第四十三羽 いつまでも傍に居たいとこの宇宙に願う

” なぁ、彗。好きってなんだ? ”


ある日の屋上庭園。
二人だけで星空を見上げていたとき、翼がふとそんなことを口にした。


それは、と言おうとした途端、その先の言葉が出てこなくなった。
だって、自分のなかでも「好き」がどういうものかわかっていなかったから。

好きの対象が人だった場合。その人の事をもっと知りたい、その人ともっと話したい、
その人と一緒に居たいと思う気持ち。

好きっていうのはそういうことだと思っていた。

でも、それって兄弟である昴にも当てはまった事があるし、月子先輩に対しても
その感情はある。

じゃあ、翼には?

もちろん、翼に対してもその気持ちはある。あるけど、昴や月子先輩に対する気持ちと
どう違うの?と聞かれると、なんとなく、というだけではっきりとは答えられない。


「彗は俺にとって特別なんだ」


特別。

その言葉を思い出す度、きゅう、と胸が痛くなる。
翼の事を想って胸が痛む事は何度かあったが、いつもよりも強い痛みに耐えかねて、思わず胸を押さえた。


そこまで強く自分の事を思って居てくれる翼に、私はどう答えたらいいんだろう。
彼の気持ちにちゃんと答えられるだろうか?

その前に、私はこれからも平穏無事な生活が続けられるだろうか?


「・・・・っ、」


沢山のやさしさを受け取るたびに、先行して現れる厄介な疑問。
大丈夫、ここでもちゃんとやっていける。

あれさえ、使わなければ。




---

ようやく翼の誤解も解け、いつも通りの生活が始まった。
休み時間は宇宙科の教室に彗が顔を出し、翼が彗に抱き付く。梓を巻き込んでふざけあい、昴にたしなめられる。


そんないつもの、幸せな日常。


「ぬははー! 彗、つかまえたのだ! 今日こそは天文科に帰さないからな!」

「ちょ、それは困るよ! 助けて昴!」

「え、なんで僕に助けを請わないの? 一番近くに居たんだけど」

「木ノ瀬君には危険しか感じない」

「梓は羊の皮をかぶった狼なんだぬーん」

「じゃあ翼はどうなのさ?」

「俺? 俺は羊の皮なんてかぶらなくても狼になれるぞー! がおー!」

「きゃー! 翼が変身したー! 食べられちゃうー!」

「お前らうるさい! 静かにしろ!」


昴の怒鳴り声も彗にとっては幸せの音色にしか聞こえない。
天文科に帰れないかもしれない危機感も忘れ、一人陶酔感に浸っていた時、足元に何かが当たった。

ふと我に返り、足元を見ると、円盤のような機械が床を這っていた。


「えっ! なにこれ!? 動いてるよ!?」

「ぬ? ああ、これは天才発明家・天羽翼さまの最新自信作!『ガンバルンバ君1号』だ!」

「・・・ただのルンバでしょ?」

「ちーがーう! これは、吸い取ったゴミを燃料に変えて、半永久的に動き続けるんだぞ!」

「燃料がいらないっていうのは凄いよね!で、これってどうやったら止まるの?」

「ぬ?」

「だからさ、」


突如として現れたお掃除マシーン『ガンバルンバ君1号』の停止方法を聞いたところ なぜか翼がフリーズしてしまった。
え、私、何かおかしなこと言ったっけ?


「・・・・えーと、翼?」

「どうしても止めなきゃだめ?」

「止めないとうるさいじゃん」

「ぬう・・・」


流石に授業中はモーター音とかでうるさいと思うので、機械・・・いや、ガンバルンバ君の停止方法を聞いた。
翼は、しぶしぶガンバルンバ君に近づいて床から持ち上げた。そして、機械の裏側を見ようとしたそのとき、


『Unusual operation was detected. Blasting equipment starts in several seconds.』


急に機械からアナウンスが聞こえてきた。何かを伝えたいらしいが、私には何を言っているのかさっぱりだ。


「ぬわわー!まずいことになったのだ!」

「確かに、嫌な予感しかしない。ねぇ 彗、こっちおいでよ」

「え、それこそ嫌な予感しかしないよ」


突然、彗の頭に声が響く。



”アブナイ。ソコカラ10mハナレテ”



「! 昴、早く、こっち!」


何かにはじかれるように、昴に声をかけ、彗は教室の外へ走り出した。


「ちょ、どこいくの、彗?」


梓と翼はいきなり走り出した彗と昴に視線を向けた。その瞬間、教室内は爆発音と共に煙に包まれる。
非常ベルが鳴り、教師や生徒たちが駆けつけた。


「おい!! みんな大丈夫か!?」

「ぬぬぬ〜、また失敗なのだ」

「失敗じゃ、ない! どうして翼はいつもいつも!」


教師や宇宙科の生徒が教室内で入り乱れる中、いち早く廊下に避難をしていた彗は
自分が無事だった事実よりも、先ほどの声に驚愕していた。


「・・・彗?」


彗の一言で一緒に難を逃れた昴が、隣の彗の異変に気づき、声をかける。
彗は教室内をみつめ、両手を胸の前で組んで小刻みに震えていた。

[ 44/47 ]










「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -