第三十一羽 様々な想いが交錯する

いろんな意味で内容が濃かった「オリエンテーションキャンプ」もようやく最終日を迎えた。

初日と同じく、全員が体育館に集められ 閉会式が行われた。
式次第の進む中、教師やセンタースタッフから挨拶は寝不足な生徒達にとっては格好の子守唄に変わった。そこかしこから眠そうな声が聞こえてくる中、大多数の男子生徒はあることが気になっていた。


(・・・おい、成宮さんどうしたんだよ?)

(知らねぇよ・・・お前、何かしたんじゃないのか?)

(ばか言え。宇宙科最強トリオががっちりガードしてんだぜ? 出来るかよ)


天文科の列から、明らかに威圧感のあるオーラが発せられてその場の空気を悪くしていた。彗は昨夜の一件ですこぶる機嫌が悪く、朝から目が据わってイライラしていた。
その雰囲気に教師達が気づかないはずが無く、天文科一同は針の筵にでもなったような感覚に襲われた。


(・・・皆、ゴメン。でも夕べの顛末は話せないんだよね・・・一応、規則破りだから)


当事者の彗はわずかに残る良心で、心配してくれている皆に心で謝罪した・・・が、今の彗の表情を見て、彗が心の中で謝っているなど、誰が気づくだろうか?

一部殺伐とした雰囲気の中で閉会式は終わり、星月学園へ帰る時間が迫っていた。
クラスごとに荷物を持って体育館を出る指示が出る。生徒達が順番に体育館を出て行く中、天文科だけがその場に残るよう指示が出た。
一同は困惑しながらも、クラスの雰囲気が悪くなった事で叱られるのだと全員が覚悟していた。すっかり落ち込んでしまった一同を担任が見回してプッと噴出す。


「おいおい、お前ら、どうしたんだ??元気ないぞー??」


その一言に男子生徒たちから「だってよぉ・・・」と言わんばかりの視線が送られる。


「お前ら、この3日間、すっげー頑張ったんだってな! 成宮が他のクラスに分かれるトラブルもあって寂しかっただろー?」

「だからお前らにご褒美として・・・帰りのバスのペアを決めるくじを行おうと思う!!」


担任からの予想に反する言葉と提案に、天文科一同が沸き立った。


「うおおおお!!!! マジで!?」

「俺、絶対怒られるかと思った・・・寿命が縮まったぜ〜」

「今ので3日間の鬱憤が吹っ飛んだ! 俺、ぜってー成宮さんの隣をゲットしてやる!!」


怒号に近い歓声に、体育館から出て行く途中の生徒達は進路を変えて天文科の様子を見に向かう。いつの間にか天文科を囲むように人垣が出来ていた。


「なぁ梓、天文科のやつら、何騒いでるんだ?」

「さぁね。僕らには関係ないでしょ?さっさと・・・」


梓がそう言い掛けた時だった。


「おい、天文科のやつら、バスでの成宮さんの隣の席争奪戦をやるらしいぜ?」

「何ィ!? それは由々しき問題だ! 俺たちも戻るぞ!」


宇宙科のクラスメイト達もこぞって来た道を戻っていく。その様を立ち止まって見送る梓と翼はお互いの顔を見合わせた。


「・・・見に行く?」

「もっちろーん! 彗の隣は俺がゲットするんだぬん!」

「クラスが違うんだから無理でしょ」


クラスメイト達に倣って体育館に戻ろうとした時、傍に居たはずの昴の姿は既に無かった。


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天文科が乗るバスで、彗の隣の席をくじで決めるくじ引きが行われると聞いた俺は、すぐさま体育館に戻ってきた。
担任教師も余計な事をしてくれる。人の妹を危険な目に遭わさないでもらいたい。

俺が体育館に着いた時には既に結構な野次馬が出来ており、とても渦中の顛末を見られる状態ではなかった。
普段なら諦めて輪の一番外側に居る俺だが、今回ばかりは状況が違う。


「おい、通してくれ」

「ああ!? 邪魔すんな・・・」


シスコンモード全開よろしく、大魔王モードの俺に敵は居ない。俺の表情を見た奴等が自然にその道を開けてくれた。
俺が野次馬の一番前列にたどり着いた時、天文科は丁度くじを引いている最中だった。

その光景を見て、俺のこめかみにぴくっと青筋が立つ。くじを引かせている教師の中には、教育実習生の水嶋が居たからだ。
・・・こいつは女子生徒に手が早いと噂だ。東月先輩から聞かされていたが、昨年は夜久先輩にも手を出しそうになったらしい前科者だ。
何故こんな危険な教師が居るのか意味がわからないが、そいつも参加しているので俺は初日から気が気じゃなかった。

俺がそんなことを考えている傍で、天文科の生徒達が次々にくじを引いて行った。箱の中の黒と赤色で同じ番号が書いてあるので、それを頼りにペアが決まるようだ。
皆の注目は、彗がどの番号を引くかだ。次第に彗の番になり、周りの視線を一身に浴びながら、くじを引く。

が、彗はその場ではくじを開かない。
どうしたのだろうと様子を伺っていると、担任が彗を呼び出した。混乱を避けるため、教師達の方で番号を確認するようだ。
学年唯一の女子生徒を危険な目に合わせることは出来ないという配慮なのだろうが・・・おい、そこにいる水嶋、お前ちょっと近くないか?

水嶋は彗のすぐ傍に立つようにしてくじを覗き込んでいる。さりげなく肩に手を回しやがった!・・・あのもじゃメガネ!!
俺の予感は的中した。イラッとした俺が彗の傍に行こうとした時、予想外の人物が俺の横を素早く通り過ぎた。


(!?)


周囲確認の後、前方に視線を戻すと 天羽が血相をかえて もじゃメガネに近づき、彗の肩に乗った手を払っていた。彗を後ろ手に、もじゃメガネに向かって文句を言っている。


”俺が一生面倒見るからな!”


昨夜、天羽は俺にそう告げた。・・・まぁ、彗を守る気があるなら、それくらいの対応をしてもらわないと困る。
天羽の対応に俺がホッと一息ついていると、いつの間にか近くに来て居た木ノ瀬が水嶋を睨み、面白くなさそうな表情をしていた。

俺はそんな木ノ瀬に驚いた。・・・こいつ、何でこんな態度をとる必要がある?
彗に対する気持ちは、ただ興味がある程度なんじゃないのか?それならば、そこまで怒りをあらわにしなくてもいいだろう?
もしかしたら、こいつは・・・。俺は木ノ瀬に対して妙な違和感を感じずに入られなかった。


天文科全員がくじを引き終わった。各々でペアが決まっていき、順番に整列していく。全員が見守る中、彗がある一人の男子の横に並び始めた。


「「な!」」

「ぬあ!」


俺たちは驚愕した。彗のペアは・・・こともあろうにあの小熊だったのだ。

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