第二十五羽 それは不可侵であるべき存在

今日はクラスごとに特別講師が講義を行ってくれる日だ。

朝食を取りに部屋を出よう靴を履きかけた時、携帯からメールの着信音が聞こえた。
携帯を開くと、小熊くんからのメールだった。



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Date:2011/5/26 07:20
From:小熊くん
Sub :おはよう
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おはよう。よく眠れた?

グループ分けの都合で宇宙科
に行っている成宮さんが、
今日は天文科に戻って来れる
ってことで、天文科の皆が
朝からソワソワしてるよ。

そこで、代表で僕が迎えに行く
ことになったから、そっちに
向かうね。

ドアをノックしたら開けてね。


小熊

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「わ、小熊くんだ。昨日メール返さなかった! ごめん〜!」


メールが大好物なくせに、昨日はうっかり寝落ちして返信すら出来なかった。
彗はわたわたと返信ボタンを押し、メールを打ち始めた。


コンコン


「えっ!? あっ、はーい!!!」



思ったよりも早い訪問に、携帯を閉じながらドアを開けようとした。

が、

履きかけの靴で片方の靴紐を踏んでしまい、おもいっきりバランスを崩す。


「きゃあ!!!」


ゴンッ!


ものすごい音と共に床に尻餅をついた彗に驚いたドアの外の人物が声をかけてきた。



「ちょ、成宮さん!? 大丈夫?? 開けるよ?」



その声と共に控えめにドアが開けられ、小熊くんが顔を出した。ドアの前で座り込んでいる彗は、おでこと鼻を押さえていた。



「ど、どうしたの!?」

「〜〜〜っ! 痛った・・・! 思いっきり打った」

「どこ? ちょっとみせて」



小熊が彗を覗きこむ。彗は目を瞑りながら「ここー」とぶつけた所手で指し示す。



「あーあ、真っ赤になってるよ。腫れるかもしれないから冷やしたほうがいいかも」

「保健室行くー。星月せんせー」

「ここ、学校じゃないし。とりあえず食堂に行こ?先生は誰かしら居るだろうから」

「うん・・・・・・ありがとう」

「いえいえ。役得ってもんです」

「え? 何か言った?」

「ううん? 別に?」



小熊くんに立たせてもらい、一緒に食堂に向かう。学年で女子が一人というのはどうしても注目を集めてしまうものであるのに、加えて私は顔をぶつけて涙目ときている。噂が広がらないというのが無理ってものだ。

案の定、昴が血相を変えて走ってきた。



「彗! どうした!? ・・・って、小熊!? まさかお前、」

「ちょ、昴! 違うから! 誤解しないで?」

「成宮さんがドアに顔をぶつけたから、食堂まで付き添ってるだけだよ?」

「そ、そうか・・・それなら、って! 怪我の具合はどうなんだ?」


周りに生徒達が集まりだして、これ以上の騒ぎになるとまずい、と判断した私たちは、そそくさと食堂に入った。未だついて来る昴に向き直り、



「もー、心配しすぎ! ちょっと痛いけど大丈夫だよ。小熊くんが付き添ってくれるから天文科のテーブルに行くね?」

「ま、そういうこと。じゃあ行こうか?」

「お、おい、彗!」



慌てる昴を置いて、私は小熊くんと天文科のテーブルに合流した。



「成宮さん、おはよう! なんか久しぶり?」

「グループ分けが宇宙科のやつと一緒になっちゃったせいでもともとのクラスに居られないのは災難だったね」

「あ、これ、初日に天文科に配布されたプリント類だよ」

「みんな〜、ありがとう!」



先生からもらった氷嚢をおでこに当てながら、みんなの配慮が嬉しくてちょっと涙ぐむ。
隣に居た小熊君が「ど、どうしたの?」と声をかけてくれた。
大丈夫だと笑顔で返したら、皆、顔を真っ赤にしてびっくりしていた。
いやぁ、女子が少ないとこういう仕草もクリーンヒットなんだなぁ。
私は改めて女子一人という状況を把握した。



朝食の後、クラスごとの特別講義が始まった。


天文科の講師は国立天文台館長だった。
今天文台で取り組んでいること、天文現象における天文台の位置づけなど興味深い話をしてくれた。
殆どがそちらの道に進む生徒ばかりなので、今後の進路の参考になればといろんな資料も配布された。
私的に一番嬉しかったのは、国立天文台の職員だけが持てるという土星のボールペンだった。数本もらえたので、あとで昴たちにもあげようとウキウキしていた。


