第一羽 青い魔法使い
「わたし、成宮彗。あなたは?」
「おれは、天羽翼。」
私が小さい頃、公園で兄のおもちゃの自動車で遊んでいたところ、近所のいじめっこにそれを取られ、壊されてしまった。
兄に怒られると一人泣いていた時、同じく公園で遊んでいた一人の男の子が寄ってきて、いとも簡単にそれを直してくれた。
就学前の子供がおもちゃを直せるなんて思わなかったから、当時の私は魔法を使ったのだと勘違いし、彼の髪が青かったことで
以来、私は彼を「青い魔法使い」と呼んでいる。
お互い自己紹介したはずなのに、長い年月は人の記憶を昇華させる。私の記憶にはその敬称だけが残り、名前はいつのまにか忘れてしまっていた。
私の両親は天文台や宇宙科学に従事する技術者だ。
兄も私も、両親の影響で将来は天文関係の職業に就きたいと思っていた。
中学時代、二人で進路指導室を訪れ、天文を学べる高校は無いかと教師に相談を持ちかけ、星のスペシャリストを育成する専科がある高校、星月学園という高校を紹介してもらった。
私達は、迷わず星月学園への進路を決めた。
二人して星月学園に合格し、入学・入寮手続きを終え本日入学式を迎えるに至る。
鏡の前で自身の姿をみた彗は、なんだか気恥ずかしかった。
・・・なんでこんなにスカート短いんだろう。
第一印象がそれか!と思わず突っ込みを入れたくなる。
私は星月学園女子の制服に袖を通し、服装のチェックをしていた。
「足がこれだけ出るから・・・タイツ履いた方がいいのかな、それともハイソックス?ニーハイ?うーん、よくわからない」
ええい、とりあえずベタだけど紺のハイソックスで!と無難な線を選んで部屋を出た。
ガラガラ・・・
「おはようございます・・・」
私はそーっと一年天文科の教室の扉を開けた。
聞きなれないトーンの高い声に、ざわついていた教室もぴたっと静寂が訪れ、程なくして怒号に似た声に変わる。
「おおおおお!女子だ!」
「成宮さん、おはよう!」
「変な奴に声掛けられなかった?心配しちゃったよ!」
クラスメイト達が一斉に彗に迫る。
「え、あ、ちょっと・・・」
いきなりの展開に目を白黒させていると目の前にずいっと立ちはだかる影。
「おまえら、いいかげんにしろよ?」
その声は天文科の教室についてきてくれた昴だった。
こうなることは想定済みだったらしく、はあ、とため息をこぼす。学年唯一のマドンナ謁見を阻まれた男子達は、昴に向かって野次を飛ばし始めた。
「おま、教室間違ってるぞ。ここは天文科だ」
「そうだそうだ、宇宙科は向こうだぞ」
「お前らうるさい。こいつは俺の妹だ。どうしようと俺の勝手だろ」
ジロリと天文科一同を睨む昴。ビクッと怯むクラスメイト達。
元々目つきが悪いのと妙な威圧感をもっていた昴は中学の時から怖がられていた。こういうときは役に立つなぁ、と彗は昴を見て思った。
「じゃ、何かあったら俺に言えよ?」
「うん、ありがとう昴」
天文科からの去り際に、男子達にもう一睨み効かせると昴は宇宙科の教室へ向かっていった。
はー、と一息ついて顔を上げると、クラスメイト達が自分から距離をとっているのが分かる。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
「だ、だってよお、成宮さんに近づいたら兄貴に何されるか」
「さっきのはマジビビったよな」
あれ・・・・・・何だ何だ、こいつらは。思ったより器が小さいな。
「何もしなければ大丈夫だって。・・・まぁ、確かに怒らせたら怖いけど?」
最後の言葉を小声で発しながら、私は自分の席に座った。
隣の席は小柄で可愛い感じの男子だった。
「こ、こんにちわ・・・」
「隣、よろしくね。私、成宮彗です」
「ぼ、僕は小熊伸也です。よろしく」
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