第三十四羽 体育祭の特典

オリエンテーションキャンプが終わったと思ったら、次の月には体育祭があるという。


・・・本当にイベント満載ですね、この学園。


そんなことを教室で考えていると、隣の小熊君が体育祭の出場種目について話しかけてきた。


「ねぇねぇ、成宮さん。自由選択種目はどれに出るの?」

「まだ決めてないよ。だって、ほら、私って皆より力も体力も劣るから足手まといになっちゃうし」

「そんなの、僕らがカバーするから大丈夫だよ!」

「・・・力説どうもありがとう」


聞き間違いでなければ、自由選択種目に私が出る設定で話が進んでいた。決めてないとは言ったけど、出るなんて言って無いんだけど・・・。

なんだか、この学園の人たちは強引な人が多いな・・・と思いながら現実逃避をしていると、校内放送が私をリアルに引き戻した。


《あー、あー。・・・よし、使えるな!、ごほんっ》


この特徴のある声の主は・・・不知火会長だ。


《星月学園生徒会会長 不知火一樹だ。今日はお前達に 来月の体育祭について知らせることがある!》


ああ、今日も今日とて俺様トークなんですね流石です。
そんなことを思いながら、今度は何を思いついたのかと机に片肘をついてスピーカに耳を傾けた。


《体育祭を全力で戦ってもらうために、例年豪華な賞品・権利を用意しているが 今年は、我が星月学園の女子生徒2名が可能な範囲での願いを叶えて貰える権利をやろうと思う!》


「「「「「「ええ!?」」」」」」


不知火会長の突拍子も無い発言で、今日もまた学園全体が驚きに包まれた。

いつもは静かに傍に控えている生徒会メンバーだが、今回ばかりは違うようだ。スピーカーからかすかに月子先輩の抗議の声が聞こえる。

ちょっと勝手に決めないでよこの横暴会長!!と心の中心で文句を叫ぶ。


「な、なにそれ!! ちょっと放送室行って来る!!」

「あっ、ちょっと!成宮さん!!」


背後で小熊君が止めた気がしたけど、今はあの横暴会長に文句の一つも言ってやらないと気が済まない!
途中、廊下で何人かの男子生徒に「俺、頑張るから!」と声をかけられたが、今はそれどころじゃない!!


---

「どぉーだ? 颯斗、翼! 最高の特典だろ??」

「全く・・・あなたという人は、人の都合も考えないで簡単にそういうことを!無理難題を押し付けられたらどうするつもりです!?」

「そんなことさせるわけ無いだろう? 俺は『可能な範囲で』って言ったんだぞ? 俺達が判断して決めればいいことだ。問題は無い!」

「ぬはは! 俺は大賛成だぞ! そもそも宇宙科が負けるはず無いのだ! 俺は1週間彗が宇宙科に在籍する権利がいいぞ!」

「一樹会長、いくらなんでもメチャクチャです!」


遮音性の高い重厚な扉を勢いよく開くと 放送室内では生徒会メンバーの様々な声が飛び交っていた。皆がこちらに視線を向ける。私は息を切らせながら会長を睨んだ。


「おっ、来たな。我が星月学園のマドンナ2号」

「・・・来たな、じゃないですよ! 一体何を考えてるんですか! 私達の意見も聞かないで決めるなんていくら会長でも横暴すぎます! 大体、私達にメリットがありません!」

「メリットならあるぞ」

「・・・何ですか?」

「他の科の男子と知り合いになれる!」

「えっ!それだけですか!?」

「月子先輩、帰りましょう。・・・申し訳ないですが今回の提案にはがっかりしました」

「っおい!ちょっとまて!」


呆れ果てて話す気にもならず、踵を返して帰ろうとすると、不知火会長が私を呼び止めたので あからさまに嫌そうな顔をして振り返ってやった。すると、しばし傍観していた月子先輩が口を開いた。


「一樹会長、今回の件については私も彗ちゃんと同意見です。事前に相談も無いなんて・・・私達は生徒会メンバーじゃなかったんですか?」

「俺が事前に相談が無く決めるなんて日常茶飯事だっただろ?」

「・・・会長、今回の件に関しては事前に相談すべき内容だったってことですよ。ましてや月子さんや成宮さんは女性なのです、何かあってからでは遅いんです」

「うっ・・・」


月子先輩の思いもかけない反論に、戸惑いの色を隠せない会長。
追い討ちをかけるように青空先輩に痛いところを突かれ、ぐうの音も出ないようだ。


「とにかく、私は今回の提案は認めませんから!じゃあ失礼します!」


放送室を出るとき、悲しそうな表情の翼と目が合った。
抗議の一幕を、ただ一言も言葉を発することなくずっと見守っていた翼。
彼なりに意見があったとは思うが、私には彼の気持ちを汲んでやる余裕が無かった。
心の中で「ごめん」と謝りながらも、私は放送室を後にした。

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