特別講義が終わったあとは、天文科は夕食の後、天文台に出向いて天体観測を行った。
50cm反射望遠鏡の操作説明や、ガンマ線バースト専用の自動観測望遠鏡についての紹介があり、実際にその望遠鏡で星を見たりした。
ここまで大きな望遠鏡で星を見ることはなかなか無いので生徒達は皆、興味津々だった。
ああ、お父さんとお母さんにも教えてあげたいな。学校に帰ったら、手紙でも書こう。



「・・・・・・あーあ、楽しい時間はすぐ過ぎちゃうなぁ」

「本当だよな。これが終っちゃったら、成宮さん、また宇宙科に帰っちゃうんだろ?」

「このままこっちにいてもばれないだろ?」

「流石にそれはバレるかな」



天文科の面々と天文台から帰ってくると、センターのロビーに居た翼が私の元に駆け寄ってきた。いや、”突進”してきた。



「彗ー! 会いたかった!!」

「うわ! ・・・っちょ、苦しい」

「「「「「!!!!!」」」」」



その光景をみた天文科の一同は固まってしまう。小熊くんに至っては、なんか怒ってるみたい。え、私何かしたかな?



「な! 天羽! 成宮さんから離れろよ!」

「そうだぞ、成宮さんが驚いてるだろ!」


そんな応戦に翼はしれっと答える。



「え、何で? 俺の彼女なんだからいいじゃん」



・・・・・・・・・・・・・・・



「「「「えええええええ!!」」」」



私を始め、天文科一同から怒号のような叫び声が響く。え、何? その設定。聞いてないよ翼さん。



「ちょ! 成宮さん、それホント!?」

「そんなのウソだああああああ!!」

「ウソだよね? ウソって言って! 成宮さああん!!」



や、嘘って言うか、私も驚いたよ! ・・・それに何か、皆、泣いてない?



「身に覚えが無いです」

「ぬあー! 酷いぞ彗!」



はーっ、とため息をついて、天文科一同はその場に崩れるように座り込んだ。そんな、大げさな。
しかしすぐに立ちあがって、翼に詰め寄っていく。つか、立ち直り早っ!



「さあさあ、天羽、成宮さんから離れようか?」

「宇宙科はこっちだぞ。一名様ご案内〜」

「ぬああ! 何するのだあああ、彗ー! 助けろおおお!」

「・・・いってらっしゃーい・・・」



私から引き剥がされた翼は、天文科の皆が連行していった。
いつも昴と居たから忘れていたけれど、女子が一人というのはクラスメイトに何かと心配をかけてしまう。
これからは、皆に心配をかけないように自分で自分の身は守れるようにしなきゃ! そう心の中でこっそり決意したオリキャン二日目。




そして宇宙科。

天文科から連行されてきた翼がクラスメイト達の集中攻撃を受けていた。


「あ〜ま〜は〜!!!」

「てめ、このやろう! 成宮さんを独り占めなんてずるいぞ!」

「何だお前は! 昨日の今日でこれかよ!漁夫の利って奴か?ええ?」

「ぬははは! 俺と彗は幼馴染だからな!」

「翼、幼馴染だけじゃ説得力無いよ」

「まったくだ。油断も隙も無い。」

「ぬ! 昴も梓もそういうこと言うなぁ!!!」

「「「・・・天羽に出来るんだ、俺達も・・・!!」」」


聞き捨てなら無いクラスメイト達の言葉に 昴がすかさず反応した。


「お前ら・・・・・・今何て言った?」

「ぬぬ! 彗は渡さないぞ!」

「僕も隙あらば成宮さんを奪いに行くからね、翼?」

「!木ノ瀬ェ! お前はまたぬけぬけと!」

「梓! そういえばこの前、彗に でこちゅーしただろ! 許さないぞ!」

「はは、そういうのを隙っていうんだよ!」


昨日に引き続き、クラスメイトを蚊帳の外に、昴と梓と翼が言い合いを始めた。



「「「ああ、やっぱり・・・・・・俺たちはこいつらがいる限り、成宮がさんとはお近づきになれない(泣)」」」

宇宙科一同から落胆の色を隠せないため息が再びもれたのは言うまでも無い。

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