第四十六羽 僕らに不可能なんて無い

「お前達、事の重大さがわかっているなら少しは小声で話したらどうだ? 怒鳴り声が廊下に筒抜けだったぞ?」

「す、すみません。理事長」


不知火がすかさず星月に頭を垂れた。颯斗や月子も不知火に続いた。
その様子を呆気に取られながら見ていた翼に不知火が気づき、駆け寄って無理やり翼の頭を下げさせた。


「ぬわ! 何するんだぬいぬい!」

「馬鹿! ここは全員で謝るとこだろ!」

「ちょ、ちょっと一樹会長! あまり騒いでは・・・!」


翼が不知火の行動に抵抗することで、全員で謝罪する雰囲気では無くなってきたため、
颯斗や月子が二人に注意を促していると、星月が軽くため息をつきながら生徒会室のドアをぴしゃりと閉めた。
その音に、一瞬ピリッとした空気が室内に張り詰めた。


「・・・まぁ、その判断は間違っては居ないが 俺は堅苦しいのは嫌いだ。各自、楽にしてくれ」


星月はそう言いながら生徒会長の椅子に悠々と腰掛け、全員に視線を配る。
一時は不服そうな翼も、場の雰囲気を読み取ったのか背筋を伸ばして立ち 全員が星月に向き直った。
そして各自会議用の椅子に掛けた。


「天羽」

「なんだ? 素足隊長? ・・・じゃなくて、、、理事長」


星月の呼びかけに、ついいつもの癖が出てしまい、不知火にギロリと睨まれた翼は慌てて言い直す。


「先ほども言ったが、成宮彗の事が知りたければ、不知火が言わんとしている条件を呑むことだ。」

「そういえば、その『条件』って何なのだ? 俺、ぬいぬいから全然聞いてないんだ」


背もたれから体を離し、食いつくように身を乗り出す翼を見た星月が 意外そうな表情で不知火を見た。


「何だ、話してなかったのか不知火?」

「・・・ええ。ですが理事長、俺としては可能であればこの件に関してこれ以上の人間を巻き込みたくはないんです。ましてや敵陣に乗り込むような行為です。乗り込む奴の身の安全が確保されない限り、俺は、」


そこから先の言葉を飲み込んで視線を彷徨わせる不知火。
彗を連れ去った者たちは、政府の名を口にしていた。それなりに国家の中枢に近しいものたちであろう。


 ” 下手に動けば星月もただでは済まない ”


先ほどの不知火の発言で、この場にいる全員の憶測は確信に変わっていたが、それでもどこかで活路を見出そうとしていた。
星月は未だ視線を合わさない不知火を見やった後、颯斗たちに視線を移し、真剣な表情で話し始めた。


「今、不知火が触れたとおり、我々は成宮兄妹救出に当たって仲介役を立てて事を進めていこうと考えている」

「ぬ?仲介役?」

「そうだ。我々と、あちらさん側との仲介役だが、表面上 中立と言うわけではない。実際は向こうの機関に潜り込まなくてはならない。それも正式に。」

「理事長、それって、」

「簡単に言えば、向こうの機関の関係者になること。これが『条件』だ。・・・決して容易い事ではないがな。」


そういうと椅子から立ち上がり、星月は窓の外を見やった。

細身ではあるが、いつも堂々としている星月の背中から言葉どおりの不安を読み取った翼は、
俯き、ぎゅっと唇と拳を握り締めた。



「なぁ、そこに入ることが出来れば彗に会えるのか?」

「理論上、可能性は上がるな。だが、無謀だ。頭だけよくても信頼されなければ意味が無い」


生徒会室に響く現実。
月子は折れそうになる気持ちを必死に繋ぎ止めようと、握っていた手に視線を落とし、力を込める。
ふと、月子は背後から涼しげな風が吹き込んでくる感覚に気がついた。
振り向こうとした、その時、


「大丈夫ですよ、先輩」


と声をかけ、月子の横を一人の学生が通り過ぎた。


「面白そうな話ですね。よかったら僕にも聞かせてもらえませんか?」


突然現れた予言の一角。
「遅いぞ」という星月の声に、ヒーローは絶体絶命の瞬間に現れるんですよ、と
梓は小憎いことを抜かした。

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