第三十八羽 輝く星達

木ノ瀬君は私からゆっくり手を離すと、先輩に向かってにっこり笑顔を向けていた。


「ああ、先輩。こんにちは。」

「こんにちは。・・・って、何してるの?二人とも・・・?」

「っ! えっと、これは、ですね・・・」


どう考えても不自然な状況に、どう答えていいか、頭がついていかない。
私は、それでも何か言わないと! と手をばたつかせていた。

すると、木ノ瀬君が私の目の前にスッと立って、普段どおりの口調で答えた。


「彗がサッカー部のマネージャーを引き受けたんで、ここで問い詰めていたんですよ。」

「えっ!? 彗ちゃん、サッカー部のマネージャー、引き受けちゃったの!?」


がしっ!


え。


「彗ちゃん! サッカー部のを断って、弓道部のマネージャーをやらない!?」

「え、えええええええ!?」


月子先輩からは連想できない言葉に驚く。普段なら、「そっか・・・仕方ないよね」とか言いそうなのに!?
私の両肩を掴んで、私をじっと見つめてくる先輩の目が燃えているように見えるのは気のせいだろうか!?


「正直、私一人じゃ大変な事もあるんだ。だから、彗ちゃんに助けてもらえると、すごく助かるんだけどな。」

「えっ、そうだったんですか!? で、でも、サッカー部のみんなに『よろしくお願いします』って言っちゃったし・・・」

「・・・おい、こんなところで何を騒いでいる!?」


入り口の方から、今度は落ち着いたような声が響いた。
二人して振り向くと、月子先輩が「宮地君」と呼びかけた。


「あれ? みんな揃ってどうしたの?」

「「「金久保部長」」」


今度は部長さんが現れた。とても表情の柔らかい、優しそうな先輩だ。
ふいに私と目が合って、にっこり微笑まれ、お邪魔してますの意味を込めて先輩に一礼する。

頭を上げようとしたとき、遠くからがやがや賑やかな声が聞こえてきた。


「こんちわーっす。・・・っと、部長?どうしたんすか?」

「さーって、部活部活ー。・・・ってうわ!犬飼ぃ!急に止まるなよぉ!」

「あれ、どうしたんですか皆さん? こんなところに集まって」


次に宮地先輩と同じ赤いネクタイをした先輩達と小熊くんが入ってきた。
「遅いぞ!小熊!」と宮地先輩に怒鳴られている様は、妙に女々しく、いつもの小熊くんらしくなかった。


「皆に紹介するね。この子は1年天文科の成宮彗ちゃん。1年で唯一の女子生徒なんだよ。」

「君が成宮さんか。僕は弓道部部長をやらせて貰ってます金久保誉です。よろしくね」

「は、はい! 急にお邪魔してすみません。よろしくお願いします!」

「おっ。お前が青空が言ってた一年生の女子生徒かー。俺は青空と同じ、神話科の犬飼隆文っていうんだ。よろしくな」

「犬飼ばっかりずるいぞ!あっ、俺は白鳥弥彦。宮地と同じ星座科なんだぜ?な、宮地?」

「む・・・、お、俺は弓道部副部長の宮地龍之介だ。よろしく頼む」


次々に自己紹介をされ、その度先輩達に向かって会釈をしていった。


「小熊くんは彗ちゃんと同じクラスだし、梓くんは彗ちゃんのお兄さんと同じクラスだから もう知ってるよね?」

「あ、はい。大丈夫です」


ええ、存じております。それはとっても。
小熊くんは優しいし頼りになるクラスメイトだけど、木ノ瀬君は・・・苦手だ。
複雑さを含んだ笑顔で木ノ瀬君たちの方を見やると、宮地先輩が何かを言いたそうな表情でこちらを見ていた。


「宮地・・・先輩?」


私の問いかけに、先輩は目を泳がせた後、意を決したような表情で口を開いた。



「・・・お前は、その、小熊の彼女、なんだろう?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「「「はい!?」」」  「「えっ!?」」 「な、なにーー!!」


弓道場に様々な声が響き渡った。


「おい宮地、その情報どこから仕入れた?」

「廊下で一年が話しているのを耳にした。噂にはなっている」


予想だにしない言葉が、宮地先輩と犬飼先輩以外を混乱させた。
月子先輩は驚いた表情でこちらに向き直って私の肩をがくがく揺らす。


「ちょっと彗ちゃん!それ、本当!? いつからなの?」

「えっ!? せ、先輩! 誤解です!」


私が必死の弁解をしている脇で、小熊くんがいろんな人たちに迫られていた。


「小熊!お前いつの間に!」

「小熊くん?」

「小熊、お前・・・」

「先輩方、木ノ瀬君まで・・・!それに、まだ彼女じゃないですよぉ!」

「「「「「まだ!?」」」」」


小熊くん、言葉の選択において痛恨のミス。
弓道部の先輩や同僚から、更なる反感を買ってしまった。


「えっ!いや!そうじゃなくて!そうなったら嬉しいですが!」

「小熊くん・・・ちょっとこっちにきて?」

「小熊ぁぁぁあああ!!お前ってヤツはぁぁぁあああ!!」

「小熊、彗は僕のものだって、オリキャンで見せ付けたよね?まだ諦めないの?」

「見せ付けたって・・・!おい木ノ瀬!お前という奴は学校行事でなんて破廉恥な事を!」


小熊くんを囲んでちょっとした口論が始まりそうだ。流石にまずい。


「ちょ、ちょっと待ってください!私が誰の彼女だとか、見せ付けただとか、そんな事実はありません!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

状況、変わらず。案の定、聞いちゃ居ない。遂に小熊くんは先輩方+木ノ瀬君に囲まれ見えなくなってしまった。
話を聞いてもらえるのであれば、正直、今すぐにでも誤解を解きたいです、はい。
項垂れて深いため息を付いていると、月子先輩がその場にしゃがんで、私の顔を覗きこんできた。


「いい?彗ちゃん。男の子はみんな狼さんなんだから。気をつけなきゃダメだよ。ね?」


人差し指を立てて首を傾げながら私に言い聞かせる月子先輩。なにそれ、最強にかわいいじゃないですかあああああ!!!
そんな無自覚な先輩こそ気をつけてくださいよ、と声を大にして言いたい。
すると月子先輩は、よしっ、と小さくつぶやいて立ち上がり、


「うーん・・・、こんなんじゃ今日は練習になりそうも無いね。じゃあ、彗ちゃんは私とデートね!」

「えっ!で、デート!?」

「そうと決まればレッツ職員寮ー!」

「ちょ、先輩!?」


月子先輩は私の手を引いて弓道場を後にした。話に聞いていた清楚でおとなしい月子先輩のイメージがちょっと崩れた。こんなところもあるんだなぁ、とおちゃめな先輩に親近感が湧いた。

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