えに行くから」と言っていたけど、先輩と一緒だし単独行動じゃないからいいよね?



夜久先輩との登校中に、私達はいろんな話をした。


私の双子の兄の話、この学園の話。同じ学科であること。

先輩は幼馴染2人と一緒に入学してきたこと、1年間女子一人でさみしかったこと。

今は幼馴染が3人になって賑やかになったこと、など。

この学園のことを全然知らなかった自分にとって、ためになる話ばかりだった。

目をキラキラさせて話を聞く私に、夜久先輩が一つ提案した。


「ね、成宮さんって呼ぶの、なんか堅苦しいから彗ちゃんでいいかな?私のことは月子でいいよ」

「私は名前呼びで構いません。じゃあ、月子先輩でいいですか?」

「いいよ、なんだか嬉しいな。可愛い後輩が出来て」

「私もこんな綺麗な先輩がいて嬉しいです」

「なんか告白みたいで照れるね」

「あはは、そうですね」


二人して赤面していると、遠くから先輩を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、月子ー!」

「おせぇぞ、月子・・・ってあれ、こいつは?」


3人の男子生徒が先輩を待っていた。

「あ、皆紹介するね! この子は1年生の成宮彗さん。天文科なの」

「今年も唯一の女子生徒か。俺は東月錫也。よろしく」

「お、俺は七海哉太。よろしく・・・」

「月子、僕も紹介してよ」

横からひょいと月子先輩に抱きつく赤毛の美人な先輩が私を見ていった。

月子先輩が「きゃあ!」と驚いたので、七海先輩が赤毛先輩を諌める。



「・・・美人な先輩ですね」

思わず口に出てしまった。赤毛の先輩は目を丸くしてこちらを見ていた。

あ、やば。男子に美人なんて褒め言葉にもならない。機嫌を損ねて怒られるのを覚悟していると


「僕のことを褒めてくれたのは君が二人目だよ。ありがとう。僕は土萌羊。Enchante」

「あ、あんしゃ・・・?」

「はは、それはフランス語で『はじめまして』って意味だよ。羊、下級生が困ってるだろ?日本語で言ってやれよ」

「僕はフランスの言葉を愛しているんだよ、別にいいじゃない」

「まぁまぁ、二人とも・・・」


喧嘩はするけど、すぐに仲良くなって・・・を繰り返すこの三人こそ月子先輩が言っていた『幼馴染』なのだろう。私は三人に向き直って改めて挨拶をした。


「東月先輩、七海先輩、土萌先輩、私、成宮彗といいます。今後ともよろしくおねがいします!」


ペコリと一礼すると、皆、一瞬驚いた様子を見せたがすぐに表情を柔らかくしてああ、よろしく。と答えてくれた。


「あと、俺達のことは名前呼びでいいからな。何か月子から苗字で呼びなれていないから変な感じだ。」

「え・・・っと。錫也先輩、哉太先輩、羊先輩?」

「「「よくできました!」」」

「えへへ・・・」


哉太先輩が がしがしと頭を撫でてくれた。
月子先輩のおかげで、今日一日で4人もの先輩と知り合いになれた。先輩っていいもんだな。




5人で登校していると、双子座寮から昴が駆け寄ってきた。

「彗! おはよう・・・って、あれ?」

昴は私と一緒に居る月子先輩達をみて驚いていた。

「あ、昴、紹介するね。2年天文科の先輩達だよ。右から夜久月子先輩、土萌羊先輩、東月錫也先輩、七海哉太先輩、」

「で、こっちが私の兄、成宮昴です。昴は宇宙科なんですよ」

「彗がお世話になっています。初めまして、彗の兄、成宮昴です」

昴がペコリと先輩方に向かって一礼する。

「本当に、彗ちゃんも昴君もきちんと挨拶が出来てえらいね」

「親御さんの躾がしっかりしてるんだな」

「哉太も見習った方がいいよ」

「うるっせ! 羊はいちいちそういうことを・・・!」

「昴君、寮に居る間、彗ちゃんのことは私がしっかり面倒見るから安心してね」

「はい、よろしくお願いします」

「月子に勤まるかな〜?」

「もう! 哉太は余計なこと言わないの!」

「そうだよ、哉太は僕の月子を侮辱しないでくれる?」

「またお前は〜! いつ月子がお前のものになったんだよ!」

話が始まると、すぐに哉太先輩と羊先輩が喧嘩を始めるので一向に話が進まない。

錫也先輩がやれやれ、と言った表情で二人に喝を入れる。


「哉太、羊! いい加減にしないと・・・」

「「わあ! ごめんなさい!」」

「よろしい」

錫也先輩は私と昴ににこ、と微笑んだ後、「さ、行こうか」と学校へ向かうよう促した。

月子先輩も私をみてあはは・・・と笑っていた。


「「・・・・・・」」

ただ、私と昴は「錫也先輩、怖い」と心の中で認識していた。


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